臓器移植の歴史

世界初の腎臓移植はアメリカで1954年に行われたが、そのわずか2年後に日本初の(一時的)腎臓移植が新潟大学で行われている。世界初の心臓移植は南アフリカで1967年に行われ、その翌年に日本初の心臓移植、通称「和田心臓移植」が行われた。
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しかし、この「和田心臓移植」に対しては、密室での脳死移植(脳死判定や患者選定が不透明)に国民の脳死・移植医療への強い不信感が生まれ、このため日本の移植医療は完全に停滞した。そして、当初まで世界と同じスピードで進んでいた日本の移植医療は30年間ストップした。1997年に日本臓器移植ネットワークが発足、臓器移植法が制定されて、脳死下の移植が可能になったが、日本の文化的・社会的背景から死体腎移植数は伸びず、日本の移植件数は世界的に見ても大変少ない状況が続いている。
そして今年、臓器移植法が改正され、家族の承認で臓器提供が可能となった。当初は、移植法改正ではあまり変化がないだろうと言われていた脳死下での移植であるが、マスメディアが報道している通り、それでも少しずつ家族の承認下で脳死からの臓器提供が行われつつある。日本の腎移植件数が少ない原因は、脳死下での移植が極端に少ないことが一因ではあるが、生体腎移植自体、世界的に見てもまだまだ伸びる余地がある。また、日本での腎臓移植は件数が少ないものの、短期・長期予後ともに移植先進国のアメリカを凌駕しており、確立した医療と捉えるのが妥当である。今後、腎臓移植全体に対する啓蒙・教育がさらに必要であろう。

長浜 正彦

AST Fellows Symposium 2010@Dallas

インディアナ大学で腎臓移植フェローをされていた鈴木倫子先生に紹介していただいた、AST(米国移植学会)主催の Fellows Symposiumに行ってきました。評判通りとてもよいシンポジウムで、参加する価値のある講義内容だと思いました。
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場所はダラス空港付近のヒルトンホテルで3日にわたって移植に関するさまざまな講義が行われます。内容はClinical track とBasic research trackに分かれていてどちらに参加してもよいようになっています。また膵・腎移植のみならず、心移植、肺移植、肝移植の各分野に分かれて講義も行われます。私はClinical trackに参加しましたが移植全般の統計学的なことから免疫応答・寛容、HLA、薬剤、移植後の管理、臓器allocation、移植感染症、clinical trial、journal clubなど話題満載でした。海外からの参加者もいらして、日本人もトロント大学で肺移植外科のフェローをされて現在リサーチを行っている先生2人が参加されていました。
このシンポジウムのよいところは(早い者勝ちですが)、ほとんどの参加者にtravel grantが与えられることで、ホテル代、食事代は込みで、航空券も330ドルまでカバーされます。今年は150人近くの参加者がいて、多くのフェローや著名な移植医と知り合えるとてもよい機会だと感じました。ちなみにフェローシンポジウムといっても、フェロー以外のレジデントでもポスドクでも参加可能です。
いかにもアメリカだなと感じたのは、講義の後はみんなでスポーツを楽しんだり、バーべキュー、ダンスパーティーがあって、とにかく充実した楽しい3日間でした。学んだ話題をまた今度ブログでも紹介できればと思っています。
来年も同時期にダラスで行われるはずですので、興味ある方は参加してみてはいかがでしょうか?

T.S

アメリカでのレジデンシー統計

アメリカでレジデンシーを受けている外国人は多く、レジデントの約四分の一は外国人と言われている。最近、日本でもアメリカでレジンシーを受けようとする人が増えてきている。2010年度のNRMP(National Residency Matching Program)の統計によると、全米の(1年目向け)レジデントポジションは全科で22809あり、これに対して30543人の応募があり、全体でのマッチ率は79.8%である。
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外国人医師の統計を見ると、7246人が応募し、そのうち2881人がマッチングを経てポジションを得ている。つまり、マッチ率は40%である(アメリカ人のマッチ率は93.3%)。このように外国人はUSMLEなどの試験に合格しても、約半分以上は就職できないのが現状である。この傾向はかなり以前から変わっておらず、今後も変わらないだろう。ちなみに2010年度の外国人医師の出願数は前年より238人減少したそうで、これは2002年以来、初めての減少だ。
また、私がここで使用している「外国人医師」とは、「外国人のアメリカ国外医学部卒業生:Non-U.S. citizen IMG (International Medical Graduates)」ということである。実はアメリカ人でありながらアメリカ国外の医学部を卒業した人達もおり、そういう人達は「アメリカ人のアメリカ国外医学部卒業生:U.S. citizen IMG」として、統計ではきちんと「外国人医師」とは分けている。「U.S. citizen IMG」のマッチ率は47%である。NRMP 2010

長浜 正彦

日米比較:日本にいない医者:D.O. vs M.D.

