「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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Nephrology Blogs

American Society of Nephrologyを含め、public awarenessを広めるためにfacebookなどソーシャルメディアを利用している学会や団体が増えています。今回はいくつか腎臓に関するブログを紹介したいと思います。
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1.Renal Fellow Network  
当時腎臓内科フェローだったNate Hellmanが創設し、驚異的な頻度で質の高いブログを更新していました。彼はアメリカ人としては珍しく海外での留学経験を持ち、非常に優れたPhysician Scientistで、将来の腎臓内科を担う人物として期待されていましたが、予期せぬ脳出血にて急逝しています。彼はzebrafishモデルを用い、ハーバードにて腎臓発生の研究を精力的に行っておりました。昨年のASNで彼のボスが講演の最後に故Dr. Hellmanの写真とともに謝意を表していたのが印象に残ります。現在このブログは現フェローやファカルティーによって維持されています。 

2.The Kidney Doctor
自分の知る限り、今世界で最も質の高い腎臓内科のブログです。Dr. Ajay Singhがほぼ毎日更新しています。彼は CHOIRをはじめ腎不全や貧血の分野における臨床研究で有名ですが、それ以上に教育者として腎臓内科に多大な貢献をしていると思います。ハーバードでのNephrology Board Review Courseの主催者であり、いくつかBoard Reviewに関する本も出版しています。
話がやや逸脱しますが、Dr. Singhはブログをうまく利用していると思います。彼のブログの総閲覧数は、会員のみしか閲覧できない腎臓専門のジャーナルに記事を一本書いた場合よりも、はるかに上回っていると思います。彼のブログの”Editorial”は、editorial without editで、あくまで彼個人の意見ですが、非常に考えさせられる内容に富んでいます。特に数ヶ月前にNEJMに掲載された透析の間隔に関するシンプルなスタディー
から派生したいくつかのブログ記事は、特筆にあたると思います。このスタディーの内容は腎不全患者とその家族を含め、透析に関わる全ての人に知っていただきたいと思います。1), 2), 3), 4)

3.American Journal of Kidney Diseases
最近はAJKDのようなジャーナルもブログを始めています。

4.Renal Association Education
UK発のブログです。

5.HemoDoc
Dr. Lairdは透析患者、医者としての視点を日々発信しています。彼はNextStageを使い、家で毎日透析しています(透析病院での週3回透析ではなく)。
他にもいくつも興味深いブログが存在しますが、その大半はRenal Fellow Networkのリンクにて含まれているので、そちらを参照してください。

波戸 岳
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SIADH (続)

血漿Na 115meq/Lの患者にNa 154meq/Lの輸液をすると血漿Naは上がりそうなものですがどうでしょう?SIADHでは比較的一定したADHの分泌があるため、尿浸透圧も一定しています。尿浸透圧が一定であると仮定し、生理食塩水1Lを投与すると、308mosmの溶質(NaCl)は453mlの尿に排泄されることになります。(308mosm÷680mosm/kg=453ml)
したがって、投与した生理食塩水1Lの残り547mlは自由水として体内に貯留することになります。
dark_urine.jpg
実際Naがどのくらいになるか計算してみます。
体内総溶質=total body water (TBW) x 血漿浸透圧
   =0.5(♀)x 60 kg x 2 x 115
=6900 mosmol
547mlの水貯留はTBWを30+0.547= 30.55Lにあげますので、上記式から逆算すると
血漿Na= 総溶質÷2 x TBW
= 6900÷61.1=113 meq/L
と生理食塩液投与前のNaよりも低くなることになります。SIADHにおいて血漿Naをあげるには、尿浸透圧よりも高い浸透圧の輸液をする必要があります。

では1026mosmol/Lと高浸透圧の3%NaClを1L投与するとどうなるでしょう?1026mosmolの溶質は1500mlの尿として完全排泄されることになります。(1026÷680=1.5L)したがって、3%NaClを1L投与するとnet自由水500mlを体外に排泄できたことになります。よってTBWは30-0.5=29.5となり、上記式から
血漿Na=6900÷29.5 x 2 = 117 Meq/L
とわずかですが、血漿Naをあげたことになります。これらの実験からNaの上昇を妨げているのは高い尿浸透圧であることがわかります。

