米国腎移植の内情

ご存じのようにアメリカは資本主義国の最たるものですから、全てが数字(金)と直結しています。一定の収益を上げなければ移植プログラムを維持させることができません。移植件数が増えると病院への収入も増えます(腎移植内科医の給与が増えるわけではありません)。前述したように、一般の人々は「移植件数」と「どれだけ早く移植受けられるか」に基づいて施設を決める傾向にあるため、競争に勝つためにはハイリスク症例に手を出さざるを得ない状況になります。腎機能が芳しくない場合、腎移植内科医や移植コーディネータは患者さんの不満や苦痛と長きにわたり向き合うことになります。その一方で、移植件数のみを喧伝して“We are saving lives !”と喜んでいる管理職をみると、どうにもやり切れなくなります。大規模な移植施設だと風通しも悪くなりますからチーム内に軋轢が生まれ易く、内科外科を問わず医師の大量退職に繋がることもあります(手前味噌ですが、当施設では外科チームと常にコミュニケーションをとり適切に移植を行っていると自負しています。小規模施設の利点です)。

これまで色々述べてきましたが、結局死体腎移植が上手くいくかは運が全てという思いを強くしています(身も蓋もないですが)。グラフト予後予測因子の中でもKDPIと虚血時間がきわめて重要であることは論を俟ちません。「質の良い腎臓」を「タイムリーに」移植できるかどうかは運次第です。オファー応需の際、患者には予想されるアウトカムについて一通り説明し、手術を受けるか見送りたいか訊くことになっています。パーフェクトな腎臓であれば文句なしに手術しましょうと言えますが、困るのは質が微妙な腎臓の場合です。死体腎移植は不確定要素が多く、腎予後を明確に予測することは難しいからです。患者さんから「Whatever you recommend」と言われてしまうとこちらも困ってしまいます。移植に踏み切るのは簡単ですが、うまくいかなかった場合必ずしも再移植できるとは限りません。かと言って、移植を見送った場合、次いつオファーが来るかは予想出来ませんし、よい腎臓がオファーされる保証はどこにもありません。透析患者の生命予後には大きなばらつきがあり、例え今問題なく生活が送られていたとしても、オファーを断った場合、2-3か月後に移植可能な健康状態であるかもわかりません。結局移植に踏み切る場合が多いのですが、移植後腎機能が芳しくなかった場合、「もう少し待つべきだったかな」と思うこともあります。

グラフトロスが生じた場合、移植後年数に関わらずUNOSに報告することになっています。しかし、移植後1年から数年経つと多くの患者は地域の腎臓内科クリニックに紹介されていくことが多いので、報告されないことも多く、自施設の長期予後を把握することは容易ではありません。結局は日々の診療の肌感覚で判断するしかなく、ましてや一般の人々が実情を把握することは不可能に近いのです(一番いい方法は、そこで働いている人に自分の施設で移植を受けたいと思うか訊いてみることです)。殆どの患者は自分の居住地域近隣の移植センターに登録することになりますが、いい質の移植が受けられるかどうかは神のみぞ知るというところです。中には他州から移植のためだけに転居する人たちもいます。

繰り返しになりますが、移植に対する患者の期待と現実には隔たりがあります。ハイリスク症例を移植する大規模センターであれば、いっそのこと「当施設では移植腎の質は保証できないが、早く移植を受けられます!」と大々的に宣伝してしまった方がお互いスッキリしていいのではないかと常々感じています。

次回は典型的な腎移植の術後経過についてお話ししたいと思います。

GU



腎移植の量と質 その2

例えば、私のいる施設は腎移植を年間80件弱おこなっています。直近の腎臓1年生着率の全国平均は96.5%でした。つまり、移植後1年未満のグラフトロス(移植腎廃絶)を3件未満に抑える必要があります。当施設では同一ドナーから2個腎臓を2人のレシピエントに移植することが多く(mate kidney),これらレシピエントの腎機能はほぼ同じ経過を辿ります。うまくいった場合はいいのですが、質の悪い腎臓だと一気に2件グラフトロスを生む可能性があり、その時点でもう後がない、ということになるわけです。結果、当施設を含めた小中規模の移植センターは質が微妙な臓器の応需には極めて慎重にならざるを得ず、患者の移植待機時間は長くなる傾向にあります。


