「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

   日本・アメリカそれぞれの話題をお届けします日米腎臓内科ネット
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CRRTを長く使用するためには

CRRTを凝固させないためにはどういったことに気を使うべきか?CRRTは通常、透析カテーテルを用いますが、理想的なカテーテルは短く、内腔の大きなものです。ただし実際はカテーテルの先端が内頚静脈から挿入された場合は右心房、そけいからの場合は下大静脈に位置するべきなので、長さはどうしてもある程度長いものが必要になります。このstudyでは100人のCRRTで長さの違うカテーテルを用いて観察した結果、右心房まで到達する長いシリコンカテーテルのほうが持ちが良かったとしています。内腔ですが、一般的にシリコン製のカテーテルはポリウレタンに比べカテーテル壁が大きい傾向があるのでカテーテルの太さに比べ内腔が狭くなります。またカテーテルの血流の入出口ですが、側壁についているタイプよい先端に入出口があるタイプのほうが原則静脈壁に吸着するなどの問題点は少ないようです。また中心静脈圧が低いほど、カテーテルトラブルが多くなりますので血行動態の安定化はCRRTのトラブルを減らすためにはもっとも重要な要素です。
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Filtration fraction(FF)はダイアライザーが凝固するかどうか予想する大事な要素です。論理は簡単でFF=(限外ろ過液流/血液流)でこの比が高いほど回路内の血液濃縮から透析膜の目詰まりや凝固をおこす可能性が高くなります。限外ろ過液流=透析液量(QD)+補液量 (QF)+除水量(UF) の合計で、血流は厳密には血漿量なので血流量(QB)x (1-Ht)です。したがって
FF =QD + QF + UF/QB(1-Ht)です
透析膜内におけるを極力軽減するために、補液をダイアライザーの出口から返す場合(post-dilution)FFは20%未満に抑えるべきとされます。FFを下げる方法はいろいろありますが
1)血流をあげる
2)補液をダイアライザーの入り口から返す(pre-dilution)
3)UFを下げる
などがありますが1)と3)は制限がある場合があるのでもっとも簡単にFFを下げる方法はpre-dilutionです。この場合、血液が希釈されるため透析効率が落ちますが、透析回路は長持ちします。このことは小さなstudyで示しているとおりですが、興味深いことに平均BUNやCrはpost-dilutionでもpre-dilutionでもあまり変わらないとしています。これはpost-dilutionでは回路が凝固し透析が中断された時間が多かったため、結果的に一日の透析量が落ちたためと考えられます。

透析膜が凝固するといいますがclottingとcloggingの違いは知っておくべきです。Clottingはダイアライザーのファイバーが閉塞することに対して、cloggingは透析膜孔に血液やタンパクが沈着し透析膜の透過性が低下する状態です。したがってcloggingは透析膜の透過性の低下や中分子の除去率の低下を招き、transmembrane pressureがあがります。またcloggingはclottingを誘発するとされます。Pre-dilutionのほうがcloggingを引き起こす確率が少ないとされますが、UFを多く行うと逆に透析膜孔へのタンパクの沈着が大きくcloggingを引き起こしやすいという意見もあります。透析効率の観点からはpost-dilutionが理想的ですが、透析膜を長持ちさせるためにはpre-dilutionのほうがよいため、私のいる施設では補液を2つのポンプでpre50%、post50%の割合で使用しています。
透析膜の種類も重要です。アルブミンは陰性に荷電しているので透析膜の表面は電気的に陰性に荷電しているものが理想です。またタンパク吸収性の高い透析膜はタンパクが結合しやすく、それに伴う補体や血小板の活性から凝固が誘発されやすくcloggingやclottingに影響します。ただし、透析膜の種類によってcloggingやclottingを比較した大きな前向きのランダム化臨床試験は今の時点ではありません。