では尿浸透圧をループ利尿薬を使用して300mosmol/kgに下げた状態で3%NaClを1L投与したらどうでしょう?同じように、1026mosmolの溶質は3400mlの尿に完全排泄されることになります。(1026÷300=3.4L)したがって、この場合net 2.4Lの自由水を体外に排泄できたことになり、TBWは27.6Lとなるはずです。よって
血漿Na=6900÷27.6 x 2 = 125 meq/Lとより効率よくNaをあげることができます。

SIADHで血漿Naを補正する際に気をつけるべき点は、尿浸透圧が高いと補正が難しいということです。

T.S
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SIADH

低Na血症でも管理が難しいのがSIADHです。
真のSIADHはコンスタントにADHが分泌されているので尿の浸透圧が高く一定していることが多いです。治療は自由水制限、最近はV2R antagonistもあります。ひどい場合3%NaClやループ利尿薬などを使用します。
1.gif
ここで例題をみてみましょう。

60歳女性、small cell lung Caの診断、意識障害で入院。体重60kg。以下のデータからSIADHと診断。
Plasma Na: 115meq/L,
Plasma osm: 240mosmol/kg
Urine osm: 680mosmol/kg
U-Na: 62meq/L
尿量:1L

問題:この方がeuvolemicであると仮定して、1Lの生理食塩水(Na154 meq/L: 308 mosm/kg)を投与すると血漿Naはいくつになるでしょうか?

このthought processは大事ですので、ぜひ多くの方のコメントお待ちしています。

T.S
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Crossmatch testing (I)

腎臓移植の際には、拒絶のリスクを減らすために、クロスマッチを必ず行います。Terasakiらが40年以上前に確立したcomplement-dependent cytotoxicity (CDC) クロスマッチが今でも必須です。ドナーの免疫細胞とレシピエントの血清を補体とともにかけあわせて、細胞がどの程度破壊されるかを評価します。表1のケースではT-cell, B-cell のcrossmatchとも陽性(溶血あり)です。ちなみにHLA typingの数字は私が任意につけたので実在するかどうかは保証できませんが、これは5/6 matchです。
Antibody.jpg
T-cell, B-cell crossmatchともに陽性のまま移植するのはリスクが高すぎます。レシピエントがドナーに対する抗HLA抗体を持っているために、移植直後に腎臓を失う可能性があります。一方で、このクロスマッチの結果には偽陽性の可能性も残されています。レシピエントがリンパ球に対する自己抗体を持っていて溶血をひきおこしているのかもしれません。一般に自己抗体はIgM抗体が主体と言われており(IgG抗体ではなく)、また、IgM自己抗体は移植腎の予後に影響を及ぼさないと言われています。IgM自己抗体の関与をチェックするためには、IgMのdisulfide bondsをdithiothreitolなどで還元してIgM抗体の作用を弱めてから、クロスマッチを再度行い、また、自己血清と自己リンパ球間でのauto-crossmatch を行うのが一般的です。表2はIgM自己抗体によるauto-crossmatch陽性例です。

次に、CDCクロスマッチ陽性で、IgM自己抗体によるauto-crossmatchが陰性であった場合の解釈です。これには
1) T-cell crossmatch (-), B-cell (-);
2) T-cell (+), B-cell (+);
3) T-cell (-), B-cell (+);
4) T-cell (+), B-cell (-)
の4通りが考えられます。

1) T-cell (-), B-cell (-): 陰性です。DSA (donor specific antibody)なしとみなして、移植に進みます。ただし、この陰性結果には、DSA が存在しているにも関わらずそのtiterが低いため溶血がおこらなかった、もしくはマイナーな溶血のみであった可能性(偽陰性)が残されます。

