「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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Acute Kidney Injury, GFR

急性腎不全の診断をいかに迅速につけるかは、臨床腎臓領域の重要な課題のひとつです。以前にもふれましたが、例えば、CT造影剤によるAKIをきたした患者は、造影剤投与直後にGFRが低下しています。しかしながら臨床の現場では、実際にcreatinineの上昇としてAKIの診断がつくまでに数日もかかります。心筋梗塞時のEKG変化やtroponinのようなマーカーが腎臓領域にも必要です。
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数多くの基礎、臨床系の研究室がNGALやKIM-1といった“AKI marker”の研究に関わっています。Proteomicsとその周辺の技術を使った臨床研究は今後もさらに出てくると思われます。例えば、私の知っている限りでは、VA/NIH ATN Studyで最終的に透析に至って回復しなかった群と回復した群に分けて、保存されている血液や尿を”-omics”にかける計画があります。

Paul Palevsky, Mark Okusaらなど多くの著名人が指摘していますが、prospectiveな研究デザインであろうとなかろうと、creatinineの上昇をAKIの診断に用いる限り、多くの例で、本当の急性期を見逃していることになります。Creatinineの上昇が見られ、スタディーに登録された時点ではすでに進行したATNになっており、どんなインターベンションも”無効“になってしまうことが懸念されます(集中治療領域の臨床研究でよくあると感じています)。それゆえ、例えば今年KIにでたNew Zealand発のprospective臨床研究では、AKI患者を早期に捕らえるために、独自のbiomarkerの組み合わせを使ってAKIを定義しましたが、こうなると患者は本当にAKIだったのかどうかという疑問がでてきます 。ちなみに、この研究で使われたerythropoietinは動物実験では過去に多くのポジティブな結果がでています(動物実験では多くの場合、AKIをおこす前にerythropoietinが投与されていますが)。

リアルタイムなGFRを急性期臨床の現場で(ベットサイドで)測定できるようにしよう、という試みは何年も前から行われております。イヌリンのような糸球体を自由にろ過する物質と、分子量の大きいしばらくは血管内にとどまる2つの蛍光抗体物質を血管内に投与し、高分子物質の濃度から血液ボリュームを定義し、低分子物質の濃度低下速度からGFRを測定する、というのが大まかな原理です。コンセプト自体は20世紀前半から存在しています。蛍光抗体を付与した糖物質などを投与して、それを持続的に末梢静脈や皮膚などから測定できるポータブル機器は既に開発されており、現在ブタやラットなどを使って研究が進められています。当然この方法にはボリュームの定義などいくつかのpitfallsがあり、ヒトで臨床応用され、急性期のAKIの診断に使われるようになるにはあと何年もかかると思われます。ちなみに、GFRは正常腎でもかなりの幅をもって変動することが知られています(朝空腹時と食後など)。実際にGFRが迅速にモニターできるようになったら、腎臓内科フェローはICUから頻繁に呼ばれて大変なことになりそうです。

波戸 岳
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ループス腎炎 その2

ループス腎炎の維持療法は寛解状態を維持し、再発や再燃、慢性炎症に伴う臓器障害を予防するために行われます。免疫抑制剤は長期使用による副作用が問題になるためrisk とbenefitを患者さんの状態と照らし合せ選択するべきです。
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副腎皮質ステロイドはループス腎炎の維持療法には必須で、多くの臨床医はステロイドを1-6カ月の間にtaperし中止する場合が多いのですが、そういった効果を示したstudyは現在のところ示されていません。ただし、投与量の制限や長期投与による骨粗鬆症の予防薬の投与は行うべきです。寛解導入で頻繁に使用されるcyclophosphamideは維持治療では長期使用(6カ月以上)はIVや経口ともに避けるべきです。主な副作用は脱毛、出血性膀胱炎、膀胱ガン、早期閉経、生殖器障害です。

MMFとAzathioprine (AZA)はともにループス腎炎の再発や再燃を予防する有効な薬です。最近のOpen labeled randomized trial (MAINTAIN)ではLupus nephritis(ISN 3-5)の患者さんをcyclophosphamideで導入治療をしMMF(平均2g/day)とAZA (平均124mg/day)で維持療法を行い3年観察した結果、寛解維持率、再燃、ステロイド使用量に差はないとしています。一方、Aspreva Lupus Management Study maintenance resultsによると同じような設定で最大3年まで観察した結果MMFのほうがAZAと比較してrenal benefitがあったとしています。 MMFかAZAかの答えははっきりしませんが覚えておくべきことは、MMFはcylophosphamideと比較して感染症の合併が少なく薬価はMMF>>AZAであり、MMFは妊婦には使用できないということです。