CRRTを長持ちさせる要素はもちろん抗凝固剤が大きなウェイトをしめますがそれ以外の要素について簡単におさらいしてみました。

T.S
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透析をやめるとき

余命6ヶ月といわれた癌患者に積極的な治療でなく緩和医療(palliative care)をオファーすることに抵抗は少ないと思いますが、余命が同程度と思われるESRD(末期腎不全)患者に透析を提供しないまたは透析をやめることに抵抗を感じる人は多いと思います。
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USRDSの統計によるとアメリカでは様々な理由から透析を行っている5人に1人の割合で透析から離脱しています。これは驚くことにESRDの死亡原因の3位(カナダでは2位)に値する高い数字です。この中にはおそらく腎不全以外の理由で延命治療を施さない一環で透析を中止する人も含まれていると思いますが、それでも日本では透析を中止する割合が<1%と極端に低い数字ですのでその差は大きいです。尊厳死が認められていないことと死生観のちがいが大きな要因でしょうが「治療があるなら施すべき」ではなく適切かどうかを考えることが重要です。ESRDのみならず急性腎不全でもそうですが、透析がその人の生命予後を改善しないもしくquality of life (QOL)の悪化が予想される場合、また身体的に透析を受けることが困難な場合は適切でないと判断するべきです。透析をオファーしないもしくは中止する理由としては、重度の痴呆、意識不明患者、末期の心肺疾患、重度の精神疾患、ペインコントロールが困難な状態、多臓器不全、末期AIDSなどが上げられます。人が病気で亡くなるパターンはこの図にあるように3つあるといわれます。癌患者のようにそれまで問題なく経過してきたが病気とともに急激な身体機能低下をきたす場合。心不全など状態の悪化や回復を繰り返しながら徐々に身体機能が低下する場合。最後に痴呆や老衰などに時間とともに少しづつ身体機能が低下していく場合です。ESRDがどこに入るかは難しいところですが、矢印のあるところで我々はある決断を迫られます。これがESRDの場合、癌と違い判断が容易ではないことは事実ですが、欧米では透析の開始と離脱に関してガイドライン(米国英国)があります。

米国の腎臓内科フェローシッププログラムで透析の離脱教育をカリキュラムに組み入れている施設もあるようですがそう多くはないと思います。私の研修した施設ではフォーマルな指導はありませんでしたが指導医によっては積極的に行うことがありました。一般的にESRDの透析からの離脱はガイドラインにもあるようにShared decision makingに基づくことです。つまり複数の医療従事者が病気の予後に関してまとめた専門的な意見や推奨を患者の死生観や価値観を含めて本人としっかり話し合い最終合意に達すること。また本人が意思表示できない場合は代理人がこの役割を担います。米国では一般的ですがadvanced directiveといって、もしものときにどのような治療を施してほしい、誰に意思決定をしてほしいなどあらかじめ本人が詳細に記載することのできる公的文書があります。このadvanced directiveがあると家族の間で治療に関して意見の相違がでても、指定された代理人が最終決定権を持ちます。急性腎不全で、一時的な透析によって腎機能が回復する見込みのある場合は期間を決めて(time limited trial)透析をオファーする場合もあります。多くの場合、トライアル後は透析を治療オプションとして提示しないのが普通ですが、状況によっては透析を延長する場合も少なくないのが現状です。

透析治療を選択しない場合、緩和ケアとの連携のもと、予想される経過と処置の選択をふくめ、どこでどのように死期を迎えるかを話し合います。緩和医療とホスピスの違いですが、後者は一般的に予後が6ヶ月以内の患者をホスピスという団体が医療費の負担を含め終末期にかかわるマネジメントを行う点です。先月、私は病院で慢性透析コンサルトを担当していましたが、慢性透析患者2人の透析を本人や代理人を含め長い話しあいをした結果、最終的に透析を中止しました。一人は50歳で末期AIDS脳症による痴呆がひどく透析をうけられない方。もう一人は38歳でcalciphylaxisによる腹部創の状態がかなり悪い方でした。いずれも透析を中止したのちホスピスケアのもと自宅や施設にいかれました。