一方、大規模な移植センターでは移植件数の母数が多いため、1件あたりのグラフトロス/患者死亡が成績に与える影響はそこまで大きくありません。グラフトロスはそう簡単には起こりませんから、どんどんハイリスク症例に手を出すわけです。これが悪いことかというと必ずしもそうではありません。以前述べたように透析患者の予後が極めて悪い米国では、腎移植を「生活の質を上げるオプションとしての治療」というより、「絶対的に必要な救命医療」ととらえている側面があります。極端ですが、短期間でも透析を中止できるのならそれで万々歳、ということです。

しかし、患者さんにとってはどうでしょうか。

例を挙げてみます。67歳のAさんは3年間の腹膜透析歴があります。透析自体は問題なく行えていますが生活の質をあげたいと考え、移植を希望することにしました。Aさんの住む州には2つの移植センターBとCがあります。移植センターBは大規模センターで、移植センターCは小規模です。SRTRのウェブサイトでは、移植センターBはCと比べ件数が格段に多く、移植を早く受けられ、BとCの“1年腎生着率”は同等と示されていました。AさんはBとCの両施設に登録することにしました。1年後、センターBから腎臓が見つかったと連絡があり、そこで移植を受けることにしました。移植当日、腎臓自体は到着していましたが移植手術件数が立て込んでいたため、手術が行われたのは予定時刻の10時間後でした。術後合併症はありませんでしたが腎機能は芳しくなく、残念ながら1年半後に透析再導入となりました。腹膜透析カテーテルは移植時に抜去されていたので血液透析になりました。慣れない透析なので大変です。再移植を希望していますが、移植後の免疫感作によりCPRAが98まで上昇し、10年近く待つ可能性が高いと告げられました。

どうでしょうか。これは架空の例ですが、似たようなケースは数多く経験します。

移植件数が多いセンターは経験豊富なので、行き届いたケアが得られ、よい腎臓がもらえると思われがちですが、必ずしもそうではありません。移植件数が立て込んだ場合は手術が遅れるのでそれだけ腎臓の質が落ちますし、ハイリスク症例が多いと合併症も増えます。忙しいのでどうしても流れ作業になりがちですから、患者の満足度は必ずしも高くないのが実情です(これは私だけの主観ではなく、他の施設でも同様な傾向にあると確認をとっているので蓋然性が高いです)。

このように、移植に懸ける患者の期待と実際に起こることの間には大きな隔たりがあります。そのギャップを埋めるべく、移植評価外来では言葉を尽くして説明するのですが、移植がうまくいかなかった時の落胆は大きく、患者医療者ともにストレスを抱えることが多いです。

透析医療は高額であり、医療財政逼迫が全世界で問題視されています。米国政府は、出来るだけ多くの移植を行うようUNOSにプレッシャーをかけ続けています。しかし、野放図に移植を行っていてはプログラムの成績が悪くなりますから、質の微妙な腎臓については、適当な理由を付してオファーを断らざるを得ないのが実情です。

いい機会ですので、次回はさらに踏み込んで米国腎移植の内情についてお話します。

GU

腎移植の量と質 その1

腎移植の理想は「適切な質の腎臓を適切なレシピエントに」移植することです。特に死体腎移植のアウトカム(質)は地理的要因、患者的背景、そして各施設の特色が重要だと考えています。

1.地理的要因

米国は国土が広大なうえ病院の数が少なく、医療アクセスが日本に比べて物理的にも悪いです。僻地に位置する医療センターでは自宅から病院まで5―8時間かかるということもあります。その場合、緊急時は近隣の病院を受診しますが、移植内科医/外科医はいませんので転院を待つことになります。移植センターも常に満床であることが多く、転院に1週間以上かかることもあり、診断や治療の遅れに繋がります。電話で担当医とやり取りをし応急的治療を行ってもらいますが、限界があります。