2) T-cell (+), B-cell (+): これはレシピエントがDSAを持っていると考えられ、移植は不可です。特にT-cell CDC陽性例は、Terasakiらのスターディーをはじめ、予後が非常に悪いことが知られており、移植は許されません。

3) T-cell (-), B-cell (+): 可能性のひとつとして、HLA class II に対するDSA がレシピエントの血清に存在していることが考えられます。HLA class I (A, B, C)は有核細胞全てに存在するのに対して、HLA class II (DP, DQ, DR)の発現は”主に”抗原提示細胞(B cells, macrophages, dendritic cellsなど)に限られています。なのでHLA class II に対するDSAは、B cellを破壊しても、T cellは破壊されません。
二番目の解釈としては、HLA class Iに対するDSA が存在しているに関わらず、B cellだけが破壊された可能性が考えられます。B cellはT cellよりもHLA class Iを多く発現しているため、特に低濃度のHLA class I DSAが存在している場合に、B cellだけが破壊されるということが起こりやすくなります。

4) T-cell (+), B-cell (-): 何らかのテクニカルエラーがあったと考えられます。この結果にはB cellとT cellとのviabilityの違いも関係しているのかもしれませんが、いずれにしてもT-cell CDC陽性のまま移植に踏み切ることは禁忌です。

CDCクロスマッチ陽性でも、実際にどんなDSA がどの程度存在しているかは、CDCクロスマッチのみでは判断できません。もしかしたらレシピエントが何種類ものHLAに対するDSAを持っているかもしれませんし、non-HLAに対するDSAを持っているかもしれません。そのため、多くの施設ではCDCクロスマッチと合わせて、フローサイトメトリーやsolid phase assayを使用し、どんなDSAが存在しているのかを確認しています(生体腎移植で時間的に検査が許される場合)。次回はこれらフローなどの検査結果を合わせた解釈について書いてみたいと思います。

波戸 岳
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Beer Potomania

先日、アルコール依存症の男性が意識不明で病院に搬送されましたが、血漿Na 103meq/L、血漿浸透圧220mosm/L、尿浸透圧500mosm/Lと真性の低Na血症を呈していました。ビールを一日30本以上飲み、ほかにも酒を飲むということです。診断は?Beer Potomaniaです。
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以前にも書きましたが、人は尿を最大50mosm/L程度まで希釈することが可能です。欧米人は平均10mosm/kg/日の溶質(タンパクやNa)を食事から取るとされます。したがって、75kgの人を例にとると750mosm/日の溶質をとることになります。ところが、酒飲みはあまり食べないので仮にその1/3の250mosmしか摂取したとすると、理論上どんなに尿を希釈しても尿1Lあたり50mosmの溶質を失いますから、5L以上自由水(ビールなど)を摂取すると、自由水過剰をきたし低Na血症を呈することになります。酒飲みのもうひとつの特徴は溶質の摂取が少ないほか、嘔吐や下痢などvolume depletionを呈しているので、非浸透圧性の抗利尿ホルモン分泌がみられ、さらに自由水を集合管から保持しようとするため低Na血症を助長します。これがBeer Potomaniaです。心因性多飲症の多くは食事摂取が十分あるので、多尿をきたしても通常、低Na血症はきたしません。ただし15L/日以上の飲水は上記理由から低Naに傾くことになります。

ADHは主に「血漿浸透圧」の変化により調整されますが、volume depletionがあると非浸透圧性のADH分泌がおこり、その分泌量は通常よりも強力とされます。したがって、Beer Potomaniaに生理食塩水(308mosm/L)を点滴すると、まずvolumeが改善しますので、すぐにADHの分泌が抑制され、尿から自由水の排出が起こり、血漿Naは上昇します。急激な血漿Naの上昇は、浸透圧の変化させ細胞内から水を細胞外に移行するため、Central pontine myelinolysisという不可逆性の神経障害を起こすので注意が必要です。したがって、こういった患者は、ICUで3時間おきに血漿Naと尿浸透圧の値をモニタリングしながら、生理食塩水などを投与し始めます。Naの上昇が早すぎる場合(血漿ΔNa>10meq/L/日)5%ブドウ糖液など自由水の投与に替えるなど調整が必要です。実際、この患者さんは3日で血漿Naが103→111→123→130meq/Lときれいに改善しましたが、2日目以降はほとんど5%ブドウ糖液を投与していました。ADHの抑制により、尿中の自由水の喪失が極めて早かったからです。

T.S
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Quiz

移植腎生検
診断は何でしょう?

