「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

   日本・アメリカそれぞれの話題をお届けします日米腎臓内科ネット
<< May 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

The More the Better?

一般に透析量が多いほうが、少ないよりも予後が良いと考えられています。その根拠となる代表的なスタディーとして2010年にNEJMに発表されたFHNトライアルがあげられます。(1)
最近、同FHNトライアルグループがKidney Internationalにcontroversialなデータを出しました。Frequent hemodialysis(週6回透析)は、週3回の通常透析よりも、残腎機能の低下に至る、という結論です。
homehemo.jpg
透析導入後も残腎機能を維持することは、様々な合併症を減らすうえで重要です。また、一部の医療従事者の中には、透析はすればするほど良いという信仰があるのも否めません。ゆえに、このFHNのデータはきちんと吟味される必要があると思います。
頻繁透析が残腎機能の低下に至る原因は”よくわからない”とのことで、もしかしたら長時間透析中に(記録されてはいないが)血圧が下がっていたのではないか云々、と憶測が書かれています。個人的には透析で老廃物だけでなく腎臓を保護する物質まで透析で取り除いてしまったのでは?と妄想してしまいます。

波戸 岳
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

Salt and Beyond

塩分過剰摂取は高血圧をはじめとする様々な病態に関係していますが、塩分過剰は免疫系にまで影響するそうです。
burger.jpg
最近のNatureジャーナルに、塩分過多が免疫細胞に影響を及ぼすことを、2つのグループが報告しています。どちらのグループも、Na+濃度を血中正常値から少し上げると、炎症に関わるTH17細胞が増えることを示し、その結果、Na摂取過剰が免疫疾患に寄与する可能性を示唆しています。[文献1, 文献2] この論文を読んで知ったのですが、血中のNa+の濃度は140 mMであるのに対し、間質、リンパ組織ではNa+濃度は160 mMから250 mMなのだそうです。この濃度の違いははたして、体内でのリンパ球の活動に直接影響を及ぼしているのでしょうか?
他の病態においては、Na+だけでなくCl-も強く関与しているかもしれません。 特に昨年末にJAMAに発表された論文では、生理食塩水(Cl- unrestricted)か”Cl- restrictive IV fluid” (Lactate Ringerなど)を使用した場合での腎不全発生との関係を調べており、興味深いものがあります。

波戸 岳

固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

教育方法の違い

日本の大学入試の多くは点数至上主義に代表されるように、一発入試で良い点数を取れば合格。一方でアメリカの大学入試は、学校での成績、共通試験の点数のほか、ボランティアを含めた学外活動の経験、校内外での賞の有無そして入学後にどうしたいかやどう貢献できるかなどをエッセイや面接を通して表現できるか?ということが大きな判断基準になります。日本でのみ教育を受けてくるとこういった米国式の選抜方法に対応出来ません。どうしてでしょうか。
SchoolClass.gif
教育法には「pedagogy 」と「andragogy」があります。前者は「権威依存型、つまり先生に大きく依存し、通常教室での集団教育を特徴とし、生徒個人の経験はそれほど大事ではなく、subject centoredすなわち、生徒は「What should I know?」というスタンスをうみます。悪い言い方をすると、試験に出るsubjectを探し、それ以上のことを考えようとしない状況を生む可能性があります。Pedagogyは教育上必要な過程ですが、基本的には低年齢層への教育方法です。一方andragogyは、生徒に独立性をもたせ、教育の場では教える方も教わる方も平等、少人数での対話を含み、生徒は問題提起によりモチベーションを覚え、個々の経験は非常に重要な学習のリソースとなり、そこからproblemを見出し、performance centoredすなわち「what do I do?」という状況をうみます。この環境を作ると生徒は次から次へと問題提起し学んでいけるのです。これが高等教育以上に必要とされる教授方です。

教育現場には「pedagogy 」と「andragogy」両方必要ですが、米国の良い学校ではこの後者の教育方法が小学生レベルですでに導入されていることが多く、こういった生徒は高校を卒業するころには、知識の習得と理解におわることなく、それをどう自分へ適応していき、どう自己分析および評価していくなど、幅の広い能力や技能を身に付けられる可能性があります。Ivyリーグに代表されるような良い大学に入るためにはこのandragologicalな環境での教育を受けることは非常に大事で、日本の多くの学校ではないことです。これが日本と欧米の学生のレベルのcreativityに差を生むひとつの要因であると思いますし、日本の教育のきわめて大きな欠点であると思います。