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アメリカにいるとドクターの白衣や名札で、名前の最後に「M.D.」でなく「D.O.」という略称を見かける時がある。D.O.はDOCTOR OF OSTEOPATHIC MEDICINEの略で、無理やり訳すと「整骨療法医」ということになる。アメリカではM.D.と同じ「医師」である。ただ、彼らは一般の医学部ではなく整骨療法医学部の卒業である。この学部ではカリキュラム自体は骨学を中心に医学部とほぼ同様の教育をしている。卒業後はM.D.と同じ医師国家試験に合格すれば、M.D.と同じ「医師」として働くことができる。大半がその後の専門科のトレーニングを受けずに、一般家庭医になることが多いようである。
そもそもD.O.は僻地医療の補充要因として1874年に新設された医学校で、現在は全米で20校ほど存在する。医師数では全米の約5%程であるが、アメリカの軍医の約20%がD.O.である。公にはM.D.と同等の医師として扱われるが、差別されることもある。

長浜 正彦

Alport症候群にStem cell transplant?

Alport Syndromeは日本ではあまりみたことなかったのですが、こちらにきて思ったより多いので驚いています。Alport Syndromeは遺伝性疾患で、腎臓の糸球体基底膜(GBM)を構成するtypeⅣコラーゲンの6つのαsubunitのうち、α3-α5(COL4A3, COL4A4, COL4A5)のいずれの変異でも発症します。頻度は4万人に一人とされますが、それ以上いる気がします。遺伝形式はX linked(COL4A5 mutation)が85%と多く、要は男性に多く発症することになります。血尿とたんぱく尿がともにみられ、腎不全の進行は早く20-30歳代でESRDに至ることもあります。また、腎移植をしても、5%程度と頻度は少ないのですが、抗GBM抗体症候群をおこすことがあります。その理由は本来GBMのコラーゲンを欠損していたところに新たなコラーゲンが置き換わるので、それに対し拒絶反応がおきるからです。
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ところで先日、MUSCでstem cellの研究をされている日本人の先生から、Alportのマウスにstem cell transplantを行うと完全に治るから、人でもやってみてはどうだ?と聞かれました。たしかに進行の早い腎炎ですし、移植以外に治療のない遺伝疾患であること、しかも移植後の抗GBM抗体症候群もおこりうるなら、Stem cell transplantは十分に考慮すべきoptionだと思いました。
この研究からは、Alportモデルのマウス(COL4A3−/−)に、正常マウスの幹細胞を移植した結果、尿所見や腎機能、病理所見の改善に加え、欠損していたコラーゲンが移植後、発現したと報告しています。これが人に安全に適応できたら良いと思います。みなさんはどう思われますか?

T.S

血漿交換ガイドライン2010(その3)

Category 2(血漿交換が二次的治療として推奨される)に分類された疾患はこの通りです。
腎疾患で関係しているのは、Myeloma cast nephropathyです。
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Multiple myeloma(MM)による急性腎不全の報告は50%近くで、その30-80%はcast nephropathy です。Cast nephropathyの機序はBence Jones Proteinなどのlight chain が尿細管にcastを形成して尿細管性の腎不全に至ることが大きな要因です。その他、高Ca血症、高尿酸血症、脱水やlight chainそのものの尿細管への障害も関与してます。Myelomaの治療はステロイドのほか、thalidomideなどのimmuno-modulatorや最近では高価ですがBortezomib(proteosome inhibitor)などを併用します。ちなみに、myelomaは、血清免疫電気泳動によるMタンパクの検出に加え、free light chain(FLC)比が診断にはより正確性があることが分かってきています。