2.患者的背景

米国では人種が移植のアウトカムを大きく左右します。私が以前勤務していたサウスカロライナは黒人の多い地域で、レシピエントの75%が黒人でした。肥満率が高く、心血管イベントなど多くの既往歴を抱えており、ハイリスク患者が大勢いました。現在勤務するハワイは殆どがアジア人なので痩せており、創部感染等の合併症が格段に少ないことに驚いています。


3.各施設の特色

米国には約250の移植センターがあり、移植件数には大きくばらつきがあります。施設の位置する地域も件数を左右しますが、それ以外にその施設がどれだけアグレッシブに臓器を応需するかが重要なファクターです。


件数(量)とアウトカム(質)のバランスについて考えてみます。理想は質のいいドナーからリスクファクターのない若年のレシピエントに移植するパターンですが、実際にはそうもいきません。前述したように、地域によってはハイリスクのドナーおよびレシピエントがどうしても多くなってしまうからです。

移植後のアウトカムはUNOSによってモニタリングされ、2年半ごとに各施設のデータが一般に公開されます(SRTR:Scientific Registry of Transplant Recipients)。SRTRウェブサイトでは、各施設毎にどれだけ早く移植が受けられるか、移植1年後(長期ではないことに注意が必要です)の生着率はどれぐらいかがデータ化されています。

レシピエントの生存率、腎臓の1年生着率が全国平均を下回ると、UNOSからの監査を受けます。成績が極めて悪い場合は移植プログラムの一時停止などの措置が取られることもあるため、全施設は移植件数と生着率/患者生存率を計算しながら移植を行うことになります。

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臓器分配と応需率の現状 その2

質のいい腎臓は小児や免疫学的に強く感作されている患者に優先的に分配されると述べましたが、感作の程度はCPRA(Calculated panel reactive antibody)という検査で計測します。0-100まであり、高値であるほどレシピエントは強く感作されていることを示しています。CPRAが20以上だと移植可能な臓器を見つけるのが困難になるため、患者はポイントが加算され待機リストの順位が上がります。CPRA100の患者は待機リストのほぼトップに載りますが、理論上全てのドナーに対し抗体を持っているため、10年以上待機する患者もいます。

しかし、CPRAはヒトが持つコモンなHLAに対する抗体価であることと、また多少変動することから、ドナーが比較的稀なHLAを有している場合には抗体が検出されず、移植が可能となります。KDPIが20未満の腎臓は、まず小児、そして全国規模でCPRA98以上の患者にオファーされます。

応需は時間との戦いです。臓器搬送時間、クロスマッチにかかる時間を勘案する必要があります。例えば、CPRA100の患者にオファーが来たとします。受け入れると判断をした場合、まず毎月検査されるレシピエントの既存のHLA抗体とドナーのHLAをコンピューター上でマッチさせるバーチャルクロスマッチを行います。これには数時間かかります。バーチャルクロスマッチが陰性でも、CPRAが極めて高いため、患者の血液に新規の抗体が産生されている可能性は排除できません。したがって、レシピエントとドナーの血清/血球を実際に用いたフィジカルクロスマッチをほぼ全例で行う必要があります。

それにはドナーの血液サンプルを取り寄せる必要がありますが、遠距離の場合血液サンプルだけを運搬(空輸または陸路)する訳にはいかないので、腎臓と血液サンプルを一緒に搬送することになります。この場合、搬送に数時間以上、フィジカルクロスマッチに8時間は要します。当然その間腎虚血は進行し、臓器の質は低下します。もしクロスマッチが陽性になった場合はオファーを却下しなければなりません。OPOとUNOSは新たなオファー先を探しますが、鮮度の落ちた腎臓を受け入れる施設は減りますので、最悪臓器廃棄ということになるのです。結局、費用対効果の観点から、地理的に離れた病院からのオファーの多くは自動的に却下せざるを得ないということになります。

ハワイは離島州なので、上記の理由から殆どの腎臓は州内で発生したドナーで賄われています。

次回は、「腎移植の質と量、両方を担保することの難しさ」についてお話ししたいと思います。

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臓器分配(allocation system)と応需率の現状 その1