あと数年で開校すると言われているハーバード大学レベルでかつ学費が半分以下のオンライン大学Minerva Projectは世界からエリートを選抜し未来のリーダーを育成しようとする個人的にとても注目しているプロジェクトです。ここはまさにandragogyを重視した大学で、知識詰め込み型の教育を受けた人たちには難関となるでしょう。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

腎臓内科医がいなくなる?

腎臓内科のフェローシッププログラムは全米で148あり400以上のポジションがあります。2013年7月スタートのポジションを見るとマッチング率が77%だったそうです。この内訳をみるとAMG(アメリカ医学部卒)は25%程度でほとんどがIMG(外国医学部卒)であることがわかります。AMGはみなマッチしそうなものですが、高望みをしすぎたのか、驚くことにマッチしなかった人の6%はAMGだったそうです。ただし全体として、腎臓内科医になろうとする人は主にIMGであることがわかります。http://www.nrmp.org/
Immigration2.jpg
ところが最近医学部の増設がどんどん進んでいることと、経営悪化などの理由から病院が閉鎖されレジデンシーポジションが減少していることにより、なんと2015年にはAMGの数が米国のPGY1レジデンシーポジションの数を上回ると見られています(文献)。IMGにとって臨床留学への門がますます狭くなる一方、専門研修を行うためには、レジデンシーを前もって行うので、腎臓内科のようにIMGに大きく依存するsubspecialtyは今後どうなるのかまったく予想がつきません。

プライマリーケアやER医はもっと必要とされている中、最近の内科レジデンシー修了後の進路で人気なのが入院患者を専門にみるhospitalistです。多くは7 days on 7 days offというスタイル。12時間勤務を7日連続して7日offになる。良さはOnとoffがしっかりしていることですが、患者数によっては非常に大変で、12時間で終わらないことも多々あり、精神的にも体力的にもかなりきつい仕事であると経験者は語ります。

研修制度はどこも良さ悪さがあるわけですが、アメリカの学生の人気がいくつかの科に集中していることや医学部の増設に伴う研修の質の低下が懸念されるなど、アメリカの臨床研修制度には問題がたくさんあります。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

臨床研究の難しさ

昨年発表されたTempoスタディーはTolvaptan(V2R antagonist)が多発性のう胞腎の治療に有効性がみられたというもので、腎臓の分野ではとても明るい話題だったと思います。臨床試験が中止されず、かつpositive resultが見られることは非常に難しいのです。臨床医なら大事な臨床試験の結果はどうであれ知りたいと思いますが、クリニカルトライアルは現在、clinicaltrials.govへの登録が必須になっているにもかかわらず、その半分以上は様々な理由から出版に至りません。これは驚くことに、NIHスポンサーのトライアルでも同様の事が言われています。
warning.jpg
治験薬の有効性がないため試験半ばで中断された例として上記のTempoとともに発表されたAltitudeスタディー
を見てみます。レニン・アンジオテンシン系阻害が糖尿病性腎症の進展を遅延させることはここで書きましたが、この試験は8000人以上にも及ぶ糖尿病患者にレニン阻害薬(aliskiren)を、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)に加え投与した場合とそうでない場合とで比較しました。結果は残念ながら併用したグループの方が生命予後、心血管系、腎臓のイヴェントすべてにおいて悪化の傾向があるということから試験は中止されました。ただしこの結果をよく見てみると、レニン阻害薬はその働きをしっかりと果たしているのです。このsupplementのfigureS3をみるとレニン阻害薬を加えることで血圧は下がり、カリウムは上がり、蛋白尿も下げたのですが、腎機能の改善に至らずむしろ心血管系イヴェントを増加させてしまったわけです。