2005年のこのstudyでは、MM発症時に急性腎不全のみられた患者に血漿交換を行った場合とそうでない場合に分け、6か月後の死亡率と腎予後を検討しましたが、両群に差はなかったと結論しています。ところが、患者はいずれも腎生検をしていなかったため、cast nephropathy以外のAKIが関与していた可能性を指摘されました。
その後MMでAKIを呈した患者40人を検討したこのstudyでは、40人中28人に腎生検を行い、そのうち18人がcast nephropathyの診断を得ました。彼らに血漿交換をMMの標準治療に加え行った結果、FLCの減少を認めた患者に限り腎予後の改善をみとめました。
すなわち腎生検によりmyeloma cast nephropathyと診断され、血漿交換によりlight chainの減少をみとめた場合、有効であることが言えます。

Light chainはκ(25kD)とλ(50kD)と2種類あり、分子量はアルブミン(67kD)よりも小さく血管内には20%程度しか存在しません。したがって短時間の血漿交換では除去率が悪いため、透析で除去できないのだろうかと考えた人たちが、透析膜のporeが45kDと極めて大きいハイカットオフダイアライザーを開発して面白い試験をしました。この透析膜を用いて、実際MMでAKIを呈した患者さんに透析(標準:週3回4時間と長時間:8-18時間/日など)vs血漿交換(連日x10日)に分け、かつ抗がん剤の量も調整して検討した結果、FLCの除去率は透析開始2時間の時点で35-70%と血漿交換よりも優れていたそうです!ただし、抗がん剤により十分にFLCの産生が抑えられていない場合、透析終了後には再びFLCの上昇がみとめられました。血漿交換/透析によるFLCの除去は、がん細胞の根本治療を行ったうえではじめて有効であることが分かります。また、大きなporeがあるので免疫グロブリンの補てんを要した患者もいたそうですが、比較的安全に透析が長期に行えることが示されています。アメリカではこのダイライザーが今年の終わりにもFDAの認可を受けるとのことです。Myeloma cast nephropathyには血漿交換ではなく透析が治療となる日も近いですね。

Category 3と4に関しては書きませんが、基本的には有用性が示されていないものです。ちなみにループス腎炎は重症度にかかわらず(脳症や肺出血がある場合は補助的に行うことあり)血漿交換の効果はないということは覚えておきましょう!

T.S

日経メディカルへの寄稿記事

以下は日経メディカルへの寄稿記事です。

腎移植患者のフォローは腎臓内科医が担うべき
あなたが末期腎不全になったら透析を選びますか、それとも腎臓移植を選びますか?
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こんなアンケートが米国の腎臓内科医に対して行われました。結果はどうだったと思いますか。ほぼ100%の人が腎臓移植を選びました。日本の腎臓内科医に同じアンケートをしても同じ結果になるのではないでしょうか。それにもかかわらず、日本の透析患者さんの中には移植というオプションを説明されていない方が少なからずいます。ご存知のように腎臓移植医療に関しては残念ながら日本では米国ほど普及していません。

私は日本の大学病院で研修医時代を過ごし、その後、市中病院で数年臨床に携わりました。その後,米国に渡り、米国でも大学病院と市中病院の両方で臨床医として働きました。日米両国の医療を経験し、それぞれに良し悪しがありますが、日本の腎臓内科が発展する上で重要なのは、教育の充実、腎臓内科による腎臓移植の普及、そのためのシステムの構築だと考えています。

まず教育という観点から、米国の内科診療について説明します。米国の内科診療の大きな特徴は、コンサルト制度にあると思います。日本でもコンサルト制度は存在しますが、どちらかというと通常の診療を行いつつ他科の症例も診るといった感じではないかと思います。米国では、コンサルトサービスが独立しています。
その意味をご理解いただくため、フェローの1日そして、研修体制を簡単にご紹介しましょう。フェローは患者の多少にもよりますが、朝の7時前後に病棟で患者さんのデータ集めやカルテを読み始め、遅くとも10時ごろまでには一人で担当患者さんの回診を終え、必要な指示を出していきます。その後、指導医との回診を行います。研修を受けるプログラムによりフェローの人数は異なるのですが、大きいところで10人近く、小さいところでは数人です。
ローテーションは1カ月単位となっていることが多く、どのフェローも均等に各ローテーションが割り振られ、研修の機会が偏らないように工夫されています。