ISN5は膜性腎症です。WHO分類のClass 5(WHO Vc Vd)は膜性腎症に増殖性変化(現在ではISN3か4に含む)を呈していた腎炎も含んでいたことによる理由から過去のデータを見るとLupusのクラス5の予後はさまざまです。最近のISN5におけるstudyは原発性膜性腎症と同じ治療法に準じています。このstudyは42人のISN5患者を1) steroid+ cyclosporine 2) steroid + IV Cyclophosphamide/隔月 3) Steroids (隔日)で治療した結果、1年寛解は1)83% 2)60% 3)27% となっています。MMFとIV cyclophophamideで寛解導入を比較したstudyのサブ解析によるとISN5の患者(84/510人)の寛解率、再発率、臨床経過に差はないとしています。

また興味深いことにMNだけではないですがネフローゼ症候群全般への効果が発表されているのがACTHです。蛋白尿を減らす機序は不明ですがこのstudyからもcyclophosphamideとACTHいずれもMNの蛋白尿を減少させたとしています。今後RCTがその効果のほどを証明してくれると思われます。
日本ではステロイド単独でも腎予後は比較的よいのですが欧米での結果はいずれも不良であることが分かっています。人種の違いからなのでしょうか?
そのほか、immunomodulatorは主にISN3や4を対象に適用されますがそれ単独では使用せずMMFやcyclophosphamaideなどに加えて相乗効果を試したものが大半です。B cell をターゲットにしたrituximubについては前述したとおりです。B cellではなくT cellをターゲットにした薬剤もループスにためされています。抗原提示細胞(APC)はT cellに情報を伝達する際、T cell receptorのほかco-stimulatory signalを必要としますがこのpathwayを阻害する作用をもっていて、リウマチに効果のあるabatacept(APCのB7へ結合)は現在2つトライアルが進行中です。

T.S
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Hypernatremia, Hyponatremia

中軽度の高Na、低Na血症は院内で頻繁にみられます。多くの症例はレジデントによって診断治療され、腎臓内科コンサルトとなる例は限られています。Pocket Medicineなどのマニュアル本には”公式”が載っていて、これらの式に従ってxx mEq のNaClが必要、とか xx ml/hの水 が必要、など計算したことがある先生方も多いかと思います。Naは細胞外に偏在した、細胞外のメジャーなcationです。それなのになぜこれらの” 公式”に細胞外volumeでなく、total body water volumeがいつもでてくるのでしょうか?
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一言で言えば、高Na、低Na血症は浸透圧の異常です。 [Na+]の値が体の浸透圧を反映するので[Na+]値をみる、と言っても良いのかもしれません。そして[Na+]値の異常(=浸透圧の異常)は通常(稀な病態を除いて)水の過多、喪失を反映します。NaCl量の過多、喪失の反映ではありません(これはvolumeの異常につながります)。

細胞内外を出入りする水により、浸透圧は細胞内外同じです。それゆえ[Na+] の補正イコール細胞内外の浸透圧の補正という図式が成り立ちます。したがってtotal body water volumeが” 公式”に使われるわけです。低Na血症で痙攣などの神経症状がでているときは3%高張食塩水を投与しますが、[Na+]値自体が問題なのではなく、神経細胞内の低浸透圧が問題と考えられています。繰り返しですが、NaはNa-K-ATPポンプにより事実上細胞外に偏在しています。そのため、高張食塩水は超過している細胞内の水を細胞外に引きつけ、浸透圧を補正するのに都合が良いので使用します。一過性に細胞内の低浸透圧を補正し神経症状を止めるためには、理論上はマンニトール等、他の物質でも可と言えます(もちろん実際の臨床では使用していませんが)。例えば、3%高張食塩水を投与して[Na+]値が110 mEq/Lから111 mEq/Lになっただけなのに神経症状がおさまった、というのは[Na+]値自体の改善でなく、水が細胞内から細胞外に移行して細胞内浸透圧改善したことが神経症状改善に寄与していると考えるべきです。