数々の研究とスクリーニングを経てBenchから臨床試験へと登場する薬たちですが、このように細胞や動物、人での小さな臨床研究で効果が見られても、大きな臨床試験で使用するとその利点みられないということは多々あります。今回のstudyではレニン阻害薬を加えた薬効が本当になかったのか?とういう質問の答えはでないでしょう。しかしstudyデザインは本当に良かったのかということは次につなげるためにも議論の余地がある気がします。いままでのpreliminaryデータからAliskirenは糖尿病性腎症で良好な短期成績を収めていました。薬の拡大適応を狙った策からか、腎機能も血圧も蛋白尿も正常に近い人もこの試験では含まれていることを考えると患者層を広げすぎた可能性はあります。すなわち、正常の腎機能患者にあえて2剤もRAS系阻害薬を投与するべきかということです。ACE阻害薬・ARBに加え、レニン阻害薬の追加効果を最も必要としているのは蛋白尿の多いネフローゼ症候群の患者さんだと思います。正直、腎臓内科医としてはこの患者層へのレニン阻害薬の追加効果を知りたいですよね。残念なことに一般的に、ここまで時間・労力・お金をつぎ込んだ大きなネガティブトライアルのあとに、こういった小さな患者層に臨床試験を行うことはまずないと考えられます。FDAがこの薬にブラックボックス警告を設定してしまうと、使用すらできなくなってしまう恐れがあります。
治療薬の開発と臨床への適応はとても難しいです。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

日経おすすめ記事

日本の若者たちよ、慣れ親しんだ環境から世界へ出よう
MITメディアラボ 石井裕さんインタビュー


http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0700O_X00C13A1000000/

日経新聞からとても良い内容ですのでぜひ読んでみてください。

日本からの留学生が減少しているのは、外へ出る必要性を感じないことが大きな原因ですがこのぬるま湯環境は今後、冷え風呂になる可能性もあり、その時にあたふたしても遅いわけです。

この記事の中で特に共感するのが
「MITでは女子が半分以上を占め、教授にしても、できるだけ多様な人種に対して広く門戸を開こうと努力しており、同じ実力であれば積極的に女性や黒人、全く異なる世界から来た人などマイノリティーを採用する。価値観の異なる人々がぶつかることで、知の創造性が活性化されるという信念を持っていて、
同じような考え方の人がいくら集まっても変革は起こらない」ということ。そして、200年後を考えて働く。はるか先の未来を考えながら仕事をして、時空を超えることで、単に忙しいだけの日々から逃れられます。スケールの違う考え方で身が引き締まる思いです。
さる.jpg
日本の若い人たちは、ぬるま湯にはあえてつからず、多様な文化、人種、価値観の混在する環境に身を置き、広く柔軟な考え方や感性を磨くことが大切です。そういった研ぎ澄まされた感性は、変化の激しい今の時代への適応能力を向上し、かつ未来を冷静に見据える要素につながるのだと思います。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(2) | trackbacks(0)

Scientific writing II

昨年読んだ本の中からおすすめが2冊あります。二つともライティングに関するものです。この手の本は、表面的であったり、文法の教科書のようなつまらないものが多いのですが、この二冊は別格です。サイエンスに限らず、英語で書く技術があがることが実感できます。ぜひチェックしてください。

Writing Science: How to Write Papers That Get Cited and Proposals That Get Funded
Joshua Schimel

Scientific Writing = Thinking in Words
David Lindsay


波戸 岳
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

The frog in the well (2)