透析療法は提供するだけではなく、病状、生命予後、QOLに応じて本当にそれが本人にとって適切な治療かどうかを十分に話し合い、場合によっては透析を中止したり、透析を開始しない選択肢も考慮するべきです。患者の高齢化が進む日本では特に多くの医療関係者が認識し勉強するべき大事なトピックだと思います。

T.S
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Animal models

Activated protein C (Xigris)は重症敗血症に対して米国で頻繁に使用されてきましたが、いくつかのネガティブなスタディーの結果をうけて、昨年末に市場から撤退しました。
そのほかにもタイトな血糖コントロール、ステロイド、バソプレッシンなど、敗血症に対する治療は、どれも近年のトライアルではいまひとつの結果です。ある治療薬が市場にでて、ネガティブなスタディーに至る理由はいくつもあげられるかと思いますが、そもそも動物実験の段階で十分に検証されていないことが往々にあります。さらに根底の問題は、動物モデルがヒトでの病態を正確に反映していないことが多々あることがあげられます。
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敗血症に限らず、腎臓領域でも同じような問題がみられます。虚血性急性腎不全モデルとしてよく使われる腎血管のクランプ(虚血再還流障害)も、ヒトでは腹部大動脈瘤の手術などの例外を除き、現実を反映しません。なので、例えばヒトでのショック、多臓器不全の病態をより反映するように、大動脈レベルで操作して、腹腔臓器全体への血流を減らすなどの工夫もみられますが、これがヒトでの現実(糖尿病、動脈硬化を患った高齢者の腎臓)を反映するかと問われれば厳しいところです。

慢性腎不全モデルは5/6腎摘などがよく用いられますが、Operator dependentな要素がさらに増えます。少しでも再現性を増すように、最近では工夫の一つとして、一方の腎に障害を引き起こした後、しばらく経ってから健側の腎臓を摘出するなどという手法があるようです。これは、一側腎障害と両側腎障害では腎臓に起こる変化が違うことを利用しています。一側腎障害(=対側腎は正常)の方が、対側腎が正常でないとき(=両側腎障害もしくは腎臓が一つしかない場合)と比べて優位に繊維化、慢性化をきたすことが知られています。一見すると矛盾するようですが、イメージとしては、正常な腎臓が対側に存在していると、障害を受けた側の腎臓は怠けてそのまま慢性的障害が進行するのに対し、正常な腎臓が存在していない場合は、障害を受けた腎臓は慢性的変化を遅らせようとがんばろうとしているようなものです(本当の理由は不明です)。

波戸 岳
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透析患者の降圧薬(その2)

日本は欧米に比べβ遮断薬の使用頻度は少ないと思いますが、欧米では急性心筋梗塞や心不全では特にACEI/ARBとともに必須の薬になります。透析でも安全に使用できる薬です。いくつか気をつけるべき点は、まずpropranololやnadololなど非選択性β遮断薬は空腹時や運動後に高K血症をきたす可能性があることです。またそのほかの選択性β遮断薬やα作用を持ち合わせたβ遮断薬の半減期や透析除去率はこの表にあるとおりですが、atenololはその半減期の長さから腎不全患者では使用を避けるべきです。Metoprololは米国で最もよく使用される薬のひとつですが、透析ではほぼ除去されますので厳密には透析後に再投与が必要になります。一方carvedilolやlabatalolなどαβ遮断薬は透析では除去されません。
透析におけるβ遮断薬の使用に関してですが、このstudyによると、118人の維持透析中の心不全患者(NYHA2-3で皆RAAS阻害薬+ジギタリス内服)にcarvedilolかコントロールを投与して観察した結果、24ヶ月の時点でCV死亡率、入院率がcarvedilolグループでよかったとしています。
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カルシウム拮抗薬はnon dihydropyridine(diltiazemなど)かdihydropyridine (amlodipine、nifedipineなど) に大別できますが、いずれも透析ではほとんど除去されません。このstudyによると250人(RAAS阻害薬やβ遮断薬を内服)の透析患者にamlodipineかプラセボを追加投与し30ヶ月観察した結果、統計的な有意差は見られなかったもののamlodipine内服グループで心血管eventが少なかったとしています。
α遮断薬はALLHAT trial(lisinopril、amlodipine、doxazosin、 chlorthalidone)で心血管eventが利尿薬グループにくらべdoxazosinグループに有意に多かったことから試験は中止され、それ以来もっぱらα拮抗薬は敬遠されがちですが、透析では実は安全に使用でき、容量の調整や透析で除去されないという利点があります。寝る前の処方が一般的です。