私が現在働いているミネソタの病院も施設内に大きな病院が3つあり、指導医とフェローがペアになり各病院のコンサルトを受け持ちます。最も忙しい大学病院では大体コンサルトの患者リストは20ー30人ほどで、毎日新たなコンサルトが4~6件あり、かなり忙しくなります 。
米国の大学病院も日本の大学病院も同じ教育施設という役割があると思いますが、米国での回診は基本的にフェローと指導医の2人という少人数で行っている点が大きな特徴だと思います。指導医がたとえ著名な教授であっても、それは変わりません。教育を受けるフェローの側にしてみると、とても貴重な経験となります。
回診時には治療方針を自由に議論する雰囲気があり、卒後わずか4~5年目のフェローと学会の会長をしているような医師が、治療方針を文字通り議論しながら回診をしていきます。こうした教育システムにより、米国では一定レベルの専門医が育成されているのだと感じています。

もう一つ腎臓内科医に限って考えると、日米の腎臓移植をめぐる環境の違いがその教育、仕事に非常に大きく影響しています。
日本での腎臓移植件数は2006年にようやく年間1000件を超えました。一方、米国では年間1万6000件ほどの腎臓移植が行われています。米国の人口が日本の2.4倍であることを考えても、大きな違いです。こうした環境の差があるため、腎臓内科医に求められる役割も日本と米国で若干の違いがあります、必然的に腎臓内科医として受けるトレーニングも異なってくるのです。

こうした大きな差が生じている理由は、献腎(死体腎)移植に対する考え方にあります。日本では9割近くが生体腎移植であるのに対して、米国では生体腎移植と献腎移植が約半数ずつ。最も異なる点は、日本は献腎移植のうち脳死の占める割合はわずか1割以下なのに対して米国では逆に脳死が9割以上を占める点です。
ちなみに、ドナー不足は日本と同様、米国でも問題となっており、ドナーを増やす様々な工夫がされています。米国では日本と異なり 血縁や親族でもない人をドナーとして腎臓移植を受けることができます。教会で知り合った人、知人、全く知らない人がドナーとなっています。以前に比べると待機期間は延びてきていますが、血液型により若干異なるものの、3~5年で移植を受けられます。
これに対して日本では献腎移植の待機時間が15年と米国とは比較にならないほど長くなっています。透析患者さんの5年生存率が60%であることを考えると、多くの透析患者さんが、移植を希望しても、その前に亡くなってしまうというのが現実です。

腎臓移植患者の管理は腎臓内科医の仕事になります。米国は日本に比べて患者さんの入院日数は極端に短かく、腎臓移植患者も順調であれば手術後5日ほどで退院していきます。その間、移植外科医と腎臓内科医が同時に患者さんをフォローし、免疫抑制剤、降圧薬などの薬剤管理を共同で行います。
無事に退院後は、基本的には腎臓内科医の外来に通院することになります。移植後、5年、10年といった長いスパンで患者さんを診ること、その間の高血圧、糖尿病などの管理を行いながらフォローしていくのが、米国では腎臓内科医の重要な役割の一つになっているのです。

私は、このような日本と米国で腎臓内科をめぐる状況の違いを踏まえ、黒川清先生に顧問になって頂き、同志数人とともに「日米腎臓内科ネット」を今年、立ち上げました。腎臓内科における臨床教育、研究、移植の発展に興味を持つ日米の腎臓内科医が、メーリングリストやブログ、セミナーなどを通じて情報交換をしています.
メーリングリストには全国の腎臓内科や腎臓移植医療に興味のある医学生、研修医を中心に既に約100人の方に加盟して頂いています。さらには、聖マリアンナ医大の安田隆先生の御協力をいただき、日本腎臓内科学会の卒前卒後教育委員会のメーリングリストとも情報を共有させていただいています。
ブログでは、腎臓内科についての話題はもちろん、イベントや書籍のご案内、日本・アメリカそれぞれで活躍するメンバーのエッセイなど、様々な情報を発信しています。興味のある方はぜひ参加いだければと思います。

今井直彦

Re:(2) 腎代替療法のオプション提示について

August 14, 2010
日本大学医学部附属板橋病院 腎臓高血圧内分泌内科 岡田一義

田川(村島)美穂先生へのコメントと追加(2)

1)ボタンホール挿入
現在、投稿中の内容ですが、オープンにします。昨日、Twardowskiらの方法と當間らの方法を組み合わせた簡易ボタンホール作製法を紹介しましたが、この方法では、同一スタッフが同一部位に同一方向で通常の穿刺針を数回反復穿刺しボタンホールを作製するため、穿刺孔広がりの可能性およびボタンホールが完成するまでの穿刺スタッフ固定の短所があります。そこで、初回穿刺は通常の穿刺針を用いて行い、次回穿刺以降いきなりボタンホール専用針を用いて挿入しても87.5%で成功しました(小川千恵、岡田一義、他:日本透析会誌 投稿中)。本当に簡単にボタンホールを作ることができます。