今回は大学の人材育成に関する根本的な違いについて触れておきたいと思います。米国のシステムを知れば知るほど、日本のピラミッド型の医局体制は、勤務環境としては理想とかけ離れているように感じられます。少し悪い言い方をすれば、日本の医学部は既存の体制維持のために若い学生や医師を「洗脳」します。組織の中に、「若い人は育ててもらっている立場なのだから、多忙・薄給・地方勤務を含めた職場環境や教育に関しては文句を言わせない、言ってはいけない」とういう暗黙の了解が築かれてしまうのです。個人の才能や特技、個性などといったものは、組織にとってはある意味「二の次」という認識なのでしょう。若い一個人がその組織にとってどのような形で貢献できるか、という視点で見た場合、極端な話、組織としては彼らが真面目に働くかどうか以外にはあまり関心がないわけです。
それに対し米国では、面接の際に「あなた自身が組織に与えられるものは何か」という質問をされることが多いです。これは米国の医学部に入学するためには四年制大学卒業の資格が必須であり、日本の医学生に比べて他分野での経験が予め多いということも影響しているかも知れません。組織に自分をアピールすることは、自己主張が苦手とされる日本人にとって大変なことですが、大切なことは以下の二点に尽きます。
① 「自分はその組織からどのようなことを得ることができ、またどうやって自分の良さを伸ばせるか」を考える。
② 「自分が他人より秀でている点を明確にし、それをその組織にどのように還元できるか」ということを言葉でしっかりと表現する。
frog_jump61.jpg
人材育成についてもう一つ付け加えるとすれば、米国はキャリア育成に関して進んでいます。米国の大学にも「教授・准教授」等のランクはありますが、facultyの数が多く、年功序列の要素が少なく、昇進の基準さえ満たせばどんどん伸びるチャンスがあります。具体的には、研修中からjunior facultyレベルまで必ずメンターがつき、日々の診療をはじめ教育・研究・グラント申請まで様々な場面で助言と協力を得られるのです。「どのようにしてその人を伸ばそうか」という働きかけが、組織をあげて行われているわけです。そして大学の研修プログラムは、「こんなに素晴らしく育てた人材ですので、きっとそちらでも活躍してくれることでしょう」とtraineeを他の大学や組織に送りだすことに誇りを持っています。と同時に、どの大学も期待に応えられる優秀な研修医やfacultyを常に探しています。人材の入れ替わりは組織に新しい風を吹き込み、それによって組織が更に強くなることを実によく心得ているからなのです。
日本では多くの場合、その逆ではないでしょうか。何年勤務しても、またどんなに尽力を注いだとしても、その組織を離れる際には「これだけ教えてやったのに、他に移るのか?」と非難を受けるケースも多いと聞きます。このような日米の組織の違いをどう捉えるかは皆さん次第です。日本でも、このような情報が入るにつれ、既存のシステムの異常に気付いて組織を変えようとする人・組織を離れる人・気付かない人・気付いても圧力に勝てずに流されてしまう人、など個人の対応は様々になっていくでしょう。既存の異常は「外から見るとより良くわかる」場合が多いですので、これを読んで下さった学生や若い医師の方々はぜひ一度は日本を出て(理想的には背中に紐がついていない状態で)、視野を広げてみてください。今こそ蛙も井戸を飛び出す時です!

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

The frog in the well (1 )

『井の中の蛙』、日本で働いていた頃の自分を振り返り、ふと頭をよぎる言葉です。これをお読みの皆さんの中にも、「井の中の蛙になってはいけない」「もっと視野を広げなくては」と日ごろから意識している方が少なからず居るはずです。実際私もそうでした。しかし、一旦「日本」という国を離れてみると、自分自身が如何に「井の中の蛙」だったかということを痛感する場面に、幾度となく出会いました。そこで、特に学生や若い医師の方々には、ぜひ一度日本を飛び出して視野を広めていただきたいと強く願います。
frog1.jpg
私の行っている臨床留学は確かに大変ですが、研究留学にはない良さがあります。日本の大学や医局からのサポート・縛りがなく、自ら道を開拓しなければならないという苦労と引き換えに、英語力の向上はもちろんのこと、今まで見えなかった「世界」と「外から見た日本」が実によく見えてくるのです。研究留学でもよいのですが、その場合、留学生活を実りあるものにするためには、できるだけ長く現地に滞在することです。もし留学中、現地の病院からは無給だとしても、その価値は大いにあります。海外生活を始めると、誰しもまず最初に大きなカルチャーショックを受けます。文化や風習・食生活の違いなどから、自分が慣れ親しんだ日本がどんなに良いかと実感するのです。そして日本の良い面を並べては自分を納得させる。ところがここで「郷に入っては郷に従え」の精神を思い出し、初心に戻れるかどうかが問題になります。その国の人々が自国のどういったところをよいと感じているのか(または悪いと感じているのか)を直接情報収集し、自分の肌で直に感じ取ることができた時に初めてその国の真の姿が見えてくるのです。

情報収集という点では、インターネットの普及により、私たちが得られる情報の量はこの10年で大きく変化しました。医療分野では莫大な医療情報が次々と更新され、我々医師は普段の診療に加え、情報のアップデートにより多くの時間を費やす必要が出てきました。したがって、既存の医療システム・教育体制・勤務体制では事実上対応できなくなってきているのが現状です。米国は様々な問題もありますが、医療システムや教育体制に関しては日本に比べ進んでおり、学ぶべき点が多々あります。