Clonidine/methyldopaなど中心性交感神経刺激薬は口渇、反跳性高血圧など様々な副作用がみられるので最良の薬ではないのですが、clonidineは米国では頻繁に使用されています。この薬は透析で除去されませんし半減期が長くなることも注意点です。Minoxidilはfluid retentionが特徴ですから透析患者での使用は最終選択肢となります。
最後に米国では頻繁に使用されるhydralazineですが、透析患者での使用の安全性は不明です。この薬はループス様の薬剤反応を起こすことで有名ですが、実際はそれほど見かけない印象です。ただし、一日4回の処方が必要なのでコンプライアンスの問題から好ましくありません。

透析における降圧薬の薬物動態、除去率や臨床での効果などを中心に簡単にまとめて見ました。
T.S
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透析患者の降圧薬(その1)

透析患者の血圧薬の使用は患者さんが至適体重(dry weight)に達していることや塩分制限ができていることが条件ですが、週3回の血液透析では降圧薬を必要をするのは一般的です。降圧薬を処方する際、透析に関連した薬の薬物動態といくつかのスタディーを知っておくと良いのでおさらいします。
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レニン-アンジオテンシン系阻害薬はその安全性と忍容性から透析患者には第一選択薬になります。ここで知っておく必要があるのはACE阻害薬(ACE-I)の多くは、透析患者では半減期が長くなることと透析で除去されることです。一方、アンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)は除去されません。したがって透析中に血圧が下がる患者さんにはACE-Iはよい選択となるでしょうし、透析中の高血圧が問題なら透析で除去されにくいfosinoprilやARBを使用すると良いと思われます。ACE-Iは透析で除去されますが、透析後に投与することにより血圧を比較的良くコントロールできたことをこの小さなstudyが報告しています。ACE-I以外の降圧薬(2剤まで)を内服中の透析患者11人に透析後lisinoprilを追加投与して血圧をABPM(24時間血圧測定)で観察した結果、4週間後には平均血圧が22/11mmHg低下したとしています。ACE-Iを透析患者に投与する際、高K血症は考える必要はあるのでしょうか?腸管からのK排泄は透析患者では通常よりも高く[8 (non HD) vs 20 mmol (HD)/day]ACE-Iが腸管からのK排泄を阻害するかは定かではありませんが、一般的に無尿の透析患者でもACE-Iによる高K血症には注意する必要があるようです。
ACE-Iの透析患者の予後についてはこのstudyをみてみます。Fosinoprilかプラセボを400人近い透析患者に使用しプライマリーエンドポイントである心血管関連eventを2年間観察した結果、fosinopril投与群はコントロール群に比べ降圧効果がよかったのと、有意差はなかったものの心血管関連eventを低下したとしています。
ARBの透析患者への影響ですが、この日本で行われたopen label study (valsartan, candesartan, losaratan対プラセボ )によると360人ほどの透析患者をARB を含んだグループとそうでないグループに分け3年間観察した結果、両グループとも降圧を達成できたもの、生命予後に差はなくARBグループは心血管関連eventの低下をもたらす可能性があるとしています。