SickなICU患者や熱傷患者に高Na血症を伴った例で、色々理由があって[Na+]補正のための水をあげたくない、という旨のコンサルトを受けます。話を聞いてみると、多くの場合は[Na+]値の異常(=浸透圧の異常)とvolumeの異常(=塩分過多)の混同からきています。水もvolumeではないか、と言われれば確かにそうですが、与えた水は細胞内>>細胞外に移行するため、血管内に残るvolumeはごくわずかです(水のあげすぎにより心不全をきたす前に、超低Na血症になります)。浸透圧は細胞内外同じレベルに保たれなければならないので、水のみが間質にいくこともありません。当然、[Na+]値の異常とvolumeの異常という二つの問題はいかなる組み合わせでもありえます(hypo-, eu-, hypernatremia x hypo-, eu-, hypervolemia)。鑑別診断の観点からこの二つの異常は組み合わせて語られることが多いので、これが学生やレジデントの混乱のもとになっているのではないかと思っています。

波戸 岳
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ループス腎炎 その1

ループス腎炎の分類は以前のWHO分類から今は国際腎臓学会(ISN)/Renal Pathology Society Classification 2004 を使用しています。治療指針は腎臓組織所見により異なり、寛解導入治療と維持治療では治療方法が異なります。最近の新しいstudyを含めupdateされた良い記事がありましたので寛解導入と維持治療の2回に分けて触れてみたいと思います。
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ISNクラス1と2は腎予後が良いため免疫抑制治療は行いません。ループスの降圧にはレニン-アンジオテンシン系を阻害する薬剤が第1候補となっています(KDOQI) 。ACEIを使用した場合そうでない場合に比較して10年腎予後がよいとされています。

ISNクラス3と4(増殖性腎炎)の寛解導入治療にはステロイドだけでは不十分で、ステロイド+免疫抑制剤の併用を行いますがどういった免疫抑制剤が推奨されているのでしょうか?
Cyclophosphamideは有効であることが分かっていますが、IVか経口の是非は分かっていません。IVは血球減少、膀胱保護、コンプライアンスの観点から経口よりもよいといわれています。Cyclophosphamide IVパルス(0.5-1g/m2)/月 x 6ヶ月のみ行ったグループと上記の治療に加え、以後3ヶ月ごとにIVパルスと少量ステロイドを投与した場合、後者は再発が少なかったと示されています。その後のフォローで毎月のCyclophosphamideパルスに加えステロイドパルスを併用すると腎予後がよかったと報告しています。ですが予想通り、感染症、大腿骨頭壊死、心疾患、骨粗鬆症などの副作用が多かったわけです。

他の免疫抑制剤ではどうでしょう。最近のRCTではmycophenolate mofetil (MMF)の有用性が多く報告されています。このスタディーは半分以上が黒人ですが、MMFとcyclophosphamideで導入治療した結果6ヶ月の時点での寛解はMMF(52%)、cyclophosphamide(30%)であったとしています。そして、感染症の割合がMMFグループで少なかったことが分かっています。最近のRCTでも同様の結果が得られています。Activeなループス腎炎患者370人をMMF(3g/day)かcyclophosphamide IVにわけ6ヶ月治療した時点では寛解率(56.2% vs 53%)、腎機能や死亡率に差はありませんでした。
MMFと同様のanti-proliferativeであるazathioprineは寛解導入には有用でないことが知られています。

SLEの病態にはB cellが大きく関与していることはからB cellを減少させる、Anti-CD20 monoclonal 抗体Rituximubを使用したstudyが最近見られます。使用方法はSteroid、 cyclophosphamide、MMFといった免疫抑制剤に併用して使用することが一般的です。
実際一部のループス腎炎では有効性が報告されていますがこの二つのRCTからrituximubを加えたことによる有用性は証明されていません。ひとつは腎炎のないSLEでMMF/AZA/metethotrexate各々の治療に加え、それぞれにrituximubを加えた場合とそうでない場合でみた結果、差はないと結論しています。もう一つはループス腎炎において、MMF単独とMMF+rituximubで寛解と腎予後に差はみられなかったとされます。

Calcineurin inhibitor (CNI)も寛解導入に使用されます。Tacrolimusやcyclosporineは移植後の免疫抑制にはなくてはならないCNIですが、増殖性ループス腎炎にCNI+MMF+steroidといった移植後同様の組み合わせで使用した場合の有用性が報告されています。ISN 5(膜性腎症)に増殖性変化(ISN4)をきたしたactiveなループス腎炎患者40人をランダムにCNI+MMF+steroidかcyclophosphamide(IV)+steroidで治療した場合、6及び9ヶ月での寛解率および合併症の割合はCNIグループの方がよかったとしています。
以前ここでも少し書きましたが、ループス腎炎には血漿交換の有効性はありません。次回はISN5と維持療法について触れてみます。