Fig A, Fig B
Tx kidney.jpg
波戸 岳

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ESRD における高リン血症の治療

血中のリンは高いほど寿命が短いことが哺乳類ではわかっています。
PhosphorusBinder-Diet.jpg
人はリンを一日に約1g摂取し、多くは腸管で吸収され尿中から排出されます。末期腎不全では腎臓からリンを排泄できませんので透析で除去することになります。一回の透析でリンを1g除去しても、3回/週の透析では、4g/週の蓄積が起こります。したがって、週3回の血液透析患者さんのほとんどはリン吸着薬を必要とします。一方で透析を毎日行うとリン吸着薬を必要としないことが多いのはこの理由からです。(daily hemodialysis, CRRT, PD)
リンは肉などのたんぱく質に多く含まれます。植物性のリンはphytateとして存在しますが人はphytaseという分解酵素を持っていないため吸収できません。またタンパク豊富な牛乳にふくまれるリンは肉ほどよく吸収されません。

リン吸着薬は腸管でリンが吸収されるのを防ぎます。もっとも多く使用されているのはカルシウム製剤です。炭酸カルシウム(elemental Ca:40%)と酢酸カルシウム(elemental Ca:20%)とありますが、酢酸カルシウムは吸収されうるカルシウム1mgあたりリンを1mg吸収しますが、炭酸カルシウムはリンを0.57mgと約半分しか吸収しません(JCI)。したがって、酢酸カルシウムは炭酸カルシウムに比べ、カルシウム成分が半分であるものの、リンをより効率よく吸収する薬剤といえます。

もうひとつ大事なリン吸着薬は非カルシウム製剤(sevelamer, lanthanumなど)です。カルシウム製剤と比較したstudyはたくさんありますがDCOR study ではsevelamer7g/日とelemental Ca 2g/日(酢酸カルシウム70%、炭酸カルシウム30%)をESRD患者に投与し比較した結果、sevelamerはカルシウム製剤に比べ、血中リンやPTH値が高く、血中カルシウムとコレステロールが低かったものの、死亡率には影響がありませんでした。またこのmeta analysis でもsevelamerとカルシウム製剤の比較試験での死亡率に差はないとしています。これら大きなtrialの結果をふまえ、NEJMではリン吸着薬としてsevelamerやlanthanumはCa製剤よりも優れているというevidenceは不十分であるうえ、高価である分、リン吸着薬としてはCa製剤を推奨するとしています。

まとめると、同じカルシウム製剤でも炭酸カルシウムと酢酸カルシウムでは炭酸カルシウムは2倍もelemental calciumがあることと、リン吸着効率は酢酸カルシウムのほうがよいということ。これはKDIGOでは明記していませんがするべきです。現在sevelamerやlanthanumなど非カルシウムリン吸着薬とカルシウム製剤では予後に差はなく、高Ca血症がある場合を除き、ESRDの高リン血症の治療には薬価の低いカルシウム製剤を使用するべきであると思われます。

T.S
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Pendrin

Board Question
専門医試験では日常的に経験する疾患が広く問われるとともに、一生出くわさないであろう疾患も時々問われます。今回はそんな稀な疾患の一例です。