ACE-I/ARBの透析患者への使用は降圧効果と心血管eventの低下に関連している可能性があり第一選択薬として推奨されています。ACE-Iの多くは半減期の延長と透析で除去されるのが特徴である一方、ARBは透析では除去されません。次回はカルシウム拮抗薬、β受容体阻害薬や他の降圧剤について触れてみます。

T.S
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透析膜の再使用

米国の透析が日本と異なる点はいくつかありますが、特に驚いたのが「透析血流の速さ」と「透析膜の再使用」です。透析膜の再使用は日本では認められていませんが、米国と多くの発展途上国ではよく行われています。
血液透析が一般に普及されはじめたのは1960年代ごろからですが70年代後半より尿毒性物質の除去に優れるとされるハイパフォーマンスの透析膜が登場しました。ところが、この透析膜は当時とても高価であったためコスト削減目的で、透析膜を廃棄する変わりに、洗浄・消毒をしたのち再使用をはじめました。再使用はさらに医療廃棄ごみの削減と新しい透析膜を使用する際にしばしば起こったエチレン・オキシドという消毒剤によるfirst use syndromeを予防できることから盛んに行われるようになりました。しかし2012年現在、ハイパフォーマンス透析膜が通常の透析膜を使用した場合に比較して、生命予後に関して明確な利点が証明されていないことと、ハイパフォーマンス透析膜が安価になってきていること、またエチレン・オキシドが製造の段階で使用されなくなった今、再使用が本当に必要なのかどうかと思います。

米国の透析膜の再使用の頻度をグラフに示します。米国の透析はDavitaとFreseniusという2大透析会社を中心に展開しています。Freseniusは2002年から透析膜の再使用をなくしましたがDavitaはいまだに再使用をしています。したがって米国はいまも40%近くの透析施設で再使用が行われています。
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使用済みの透析膜の消毒方法ですが、以前は発がん性作用を持ったホルムアルデヒドを使用していましたが、現在はほとんどperacetic acid (過酢酸)です。透析膜の再使用回数は施設にもよりますが、一つあたり10-70回ほどです。患者に使用後、2時間以内に過酢酸で消毒したのち透析膜のtotal cell volumeを測定し、物理的な損傷がないことを確認します。その後、10時間ほど消毒液に浸すと使用可能な状態になります。一般的に水道水を浄化したのち透析液を作る血液透析は完全な無菌ではありませんが、このような方法で消毒した透析膜を使用し感染が起こらないのが不思議に思うほどです。

透析膜の再使用とそうでない場合の透析効率に関するデータはHEMOスタディーのサブ解析が示しています。この試験では透析膜の種類と消毒方法によって、尿毒性物質(尿素、β2ミクログロブリン)の除去率が消毒回数とともにどのように変化するかを観察しました。その結果、透析膜の種類に限らず10回程度の過酢酸消毒では小分子である尿素の除去率は1-2%程度低下しました。一方、中分子のβ2ミクログロブリンの除去率はポリスルフォン(PS)膜(F80A)では変わらなかったもの、ハイパフォーマンスセルロース膜(CT190)では30-40%低下しました。また過酢酸に加え透析膜を漂白するとクリアランスがあがります。この理由ははっきりしませんが、1) セルロース膜は血中たんぱくと結合しやすいため透析膜孔を閉塞するためクリアランスが低下する 2) PS膜は血中たんぱくを結合しにくいか、過酢酸によりよりダメージを受けやすいなどの理由が考えられます。一方、漂白剤はポリマーを除去するので、より透析膜孔を大きくしクリアランスを良くする可能性があります。

再使用により透析患者の生命予後への影響ですが、再使用膜vs新しい透析膜によるランダム化された前向き臨床研究はありませんが、この比較的大きな後ろ向き研究報告によると、どちらを使用しても生命予後にあまり差はないとされています。