T.S


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Bardoxolone methyl

ASNのLate-Breaking Clinical Trial SessionでBardoxolone methylの臨床試験結果(フェーズ2)が発表されていました。2型糖尿病によるCKD患者に使われ、eGFRがおよそ 30 ml/minから40 ml/minに半年以内で改善したそうです。Bardoxolone methylはいわゆるanti inflammation modulatorsのひとつで、Nrf2を誘導することが知られています。Nrf2は酸化ストレスを抑制するマスターと言われています。Nrf2 と腎不全に関する動物実験もこの記事のほかにも多く報告されています。
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糖尿病も腎不全も酸化ストレスが関わっているので、抗酸化薬を使用する治験が行われているのは納得ですが、まさかeGFRにこれほどの改善がみられるとは想像もしていませんでした。ちなみに実際のGFRは測定されなかったようです。また、記憶が正しければたんぱく尿は減少していなかったと思います。来年度にはこの薬のフェーズ3治験が行われるようです。個人的には組織学的な変化がみられるのかどうか、腎生検が気になります。いずれにせよ、臨床レベルでめったにブレイクスルーのでない腎臓領域で、こういったニュースはうれしいものです。また、daily dialysisとnocturnal dialysisの臨床試験結果はASNでの発表直後にNEJMに詳細公開されました。

波戸 岳
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ラシックスは一日何回処方していますか?

Lasix (Furosemide) はループ利尿薬ですが、その作用機序はヘンレ上行脚におけるNKCC2(Na-K-2Cl)carrierのCl-siteを阻害することにより尿中へNaClを排泄します。極量を使用した場合、糸球体からろ過されたNaの20-25%を尿中に排泄することができる強力な利尿薬です。またヘンレ上行脚はCa2+ がNaClの取り込みに伴って受動的に再吸収される部位であるため、ループ利尿薬の使用によって尿中Ca2+ 排泄も促すことも特徴です。
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ところで、ループ利尿薬をNa+の排泄目的で使用する場合注意すべき点は、通常1日1回の使用では、一日当たりの尿中Na+排泄量はラシックスを使用しないのと同じであるということです。この図は人に一日当たり270meq、120meq、20meqのNa+を摂取させ、ラシックス40mgを一日一回投与した結果を示しています。棒グラフは6時間間隔です。ラシックス投与前は、ほぼ尿中Na+排泄=経口摂取ですが、ラシックスを投与すると最初の6時間で尿中Na+排泄は急激に上昇します。ところが塩分を多く摂取(左グラフ)するほど以後Na retentionが起こり、実質の尿中Na+排泄は投与しない場合と同様になることが示されています。一方、極端に塩分制限をした場合(右グラフ)、尿中Naの実質排泄はラシックス1回でも十分に得られることが分かります。ループ利尿薬で十分なNa+排泄を達成するには
1) 塩分制限をすること(もっとも理想)
2) ラシックスを2回/日以上投与することが必要なことが分かります。
LasixはLasting six hoursからきているので、2回以上投与するようにできています。

ところで腎不全ではループ利尿薬の投与量を増やす必要があります。その理由は、ループ利尿薬は近位尿細管から分泌されヘンレ上行脚に達しますが、腎不全があると蓄積した馬尿酸塩などのorganic anionと競合しlasixの尿細管での分泌を阻害するためです。
腎不全では1回あたり最大160mg程度を一日3-4回まで増加させることによりよいレスポンスが得られると示されています。

T.S
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Urine Protein-to-Creatinine Ratio

尿蛋白の測定に24時間蓄尿でなく、スポット尿蛋白/Creatinine比をよく使用します。例えばこの比が3であった場合、その患者は一日おおよそ3 gramsの蛋白尿がでているととらえます。このurine protein/creatinine ratioは過去10年で非常に頻繁に使用されるようになったにも関わらず、この比がなぜ使われているのか意外に知られていないように思います。二つポイントがあると思います。
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1)人間のcreatinine排泄量は1 gram/day
我々人間は偶然にもおおよそ1 gram/dayのcreatinineを尿中へ排泄するため、これを分母にとったdimensionlessな比が成立します。もちろん体格、性別、人種などにより実際のcreatinine排泄量は多少前後します。体格の良い男性で24時間蓄尿creatinine排泄量が1.5 grams/dayだったとすれば、本当はurine protein/creatinine x1.5と1.5倍した比を使ってフォーローしたほうが正確なわけです。