2)腎臓内科医からの腎移植情報提供の少なさ
 私は、腎移植についても適切に説明をしているつもりでした。しかし、私が診る腎移植術後の患者は、拒絶反応や感染症などで入院し、透析を開始した患者だけですので、腎移植によい印象を持てない現状もあります。腎代替療法の中で、腎移植は生存率が最も高いですが、重症感染症などにより死亡する患者も少ないながらいることも事実です。患者に腎移植が最も生存率がよい腎代替療法であると情報提供をしていますが、重症感染症のことが気になっています。
一方、透析についての情報提供では、感染症は透析患者では発症しやすいのが常識であるため、詳しくは情報提供していませんが、透析患者の約20%が感染症で死亡しています。また、腎移植では拒絶反応も気になりますし、透析に移行して大変落ち込み、自殺しようとした患者もいました。一方、内シャント閉塞は、経皮血管形成術や再造設術を行えば問題は少なく詳しくは情報を提供していません。また、腹膜透析継続は5年程度が目安なことを詳細に情報提供していますので、腹膜透析から血液透析に流れ作業的に問題なく移行しています。

今回コメントを書いている中で、腎代替療法選択時に、腎移植術後の再移植については情報提供していないことに気付きました。腎移植術後の再移植は、内シャント閉塞や腹膜透析から血液透析への移行と同じ範疇に入ることであり、明日から情報提供しますが、最高何回腎移植を受けた患者がいるのでしょうか。
長浜先生が指摘していますように、腎臓内科医から腎移植の情報提供が少ないのは、腎移植医が術後の診療も継続していることが理由ではないかと思います。移植医ではなく腎臓内科医または透析施設担当医が術後を診療するようになれば、腎臓内科医または透析施設担当医が持っている腎移植に対する負の部分を取り除くことができ、保存期CKDと同レベルの管理も必要な術後診療は腎臓内科医のほうがより適しているのではないかと思います。
ところで、日本で腎移植後の患者を腎臓内科医が診療することはほとんどないと思いますが、実際のデータをご存じでしたら、教えてください。米国では、100%腎臓内科医が診療するのでしょうか。

3)質の高い終末期医療
多くの医師は尊厳死を支持していますが、私は日本でより受け入れやすい尊厳生という概念を提唱しました。今まで終末期患者にどのような言葉をかけたらよいかよくわからなかった医療従事者から、尊厳生という概念を知り、患者にかける言葉が見つかったと感謝されています。
最も大きな問題は、多くの医療従事者は事前指定書が重要と認識していますが、ほとんどの医療従事者は事前指定書を実際に書いていないということです。医療従事者自身が事前指定書を書いていないのに、他人に書きましょうとは言えるはずがありません。5年前の当院全看護師(816名)への意識調査の結果、0.2%が「事前指定書を書いて、持っている」、0.6%が「事前指定書を書いたことがあるが、破棄した」との散々な結果でした(岡田一義、他. 日大医誌 64: 15, 2005)。日本で、実際に事前指定書を書こうとした場合、日本尊厳死協会と日本レットミーディサイド研究会の2種類の事前指定書がよく知られています。私には内容が適切とは思えなかったため、2003年に尊厳生の事前指定書を作成し、いろいろな意見を取り入れ、今までに9回改訂しました(http://www.ckdjapan.com/)。よい意見がありましたら、取り入れさせていただきたいので連絡してください。
米国では、事前指定書を書いている人は希望した通りの治療やケアを受けられると思っていましたが、その約1/3しかいないと以前聴いたことがあります。米国では、実際、国民のどのくらいが事前指定書を書いて、実際にどのくらいが希望した治療やケアを受けられているのでしょうか。