ドナーから臓器を調達するのは病院ではなく、OPO(Organ Procurement Organization)と呼ばれる機関です。OPOは家族との話し合いなど臓器提供に関する準備全般と臓器の運搬を担います。意外かもしれませんが、移植外科/腎移植内科はこれらのプロセスには一切関与しません。ドナーが発生するとOPOはさらに上の機関UNOS(United Network for Organ Sharing)に連絡します。UNOSは複雑なアルゴリズムに則ってオファーする病院を決定します。自施設でドナーが発生しても、必ずしもその臓器を貰えるというわけではありません。臓器摘出予定時刻が決まっていることがあるため、オファーを受けた施設は臓器の応需を1時間以内に判断します。原則として、ドナー病院から半径250海里(約460km)以内に位置する施設にまずオファーされます。それらの施設が断った場合は、より遠くに位置する施設に順にオファーされます。理屈では、東海岸のあらゆる施設で断られ、最終的に中西部の施設が受け入れるということもあり得ます。しかし、その頃にはかなりの時間が経過していて臓器の質が落ちているため、結局は断られる、或いは手術が直前でキャンセルになることが多いのです。米国での腎臓の廃棄率は約20-25%に上ります。

オファーを断る理由は様々ですが、腎臓の質(心停止後提供、長時間虚血、KDPI高値)、クロスマッチ陽性が主な理由です。KDPI(Kidney donor profile index)とはドナーの年齢、クレアチニン、死因などに基づいて算出され、0-100%まであります。値が高いほど質が悪くなります。KDPIが0-20%の腎臓は良質な腎臓を必要としている患者(小児など)に優先的にオファーされます。KDPIが85%を超えると生着率が極めて悪くなることが知られており、患者の同意がない限りオファーされません。患者は移植評価外来でこのオプションを提示されます。これらの腎臓は移植後機能するかは不透明ですし、たとえ機能したとしても数カ月から数年で廃絶する可能性が高いです。唯一の利点は早く移植できるということのみです。患者が興味を示した場合はこれらのリスクを重々説明するようにしています。希望する患者の殆どは、維持透析がきわめて苦痛で、一刻でも早く透析が離脱できる可能性があるならそれに賭けたい、という方々ですが、中には十分に理解していない方もおり、カウンセリングの必要性を感じています。

GU

腎移植評価から移植を受けるまで

CKD患者やESKD患者が移植を希望する場合、まずは移植評価を行う必要があります。腎移植内科医と移植外科医が別々に診察し、それぞれリスクを評価します。評価基準の詳細は施設によって違いはありますが、心機能評価、悪性腫瘍スクリーニング、感染症スクリーニング、画像評価、ADL評価、社会的サポートの評価は必須です。移植評価外来では移植に関する一般的事項に加え、内科的リスク(糖尿病、感染症、悪性腫瘍)を重点的に説明します。殆どの患者は同意しますが、中には希望の意思を撤回する人もいます。移植はうまくいけば患者のQOLは劇的に改善しますが、深刻な合併症が起こった場合の心理的・身体的負担は大きいので、それ以上深追いすることはしません。希望があればまた受診してもらいます。

米国では外来や検査の予約に時間がかかり、全ての評価を終えるのに数カ月から半年、長いときは1年以上かかることがあります。評価が完了したら、移植選考委員会で最終決定をし、承認されれば患者を待機リストに載せるということになります。移植までの待機期間は年齢や抗体価など多くの要因が絡んでおり一概には言えませんが、大まかにAB型は3年、A型は4年、O型は5年、B型は6年です。原則待機期間は透析開始日、透析未導入のCKD患者では待機リストに載った日(GFRが20以下になれば載せることができます)から始まります。例えば、6年間透析している血液型ABの患者が待機リストに載った場合、数日以内に移植が行われるということもあります。これが、米国に行けば移植をすぐしてもらえるという誤解の一つです。実際は臓器不足は深刻な問題で、待機中に死亡する患者が多いのも事実です。特に、輸血や妊娠、過去の移植等で免疫が感作されている場合移植可能な腎臓を見つけることは困難で、10年以上待機してる人たちもいます。日本と比べ透析患者の予後が圧倒的に悪い米国では、移植医療は救命医療の一つと捉えられている側面があり、なるべく多くの透析患者をリストに載せるようすすめられています。しかし、移植の合併症の怖さを知っている身としては盲目的に全ての患者をリストに載せる訳にもいかず、ジレンマを抱えることが多いです。