2)Steady stateの理解 
このurine protein/creatinine ratioは腎機能が低下していても同様に使用されています。これはGFRが低下していても、おおよそ1 gram/dayのcreatinine排泄が維持されるというassumptionに基づいています。なぜGFRが低下していてもcreatinine排泄量が変わらないのでしょうか?血中creatinine値が上昇していれば、ろ過されて尿中へ移行するcreatinine濃度も上昇します。その結果、GFRが低下していても総creatinine排泄量は維持されるためです。非常にlooseな説明ですがこれがsteady stateという概念です。
我々のGFRが100/day、血中creatinine濃度が1、そして筋肉などからのcreatinine産生量が一日100だととします(Day 1、例えばの話なので単位は無視してください)。これで一日のcreatinine産生量と排泄量が釣り合っています(下表)。ところが、GFRが100から20に低下した場合、その日の尿中へのcreatinine排泄量は20のみになります(Day 2)。一日creatinine産生量100は変わりません。その結果、余分なcreatinine 180が体に残り、血中creatinine値が上昇します(Day 3、Cr 2という数値は任意)。しかしながら、下表のように、やがては一日creatinine産生量と排泄量が一致して、血中のCr濃度上昇がストップします(at the cost of high serum creatinine)。
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このsteady stateという概念は非常に大切だと思います。例えば、CT造影剤によるAKIでは通常数日後にcreatinineが上昇します。多くのレジデントは、造影剤投与後、腎機能が持続的に悪化しているのでcreatinineが徐々に上昇してくると思っているようです。しかし実際には、CT造影剤投与直後に一気にGFRが低下して、GFRはその後プラトーに近い状態になっていると考えられます。Steady stateを理解するのに良い例だと思い、ここにあげてみました。

波戸 岳
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Salt Secretion(MDIBL: Origins of Renal Physiology)

Origins of Renal Physiology のコースでとても印象的だったのがsalt secretionのモジュールです。一般的に海水魚は主に塩を排出し、淡水魚は水を排出することにより周囲環境から身を守っています。海水の浸透圧は1000 mOsmと高く、魚(bony fish)はえらから塩水を分泌してこの浸透圧下に適応します。ところがサメやエイなどのElasmobranch(軟骨魚類)は塩水を主にCl-チャネルを有するrectal glandから分泌します。
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Rectal glandはとてもユニークな構造をしています。血管側(basolateral)に NKCC2 transporter、Na-K-ATPase、K チャネル、CNP(C-naturetic peptide)などいくつかのトランスポーターやレセプターがありますが、分泌側(apical)にはATP依存性のCFTR(Cl-チャネル)しかないため、Cl-分泌の重要な実験モデルとなります。またこの器官は一つの動脈と静脈でfeedingされているため扱いやすいという利点もあります。
ここではdogfish sharkのrectal glandを摘出し、adenyl cyclaseやphosphodiesterase:PDE阻害薬を投与することによってATP↑からCl-の分泌を観察しました。また、NKCC2はループ利尿薬、Na-K-ATPaseはOuabain、Kチャネルは臭素で阻害可能ですから、こういった薬剤を投与することによって腎臓に存在する重要なトランスポーターの機能を見ることもできます。

軟骨魚類の多くは血漿の浸透圧が海水と同様に高く、ureaは350-400mOsmと極めて高値です!これは海水の高浸透圧環境から身を守るためですが、尿毒症の症状はないのでしょうか?実はこの高いureaは軟骨魚類の細胞が正常に機能するためには必須でることが分かっています。すなわち浸透圧をurea以外で高く保った環境においても細胞は正常に機能しません。きっと彼らには、高いurea濃度を要しかつそれから身を守る物質があるのでしょう。これが何かを解明できれば人の尿毒症の治療に応用できるかもしれないですね。それとも、ureaは尿毒症物質ではないのかもしれません。

Bull sharkやAtlantic Stingray (エイ) は海水のみならず淡水でも生きていけます。彼らは淡水環境(浸透圧の低い)にいくと、浸透圧差から水分をより多く吸収しますが、腎臓(糸球体と尿細管)が頑張って水を排出していて、rectal glandの機能も極めて抑制されます。Bony fishと違い、軟骨魚類は体液管理に関しては腎臓が大きく関与していることが分かります。Bull sharkは淡水で産卵しますが、これは他のサメから子供を守るためとされています。塩水、淡水の両方で生きていける環境適応機能の高い魚は生存能力が高いのです。

T.S
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MDIBL Origins of Renal physiology: Fluorescence microscopy