4)日本での腎代替療法の選択肢説明方法
各施設で腎臓教室などを充実させる必要がありますが、すべての腎代替療法を行える施設はほとんどないので、地域として取り組み、市民公開講座を行うことが重要と考えます。患者中心の医療の中で、CKD患者の意思決定を尊重するじんぞう病治療研究会を立ち上げ、市民公開講座を開催し、参加者から在宅透析および腎移植を選択する患者が増えています。市民公開講座で講演を行いますと、参加者の質問を受ける時間が少なく、大勢の前では質問できない参加者がいる問題点があります。そこで、気の弱い参加者にも質問がしやすく医療従事者が参加者と対面方式で対応して、さらに理解しやすいようにポスターや機器(公正競争規約厳守)なども展示しています。これが次回のプログラムですが、まだ後援依頼をしている最中なので、ホームページにはアップしていません。すべての腎代替療法、保存期CKD治療、CKD連携について講演会と展示会の両方で情報提供していますので、地域で同様なことを行いたい場合にはお力になれるかもしれませんので連絡してください。

Re: 腎代替療法のオプション提示について

August 13, 2010
日本大学医学部附属板橋病院 腎臓高血圧内分泌内科 岡田一義

田川(村島)美穂先生へのコメントと追加

1)腎代替療法の情報提供と選択
腎代替療法には、施設血液透析、在宅血液透析、腹膜透析、血液透析と腹膜透析の併用療法、生体腎移植(血縁間、非血縁間、pre emptive)、献腎移植(心停止、脳死)があります。透析者数は年々増加し、2009年末に290,675人(施設血液透析者 280,590人、在宅血液透析者 229人、腹膜透析 9,856人)となり、透析者の95%以上が透析施設に通院するか入院をして血液透析を継続しています。一方、腎移植患者数は、1,302人(生体腎移植 1,113人、心停止献腎移植 175人、脳死腎移植 14人)です。2009年に改正臓器移植法が成立し、2010年7月に施行され、日本で初めて、本人の口頭意思表示と家族の承諾により、交通事故で脳死となった20代の男性の移植が2010年8月10に実施され、今後、年間70例の脳死移植の増加が予測されています。日本腎臓学会・日本透析医学会・日本移植学会・日本臨床腎移植学会が2009年に作成しました「腎不全の治療選択 あなたはどの治療法をえらびますか?」では、残念ながら在宅血液透析について触れられていませんでした。

在宅血液透析のメリットは、十分な透析量が確保でき、貧血・心機能・栄養状態が改善し、生存率は腎移植とほぼ同等とも報告されています。また、ライフスタイルに合わせて周囲に気兼ねしないで透析を実施でき、通院が月1回程度であり、家族と接する時間も増加し、精神的な安定が得られます。活動的な生活も可能となり、フルマラソンにも挑戦している患者もいます。施設のメリットとしては、大きな設備投資が不要であり、透析室ベッド数や透析スタッフを増やすことなく、患者を確保することが可能になります。

在宅血液透析のデメリットは、透析者と介助者への教育期間(自己穿刺、透析回路組み立てなど)が必要で、在宅血液透析の長期化とともに透析開始のための準備と透析終了後の処理などに時間を要するため介助者のストレスも増加します。経済的には、設備工事費、自宅改修費、透析に伴う水道光熱費の自己負担などがあります。施設のデメリットとしては、経済的には、在宅血液透析の保険点数は施設血液透析より低く、透析液供給装置加算は、透析装置などのレンタル費と保守管理費などに充てられているため、収入がより低くなることなどです。

在宅透析(在宅血液透析、腹膜透析)と腎移植にはデメリットもありますが、医療従事者は、患者中心の医療のために、施設血液透析だけではなく、QOLをより向上できる在宅透析と腎移植を実施できる体制や紹介ルートを早急に整備し、腎代替療法の適切なインフォームド・コンセントを行い、患者にすべてを正しく理解できる教育を提供し、患者が腎代替療法を自己選択することが重要です。