移植リストに載った後は、年に一回の外来受診が必須となり、そこで新たなイベントがないか、移植の意思に変化はないか確認します。待機ステータスにはactiveとinactiveの2つがあります。例えば入院などで移植が受けられる状態でない場合、待機ステータスをinactiveに変更します。Inactiveの間は移植オファーが届くことがなくなりますが、待機時間は稼ぐことができます。状態回復の見込みなしと判断された場合は選考委員会で吟味され、待機リストから除外されます。

次回は、臓器分配の仕組み(allocation system)と応需率の現状について説明したいと思います。
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米国内科認定資格取得のための新たな(試験的)制度

米国内科学会(ABIM)は、内科認定資格取得のために、新たな制度を試験的ではありますが提供することを発表しました。

ACGMEの認定を受けた内科専門フェローシップを「優秀な候補者」として修了したものは、米国内でレジデント研修を行っていなくても、米国もしくはカナダの国外認定施設で3年間の内科研修を受けた医師であれば、米国内科認定試験の受験資格を得ることができるというものです。

「優秀な候補者」という概念がイマイチはっきりしていませんが、臨床のみならず、リサーチや教育で活躍した医師などのほか、人間性も大事だと想像できます。

昨今、腎臓内科のフェローシップは定員割れしている状況が続いていたので、これにより腎臓内科フェローシップへの応募者の増加が期待できます。

日本からもこの制度を利用して応募者が増えることを期待します。

受験資格取得のための試験制度の申請方法や必要書類など、詳細については、ABIMのウェブサイトをご覧ください。

三枝孝充

入院コンサルタント生活 フェローシップ 2ヶ月目

フェローシップ2か月目は入院患者のコンサルトからスタートしました。日本と違って内科が主治医となり、腎臓内科はコンサルタントとして治療をサポートする立場になるので、忙しさは自分がフォローしている患者の数と、その日に入るコンサルトの件数で大きく変わります。フォロー患者が20人を超える日もあれば、12~13人程度で落ち着く日もあり、自分は「White Cloud」(日本でいうあまり当たりが来ない人)として知られているので、比較的仕事量が少ない方かもしれません。

この1か月は引き続きSanta Claraの市中病院でのローテーションでしたが、とても学びの多い期間でした。やはり「フェローシップこそがアメリカ研修の醍醐味」だと実感し、こちらに来たのは正解だったと改めて思いました。

入院患者の半数は維持透析中の方で、様々な合併症で入院されており、その透析管理から多くを学びました。もう半分はAKIや電解質異常で、本当に多彩な症例を経験しました。HRS-AKIや右心不全に伴う鬱血・腹腔内圧上昇によるAKI、腎後性腎不全、抗がん剤によるirAE-AIN、Lupus、ANCA、移植腎のAKIなど、次から次へと「回転寿司」のようにやってくるので、丁寧に勉強する時間が足りないと感じるのが実態です。それでも、流されてしまわないよう、日々アンテナを張り続け、クリニカルクエスチョンを意識するように心がけています。

CRRTが必要な症例も1か月で6~7件はあり、これまでほとんど処方経験がなかった分、しっかり経験値を積めた気がします。何よりありがたいのは、指導医が1件ごとに丁寧なフィードバックやティーチングをしてくれることです。毎週交代する指導医それぞれから異なる得意分野の知識を吸収し、スポンジのようにどんどん成長していく自分を実感できるのが、本当に楽しい1か月でした。