米国の医療システムの大きな特色の一つに、「医療の専門化」が挙げられます。今後は日本でも医療の専門化がますます進んでいくと予想されます。賛否両論あるでしょうが、これは医師と患者の双方に利益になるというのが私の考えです。溢れるほどの情報の中で、どんなに優秀な医師でも専門外の知識に関してはやはり限界があるはずです。最近では、医療従事者のみならず、患者やその家族もインターネットやその他の媒体を通して専門知識を情報収集することが可能な時代です。そのような患者側から見ると、「常にアップデートされた専門知識を持つ専門医にかかりたい」と考えるのは当然の心理と言えます。米国では専門医へのコンサルト制度が非常に普及しています。日本のように普段の仕事の延長としてコンサルト業務をこなすのではなく、コンサルト自体を仕事として扱う医師・チーム・科が存在し、それ自体が主な収入源となるシステムがあるのです。日本においても、いずれはこのようなシステムが必要になると感じています。

日米の医療システムの違いは、他にも多々ありますが、次回は大学の人材育成に関する根本的な違いについても触れておきたいと思います。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)

症例クイズ (2) 続

これはメタノールを飲んだ症例です。

アニオンギャップ(AG)は24と高いのでAG性代謝性アシドーシスがありますが、血漿浸透圧は320と計算された浸透圧290程度(血糖は書き忘れましたが正常でした)よりも高値ですので、osmolar gapが存在します。Osmolar gap + 代謝性アシドーシス の原因で最も多いのがアルコール(エタノール)です。血中エタノール濃度100mg/dlは浸透圧20mOsm/kgに相当すると言われます。ところがこの方、血中エタノールは来院時は陰性ですのでお酒は飲んでいないようです。したがって1)ではないです。(Moonshineについてはこちらを参照)
次にアスピリンはサリチル酸ですので血中濃度が陰性であることとその代謝物質である乳酸が陰性ですから否定的です。
イソプロパノールはアセトンに変わり、浸透圧を上昇させますが、その先は酸に代謝されませんのでアシドーシスはみられないはずです。
またアセトアミノフェンは通常肝機能障害をきたしますが、アシドーシスとosmolar gapの原因とはなりません。
windshield.jpg
ちなみにこの人の血中メタノール濃度は87mg/dlであったため、fomepizoleと血液透析を2回行いました。幸いにしてメタノールの代謝産物であるギ酸による不可逆性の視神経障害はなかったようです。メタノールは車のウィンドーワイパー液に含まれています。実際この人は最初お酒を飲んでいたが、お金がなくなったため100円ショップに行き安いウィンドーワイパー液を買って飲み始めたそうです。ウィンドーワイパー液によるメタノール中毒はその青い色から、子供による誤飲が報告されています。また寒冷地仕様のワイパー液など凍結温度が低くなればなるほど、メタノール濃度は高くなります。(例:20度仕様は7%程度、-50度仕様は68%!)

ここに主なglycolの代謝経路を示します。
エチレングリコール(不凍液)はシュウ酸による腎不全をきたします。これはとても甘いので、車の下から漏出したエチレングリコールをペットがなめて腎不全になるケースが多いそうです。また米国やヨーロッパでは安いのでお酒の代わりとして飲む人は結構います。私もここで3例ほどみました。
プロピレングリコールは医原性のことが多く、例えばICUでしばしばみかけますが、人工呼吸器などの鎮静目的で使用されるLorazepamが原因となることがあるので注意です。したがって、ICUで感染症や腎不全、心不全などなく、原因不明の乳酸蓄積と代謝性アシドーシスがある場合、プロピレングリコール中毒を疑うべきです。
また大事なのはglycolは時間とともに代謝されていきますので、メタノールを例に取ると最初はメタノールによるosmolar gapが目立ちますが、その後はギ酸による代謝性アシドーシス・アニオンギャップが出てくるということです。

T.S
固定リンク | この記事を編集する | comments(0) | trackbacks(0)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18
ARCHIVES
OTHERS