2)ボタンホール挿入
血液透析患者は、透析毎に内シャントを穿刺されています。私は、シャント穿刺部位は毎回違う部位に刺すように先輩から指導を受けましたが、Twardowskiらは、透析毎に内シャントの穿刺部位を変えるのではなく、同一部位に反復穿刺することにより、穿刺痛が軽減される上、合併症の頻度が低下し開存率が向上することを報告しました(Twardowski Z. Dial Transpl 24: 559, 1995)。ボタンホール穿刺と命名されましたが、穿刺孔が広がる可能性があり、普及しませんでした。Tomaらは、血管表面近くまでしか到達しないポリカーボネイト製のスティックと先端が鈍の穿刺針を考案し、穿刺孔は一点しかできないボタンホール穿刺法を確立しましたが、あまり普及していない現状があります。ボタンホール穿刺は、感染症発症率も通常穿刺と同様である上、痛みも少なく、理論的には大変よい方法であるため(當間茂樹.腎と透析 58: 416, 2005)、我々は當間先生にボタンホール穿刺の研修をさせていただき、Twardowskiらの方法と當間らの方法を組み合わせ、特別な器具が不要な簡易ボタンホール作製法を報告し、ボタンホール挿入と呼んでいます(飯島真一、岡田一義、他. 日本透析会誌 in press)。透析開始時通常の穿刺針で穿刺し、次回以降の透析開始時、穿刺孔に形成された痂皮を剥がし、前回と同じスタッフが同じ穿刺針を用いて同一部位に同一方向に反復穿刺します。この穿刺作業を担当した1人のスタッフが穿刺抵抗の軽減を感じるまで繰り返し、穿刺抵抗が軽減した時点をルート完成と判断し、次回透析より通常のカニューラ穿刺針は使用せず、先端が鈍の穿刺針を用いて挿入を行う簡便な方法です。
ボタンホール挿入と通常穿刺の痛みを比較すると、ボタンホール挿入によりまったく痛みを感じないか軽減する患者が60~80%、同様の患者が10~30%、強く感じる患者は約10~20%であり、中には痛みが増強する患者もいますが、針刺し事故の防止にもつながるため、医療従事者はボタンホール挿入をまず研修し、技術を習得することが必要です。

3)透析療法の中止・未開始
 私の考えは、日本透析会誌に書き、私案(透析中止のガイドライン、透析延期のガイドライン、延命治療不開始のガイドライン、延命治療中止のガイドライン)を提示していますが、日本透析医学会は学術小委員会血液透析療法治療ガイドライン作成ワーキンググループ「導入基準・非導入・中止グループ」を立ち上げ、検討を開始しています。
質の高い在宅医療および終末期医療を確立するためには、すべての国民が日本国憲法13条で認められている個人として生きる権利を行使し、終末期にも自分が考える尊厳ある生き方を貫くということから始め、多くの国民が事前指定書を尊厳維持のために必要であると認識することが重要なステップです。生前の自己意思表示である「尊厳生」による事前指定書を作成し、普及させるために、じんぞう病治療研究会のホームページに掲載し、ダウンロードできるようにしています。

腎代替療法のオプション提示について

 慢性腎不全が進行してきて、いよいよ”透析“をしなくてはならない時期が近づいてきた患者さんに対して、みなさんどのようにお話をしているでしょうか?私がここであえて”透析“としたのは、「本当に透析だけが選択肢なのか」ということを皆さんに一度考えてほしいと思ったからです。日本ではどうしても「透析」という言葉が「腎代替療法」という言葉より頻繁に使われます。それは慢性腎不全の患者さんの選択肢として透析しか医療スタッフの側も患者の側も浮かばないということにつながっているのではないでしょうか?一方で腎代替療法という言葉の中には、血液透析、腹膜透析だけではなく、腎移植も含まれています。進行期の慢性腎不全の患者さんを前にして、これらの「腎代替療法」の選択肢について、偏りなくその長所、短所を日本の医師はきちんと説明できているでしょうか?
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 私が、今度9月2日に依頼されて行う講演のスライドを添付します。ここで、私が取り上げた症例の中に、50歳の男性で一家の大黒柱として働いてきた方で、腎不全で「腎代替療法」を考えなくてはいけない状態になった方を紹介しています。他院でこの方は「今すぐ入院してシャントを作って血液透析を始めないといけない」と言われ、「週3回も透析の為に病院に通っていては職場からくびをきられてしまう、透析以外の選択肢はないのか?」とおっしゃって私の外来に自分の血液データをコピーした一枚の紙切れを持っていらっしゃいました。残念なことにこの方は、腹膜透析についても、腎移植についても、さらにもっといえば在宅血液透析についても一切説明をうけていらっしゃいませんでした。私の外来で1時間近く時間をかけて、冊子やDVDを用いて血液透析、腹膜透析、腎移植についての説明を行い、腹膜透析を選択されました。1年あまりたった今もお元気でお仕事を続けられており、献腎移植の登録もされました。この方のように、「腎代替療法」の選択をきちんと説明されていないのではないかと思う症例はたくさんあります。