新章スタート!スタンフォード大学での腎臓内科フェロー体験記1

いよいよ7月1日より、念願の腎臓移植内科フェローとして働き始めました。

思えば、初期研修2年目の初めの4月頃に北海道大学で腎臓内科をローテーションし、移植の患者さんを目の当たりにしたことがきっかけで、腎臓内科。そして8月には渡米の決断、後期研修を行わない選択をして、東京で浪人のような生活を送りながら、USMLEと米軍基地でのインタビューの準備を進めました。その後、湘南鎌倉で腎臓内科を本格的に学び、なんとか辿り着けたのが3年前の内科レジデンシーです。そしてそこから、アメリカ生活での良し悪しを経験し、いい意味で肝が座り、いざ腰を据えてしっかりと勉強できることが楽しみでしかたありませんでした。

スタンフォード大学と私の生活
スタンフォード大学は、サンフランシスコとサンノゼのほぼ中間に位置しています。別称で「The Farm」と呼ばれます。というのも大学が作られる前は牧場だったそうで、牧場主が開いた学校だったからとか。また、最近では花巻東の佐々木麟太郎選手が進学したことで名前を聞いたことがあるかもしれません。東のハーバード、西のスタンフォードと言われるように、アメリカでは知らない人がいない大学だと思います。日本の東大・京大のような感じでしょうか。なので、いい感じに学歴ロンダリングできるかもしれませんね(笑)。

スタンフォードがあるあたりは、まさに郊外といった趣で、高い建物は一切なく、遠くの山々がとてもきれいに見えます。私が住んでいるあたりはマウンテンビューという街で、名前の通り、きれいな山が見える穏やかな地域です。ニューヨーク・マンハッタンでの3年間は、喧騒、怒号、クラクション、救急車のサイレンと、文字通り眠らない街が私の知るアメリカでした。そのため、今こんなに穏やかに生活しているのが嘘のようです。毎日晴れていて、遠くの山々が見守ってくれている姿は、自分の故郷である十勝を思い出させます。日照時間が日本一長い十勝晴れの中、あの山々を見て通学していた頃に帰ったような気持ちになります。

アメリカでの研修スタイル
さて、スタンフォードでの研修は、外来のローテーションから始まりました。日本での研修では、どちらかというと「習うより慣れよ!」というスタイルでトレーニングを積んできました。他のプログラムはわかりませんが、往々にしてそういうスタイルの気がします。

しかし、アメリカではレジデントやフェローは、指導医が責任を持ってその医師をトレーニング期間中に一人前にすることを目的としています。というのも、2年間のプログラムを卒業すると、腎臓内科専門医を取得することができ、一人前の医師として完全に独り立ちして診療を行うことになるからです。そのため、この期間に基本的なことを一通り学ばなければいけません。

という前提があるため、例えば本日は午前中に透析の患者さんと話したり、データを見て透析のオーダーを調整したり、トラブルシューティングをします。午後は、指導医のクリニックに5人の患者さんが予約されています(「たったの5人!!!」と日本の先生はびっくりすると思いますが)。その患者さんを診察し、プランを考え、指導医にプレゼンをします。それを指導医が適宜修正し、指導してくれるという形です。もちろん指導医によってプレゼンで好まれるスタイルも違いますし、得意分野も変わってくるので、その辺りを見極めながら、一緒に働いていくという形です。とっても丁寧ですよね!!!治療についてこの論文は知ってるか、とかこのStudyではこういう患者が適応だったから、この患者さんには合わないかもね、などなど、そういうDiscussionをしながら学んでいきます。指導医は1週間ごとに変わるので、偏ったスタイルにもならず、自分の中で各々の先生から好きなスタイルを取り入れながら、自分の形を作っていくことができます

今後の挑戦
これまで2週間のローテーションをしてきましたが、毎日何かしら一つ以上の勉強するテーマを見つけられるのでとても楽しいです。特に、現在ローテーションしているサンタクララバレーメディカルセンターでは、ISPD(International Society for Peritoneal Dialysis)の北米支部の元会長であるDr. Saxenaのもとで週1回PD(腹膜透析)外来の患者さんを担当させてもらえます。PhysiologyやAnatomyの基本から処方、トラブルシューティングまで、包括的に学ぶことができる機会はなかなかあることではないので、このような機会を最大限に活用できるよう頑張っていきたいです。