一週間の限られたコースで多様な実験系に触れることができるように、モジュールにより様々な工夫が凝らされていました。中でもfluorescence microscopyは多くのモジュールで使われました。
1)蛍光標識を付与したイヌリンによるGFRの測定
2)蛍光標識+Na+/phosphate co-transporter (NaPi-IIa)を移入したcell lineを使用。NaPi-IIaのtraffickingを観察しました。ここではPTH、ドーパミン、actin阻害剤などを使用しました。
3)Chloride sensitiveな蛍光標識を付与したNaKCCトランスポーターを移入したcell lineを使用。ここでは細胞外の電解質や浸透圧をかえて、細胞内のCl濃度の変化をみました。細胞内Cl濃度や細胞内ボリュームの変化などがNaKCC1の活性化に影響を及ぼすことが知られています。
4)3)の実験系ではさらにFluorescence Resonance Energy Transfer (FRET) も使用。NaKCCのN-末端のアミノ酸の位置の変化に伴い、トランスポーターが活性化/不活性化するのを、FRETを使い示していました。

FRETの詳細は、スペースの都合上今回省略しますが、非常にneatな技術で、まさかMDIBLで使われるとは予想していませんでした。Confocal microscopy, multiphoton microscopyなど蛍光標識を利用した技術は広く使われているので、今後また触れることになると思います。今回は一例として、two photon microscopyを使用した生きたマウスの腎尿細管をアップロードしてみました。最初のムービーはstackとしてとった写真をVoxxというフリーのソフトウェアを使い3次元化したものです。核をHoechst(青)で染めた以外はautofluorescenceによる色です。


2番目のムービーでは、全く同じフィールドを使ってイヌリン(黄色)を頚静脈に投与、その数秒後に低分子デキストラン(青)を投与しました。間質はperitubular capillaryによってほぼ全てが占められ、血球が勢いよく流れているのがわかるとおもいます。


波戸 岳
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小児の肥満増加と高血圧

以前アメリカ人の肥満の多さについて触れましたが、こんなニュースがあったので紹介します。
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もともと、ウェストバージニア州の人は一般のアメリカ人口より心疾患による死亡率が20%も高いといわれていますが、その実態を調査したCARDIAC (Coronary Artery Risk Detection in Appalachian Communities) というスタディーから分かったショッキングなことは、この地域の小学校5年生の2割は高血圧だということです。このうち肥満児の高血圧罹患率は33%とさらに高く、小児の肥満増加とそれに対して小児の生活習慣病要素 (血圧、血糖、脂質) のスクリーニングや食生活の改善の必要性を強調しています。
日本で小学校5年生の子供が糖尿病を発症したら誰もが1型糖尿病を想像するでしょうが、アメリカの実態は1型だけではなく2型糖尿病がかなりの割合で増加傾向にあります。彼らのほとんどに家族歴もありますが、すでに体のサイズが大人と同じかそれ以上であることが多く、生後から幼児期にかけての食事の重要性を感じます。
健康な食事に興味を示す人もいれば全く興味ない人とさまざまですが、食育の重要性をこの国でどう広めて行けるかというところなのでしょうが難題は山積みです。CDCは塩分に関して、塩分摂取量を9g程度 (ナトリウム換算2.3g)を推奨していて、40歳以上、高血圧歴、黒人のいずれかである場合(アメリカ人の2/3はこれに当てはまる)は6g (ナトリウム換算1.5g)に抑えるべきとしています。
この塩分制限を行動に移した都市がいくつかあり 、CDCはその都市に対しawardを出したようです。
実際にどのようなことをするとかまだその結果は出ていませんが、受賞条件はCDCにはこのように書かれています。Activities could include working with restaurants and food service suppliers, grocery stores, schools, hospitals and government facilities to develop low sodium food policies, and media campaigns to help raise awareness of the dangers of too much sodium in the diet.

はたしてうまく行くでしょうか? Processed food (冷凍食品、缶詰、その他ファストフード) への塩分制限が最も有効なのでしょうが、やはり食事量の多さが問題です。 基本的には食べる量を減らすと塩分のみならずカロリーの接種も抑えられるので、レストランのお皿にのる食事量を減らせば(お代も減らす)よさそうですが、アメリカでこの概念を受け入れてもらうには時間がかかりそうです。なにしろ、アメリカのレストランガイド誌のZAGATの高評価をもらうには質だけではなく、量がアメリカ人のおなかを満たさないとダメといわれていますので。。。

T.S
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