添付のスライドの中に柴垣先生が報告されたアンケート結果を引用させていただいていますが、実際に腎移植を受けた方のなんと50%は腎臓内科医から腎移植の説明を全く受けたことはなく、自分で調べて移植の道を選ばれたようです。これはかなりショックなことではないでしょうか?もちろん、実際移植をされた患者さんですから、移植に対する禁忌(例えばすごく高齢であるとか悪性腫瘍などで予後があまりよくない)があった方ではありません。

また、最近、当院に見学にいらっしゃる学生さんたちにいつも聞いてみるのですが、「大学の授業で日本の腎移植の成績(1年及び5年生着率)を学んだことがあるか?」と聞いてみると、みなさん「聞いたことがない」との答えです。また、腎移植の1年及び5年生着率を予想してもらうと50%とか、30%などといった数字がしばしばでてきます。ところが、スライドにも示しているように、日本の最近(タクロリムス導入後)の移植の成績は1年生着率は95%、5年生着率は90%と非常に良好で、確立された医療といって問題ありません。ところが、このような大事な情報が、学生さんや若い研修医の先生方になかなか浸透していないようです。とても残念なことです。この大事な情報を知らなければ患者さんとお話をするのも困難になってくるでしょう。

一方で、先ほどの血液透析しか説明を受けていなかった患者さんを担当していた他院の前医の立場を考えてみましょう。私も日本の現場で医師をしている人間なのでよくわかるのですが、外来で1時間も時間をかけて「腎代替療法」の説明をするのは極めて困難であり、ほとんど不可能です。日常業務は非常に忙しいですし、「今すぐ血液透析をしないとだめ」と5分で説明をしても1時間かけて一生懸命いろんな選択肢について話し合っても、医師に与えられる評価は「外来再診料」としての700円だけです。一方で病院経営にとっては、この患者さんが血液透析をしてくれれば、月約35万円の診療報酬が得られるのに対し、大学病院に紹介して、移植をしてしまえば、病院の収入は0ということになってしまいます。そういった悪循環が日本で「腎代替療法」オプション提示がきちんと行われない一つの理由ではないかと思います。

アメリカでは、診察の際に、どれくらいのレベルの診療をしたかによって診療報酬がかわります。いくつもの問題について評価を行い、患者に説明を行ったかによってレベル1からレベル5までの評価があります。また、透析施設で透析をしている患者さんのうち腎移植の適応のある患者さんのうち何%が献腎移植に登録をしているかでも診療報酬の点数が変わります。もちろん、日本とアメリカの文化の違いや法律の違いも大きいのですが、こういったシステムがアメリカで日本よりはるかに腎移植が多い理由の一つかと思います。一方で、このシステムをみて、思ったことは、診療報酬からくるプレッシャーの為に、とにかく誰でも移植登録をということで、糖尿病で脳梗塞を起こしていて、ASOで下肢を切断していて、コンプライアンスも悪く、予後が悪く、手術のリスクも高いと思われる患者も移植登録をされてしまうということがありました。そうすると、移植登録の待機リストの患者数が増加し、若くて、元気な最も移植によってメリットを受けるべき患者の移植待機時間が長くなるという矛盾を経験しました。ですので、こういったシステムにももちろん重大な倫理的、社会的問題は大きいと思います。腎代替療法の選択肢説明に対する説明に対して、もっと経済的、社会的評価が欲しいという一方で、アメリカの方法をそのまま、日本に持ち込むことは不可能ですし、問題点も多いと思います。日本としてどのような方法をとっていくのか、今後、考えていかないといけないと思います。

もうひとつ、「腎代替療法」という概念の中に含まれているのかどうかわかりませんが、私が提言したいのは、「透析をしない」という選択肢についてです。高齢であったり、悪性疾患、他の多くの合併症をかかえていたりする患者さんで、透析を開始した途端、一気にADLが低下し、残念な転帰をたどる症例は少なからずあります。「透析をしない」という選択肢を患者や家族に提示することも医師としての大事な役割ではないかと私は思っています。一方で、他の先生とお話をしていると、「透析をしないと死ぬとわかっていて透析をしないというのはどうか?」というご意見もあります。これはなかなか難しい問題だと思います。添付したスライドの中に「透析をしない」という選択をされた患者さんの症例を紹介しました。皆さんはどう思われるでしょうか?

田川美穂
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