来週はClinic Conferenceといって、30分程度の症例発表と勉強会が義務付けられています。先週に診断・治療した原発性アルドステロン症の症例を発表する予定ですが、複数の指導医が見に来てディスカッションをするので、しっかりと準備していきたいと思います。

タイムリーなことに、7月14日に原発性アルドステロン症の関連ガイドラインに関する重要な論文が発表され、勉強をするのにとても良い機会になりました。この論文では、高血圧の既往がある人には全例スクリーニングをすることが"Suggestion"(recommendationではない)されていました。とても勉強になりましたので、高血圧を診断・治療する方には是非ご一読をおすすめします。2016年ぶりの改訂という記載もあり、非常に注目されているようです。
https://academic.oup.com/jcem/advance-article/doi/10.1210/clinem/dgaf284/8196671?searchresult=1

外来ローテーションは全体のローテーションの中で「癒し」とされているので、朝8時までに病院に到着し、夕方5時ぴったりに帰宅できる生活が1ヶ月続きます。8月からはコンサルトサービスなので、怒涛の日々が始まるため、それに向けて心の準備をしています。

また、定期的にフェローの生活をここに残していけたらと思います。それではまた!

レジデンシーを経ずに内科専門医受験資格を得る方法 -faculty pathway-

通常、アメリカで内科専門医受験資格を得るには内科レジデンシーを修了することが必須です。しかし、一定要件を満たせばレジデンシーを経ずとも受験資格を得ることが可能です。これをFaculty pathwayといいます。

フェロー修了後、単一のアカデミックセンター(大学病院)で少なくとも3年間clinical facultyとして勤務すれば、それが内科レジデンシーの代わりとして認められ、内科専門医受験資格を得ることが出来ます。内科専門医に合格すれば、翌年以降の腎臓内科専門医受験資格が得られます。フェロー修了後日本に帰国予定ならば米国専門医資格は必要ありませんが、引き続き米国でアテンディングとして勤務する場合は、殆どの施設(特に民間病院)が腎臓内科専門医資格(または受験資格を有する)を採用条件にしていますので、内科専門医資格は必須です。私はサウスカロライナ医科大学で腎臓内科フェロー、腎移植内科フェローを修了し、その後同院で腎移植内科facultyとして3年間勤務していますので受験資格を得ることが出来ました。受験よりも前にハワイに就職先を異動する予定ですが、受験資格はかわらず保持されます。

以前のブログ内容にあるように、レジデンシーを経ずにフェローからトレーニングが可能かどうかは科に左右されます。循環器内科、消化器内科などの競争率の激しい科は内科レジデンシーが必須ですが、腎臓内科のように不人気でポジションが埋まらないような科はフェローからでも応募が可能です。IMGには狙い目だと思います。詳しくは各大学病院やNRMP(National resident matching program)のウェブサイトで確認することが重要です。

レジデンシーを経ずにフェロー修了した後、大学病院でfacultyのポジションを得る保証はありません。私の場合は腎移植内科フェロー修了後たまたま空きが出たのでそのまま同施設で勤務することが出来ました。腎臓内科は全国的に人手不足とはいえ、都市部の大学病院でfacultyのポジションを得るのは簡単ではない筈ですので、多くのIMGはフェロー中からポジションを探し始め、医療僻地の大学病院で勤務する印象が強いです。ポジションが得られなかった場合は、あらためて内科レジデンシーに応募する人もいます。

また、各州の医師免許応募要項を確認することも重要です。アメリカは州によって医師免許の応募要項が大きく異なり、申請から発行まで要する時間も違います。レジデンシー修了を必須とする州も多く、たとえ内科専門医を取得したとしてもレジデンシーを終了していなければその州では働けない、という事態も起こり得ます。医師の人手不足解消のため、2024年にテネシー州ではレジデンシーを修了していない外国人医師でも勤務可能という法律が成立しました。しかし、保険会社が認めないという理由から未だ医師採用には至っていないようです。とはいえ、レジデンシーを経なくとも内科専門医受験資格を得る方法があるということは知っていて損はしないと思います。

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