20歳女性、全身の脱力感を主訴に救急外来受診。既往にthyroid goiter。また、幼少時より難聴あり。数週間前に耳鼻科にて内リンパ水腫を指摘されhydrochlorothiazideを処方された。救急外来受診時血液検査:Na Na 130 mEq/L, K 2.0 mEq/L, Cl 80, HCO3 38 mEq/L, BUN 30 mg/dl, creatinine 1 mg/dl. 起立性低血圧あり。さて診断は?
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Pendred syndrome。Pendrin (Cl-HCO3 exhanger)の変異が原因でおこります(Nat Gnet, PNAS)。Pendrinの変異が甲状腺のI-のトランスポート異常や内耳リンパの酸性化をおこし、goiterや難聴にいたるといわれています。Pendrinは、腎臓においてはbeta-intercalated cellsのapical side(尿側)に発現しています。Alpha-intercalated cellsのbasolateral side(血管側)にもCl-HCO3 exchangerが存在しますが、分子レベルではPendrinと異なります。Pendrinは遠位ネフロンにてCl-の再吸収に重要な役割を果たしていると考えられていますが、Pendred syndromeの患者は通常、電解質異常をきたしません。Beta-intercalated cellsのCl-HCO3 exchangeの不全はparacellular pathwayや他のチャンネル・トランスポーターによって代償されているからだと推測されています。しかし、サイアザイドやループ利尿剤などでストレス(ボリュームのロス)がかかった際には、遠位ネフロンでのCl-の再吸収の代償ができず、上記症例のように呈することがあります。

いくつかのグループが高血圧の観点からPendrinとepithelial sodium channel (ENaC)の関係に注目して研究をおこなっています。例えば、アルドステロン投与によりENaC活性を刺激した際に、PendrinノックアウトマウスはENaCが十分に活性化されず、結果、ボリューム増加や高血圧をきたしません(Hypertension)。PendrinとENaCは相互に影響しあっていますが、Pendrinはbeta-intercalated cells、ENaCはprincipal cellsと、別々の細胞上に発現しており、どのようにcross-talkが行われているかは解明されていません(JASN, JASN, AJP Renal)。

臨床上、NaCl過多で高血圧がおこりますが、NaHCO3負荷では高血圧がおこりにくいことが知られています(NEJM, Science, J Hypertens, J Hypertens)。PendrinによるClの調整がこの現象に関係しているのではないか、と推測している人もいるようです。理由は以下のようです。
NaClを投与した場合、ENaCを介したNaが再吸収がおこるとともに、electroneutralityを保つためにPendrinを介したtranscellularなClの再吸収もパラレルにおこります。一方、NaHCO3を投与した場合、Pendrin経由のClの再吸収がおこらないので、ENaCによるNaの再吸収も結果制限されます。上記説明は現段階では根拠に乏しく、あくまで仮説です。NaCl負荷はPendrinを抑制し、逆にHCO3負荷はPendrin発現を増加させるので、長期的なPendrinの血圧やボリュームに対する影響は不明です。

波戸 岳
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ループ利尿薬が強力なわけ

ループ利尿薬サイアザイドよりも利尿効果が高いのはどうしてなのでしょうか?
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腎髄質の浸透圧は通常countercurrent multiplicationにより高く保たれていますが、ラシックスなどのループ利尿薬によりthick ascending limb (TAL) でのNaの再吸収が阻害されると腎髄質の浸透圧は当然下がります。したがって最終的に水の再吸収が行われる集合管でも浸透圧が下がるため、浸透圧勾配にしたがって移動する水は再吸収されにくくなる結果、尿量は増加します。ところがサイアザイドやスピロノラクトンなど遠位で作用する利尿薬は腎髄質の浸透圧に影響を来しませんのでループ利尿薬ほど尿量の増加が見られません。

ちなみに急性尿細管壊死(ATN)は近位尿細管やTALの障害ですので、ATNが回復する際に多尿が見られるのはTALでの尿細管細胞の機能が正常化してないため、ループ利尿薬同様、Naの再吸収阻害に伴う腎髄質の浸透圧低下が原因と考えられます。またサイアザイドはループ利尿薬に比べ低Naが多く見られますが、その一因としてこの機序が関与していると考えられます。

T.S
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Angiogenesis: Friend or Foe?

我々の体には大小無数の血管が走っています。その血管新生の調整に深く関わっているVascular endothelial growth factor (VEGF) は多方面で長年注目を集めています。中でも腫瘍領域においては、血管新生を抑制するVEGF阻害薬が、抗腫瘍薬として近年広く普及しつつあります。VEGFに対する抗体Bevacizumabや、VEGFレセプター以降のシグナルを阻害するSunitinibやSorafenibなど、いくつもの抗VEGF薬が市場にでており、我々腎臓に関わる者も、それらの薬の作用、副作用を知っておく必要があると思います (Lancet)。
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副作用:端的に言うと、抗VEGF薬はvascular healthを阻害するために、高血圧をきたします。薬の使用開始直後に血圧がはねあがることも少なくありません (Fig A: CJASN)。また、使用開始数週間後には高度の蛋白尿がでることも珍しくありません。これは糸球体のpodocytesにVEGFが高濃度に発現していることが関係していると思われます (Fig B: Am J Path)。さらに、thrombotic microangiopathyが抗VEGF薬により起こることも知られています (NEJM)。
血圧が高くなるのは、抗VEGF薬が効いている証拠でもあり、事実、血圧上昇が見られたほうが腫瘍治療の予後が良いという報告が散見されます (Ann Oncol)。 最近の臨床試験では、高血圧になるまで薬の量をあげるというプロトコールが存在すると耳にしました。

一方で、VEGFの作用を増したほうが病態の改善につながる例も多数あります。ここでは、腎臓内科医が関わる病態の一つ、preeclampsiaを例にあげます。Preeclampsiaは、血管新生のバランスがpro-angiogenicからanti-angiogenicに傾きすぎるために起こると考えられています。
健全な胎盤発達のためにはVEGFやplacental growth factorなどが必要ですが、pro-angiogenicに傾きすぎないように、胎盤からはVEGFのシグナルを減少させる物質も同時につくられています。このVEGFシグナルを減少させる物質は、一般にsoluble Fms-like tyrosine kinase 1(sFlt1)、もしくはsVEGFR1といわれ、端的に言えば、VEGFのレセプターが細胞膜から分離して浮遊しているようなものです (Fig C: KI, Circulation Research)。sFlt1が血中に大量に浮遊しているとsFlt1と結合するVEGFが増え、結果、細胞膜上に存在している(細胞内にシグナルを伝達することのできる)VEGFレセプターと結合するVEGFが減少することになります。つまり、sFlt1が増えるとVEGFのシグナルが減少します。
sFlt1, VEGF濃度とpreeclampsiaの発症には強い相関関係があります (Fig D: JCI, Fig E:, NEJM)。それゆえ、sFlt1, VEGFなどを測定してpreeclampsiaを早期診断できないかというスタディーも行われています(Am J OBGYN)。Preeclampsiaと他の病態(慢性腎不全、高血圧やてんかんなど)を鑑別するのに、これらの測定はもしかしたら有用なのかもしれません。
最後に治療です。sFlt1に対する抗体をつくりsFlt1を減らせばpreeclampsiaを治療できるのではないか、というのは皆思うところですが、実際に妊婦に対する新薬が認可される可能性は非常に低いです(大昔にOxytocinが認可されたのを最後に、アメリカではその後一つも認可をうけていないと聞きました)。そこで、ハーバードのKarumanchiらのグループは、コレステロール吸着膜を使用してsFlt1を取り除く方法(apheresis)を選択しました。彼らはsFlt1測定が既に認可されているドイツで共同臨床試験をしています。コレステロール吸着は、強くマイナスにチャージしたDextran Sulfate膜を使って、強くプラスにチャージしているApolipoBを吸着するのが原理です (Fig F)。 sFlt1はisoelectric pointが9.5と、生理的pH下にて強くプラスにチャージしている蛋白なので、ApolipoBと同様、Dextran Sulfate膜に吸着されます。つい最近のCirculationに最初の数症例の結果が発表されました (Fig G: Circulation)。

波戸 岳
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