米国で透析膜は一つ10ドル以下です。透析膜が仮に10ドルとして、100人いる透析施設で、週3回透析での年間のコストを簡単に計算してみます。52週x 3回透析x10ドルx100人=156,000ドル。一方、再使用の方ですが、平均20回再使用したとすると、年間156回の透析で1人が10本使ったとしても透析膜に関しては10本x10ドルx100人=10,000で済みます。ただしこれに加え、消毒液、消毒施設の管理費、技師さんの給料(平均年収35,000ドル)がかかってきます。仮に消毒のためだけに技師を3人雇ったとしても35000x3人=105,000ドル、消毒液2000ドル程度、施設管理費を含めてももしかしたら、再使用の方が少し安く上がるのかもしれません。ただし、その差は極めて小さなものとなってきていることは事実です。

Davitaは透析膜の再使用を行っている代償として?使用済みの透析関連ごみをリサイクルするプロジェクトを昨年発表しました。医療廃棄物をリサイクルし、非医療のプラスチック製品などに再利用するようです。まずはカリフォルニアにある106の透析施設でパイロットスタディーをするようですが、年間160トンものごみの削減につながると予想されています。

以上、透析膜の再使用は日本では禁止されているのでなじみがありませんが、発展途上国では日常行われていますし、先進国の米国でもいまだに行われています。KDOQIは再使用に関しては推奨も否定もしていません。米国で再使用が始まった経緯と消毒剤による透析膜クリアランスの変化と患者への影響などを中心におさらいしてみました。

T.S
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Computing

臨床にせよ、研究にせよ、生命科学においてノイズはつきものです。それゆえ、データを処理、解析する作業は必須です。ちょっとしたデータ処理を自分で行えるようになることは、長期的にメリットがあると思います。昨今、インターネットを介して得られる情報量は莫大で、様々なツールも無料で入手できます。今回はフリーでできるcomputingの一例を挙げてみます。
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無料テキストエディタ 
テキストエディタにてテキストファイルを変換する“トリック”は、情報処理において幅広く利用できて、便利です。例えば、数百人分のIDや様々な検査結果がエクセルシートにまとめられているとします。このデータを使って統計処理する際、まず最初に、手元にある統計ソフトにフィットするように、データの形を整えないといけません。例えば、データAとデータBの間は、,(カンマ)で区切らないといけなかったりして、数百人分のデータ一つ一つにひたすら,(カンマ)を付ける単純作業をする必要があるかもしれません。データの抜けているところを自分の目で一つ一つ探して、特有の記号に置き換える必要もあるかもしれません。数百人の臨床データなら力技で押し通せるかもしれませんが、何千個にも及ぶ遺伝子発現のデータなどとなると、お手上げです。
一例として、ここにあげるテキストファイルデータ(ProximalTubuleData xx)はMark Knepperの管理するNIHのウェブサイトから引用したものです。
大量の文字や数字が並んでいますが、よくみてみると所々データが抜けていたり、遺伝子の説明があったりなかったり、それも” ”で囲われていたり囲われていなかったりで、これをそのまま統計ソフトに読み込むことはできません。そこで、テキストエディタを使えば、自分の必要とするデータを必要な配列に、例えばこのように(ProximalTubuleData xx b)瞬時に変換することが可能です。

無料統計ソフト R
Rは過去10年ほどで飛躍的に成長している無料の統計ソフトです。Rはプログラミング言語の一つで、R特有の表記を学ぶ必要がありますが、Rの基本となるベクターの働きを理解すると、データ処理に非常に優れている言語であることが実感できます。特にグラフィックの面で優れています。以前CQIのところで紹介したデータも全てRを使いました。

注:上記の無料テキストエディタの欄ではWindowsにて、フリーのNotepad++を使用しました。Search→replaceを選択し、search modeにてregular expressionを選択し、Find whatに  (\d+_\w+)\t(\w\w_\d+)\t(\d+\.\d+)\t([^\t]+)\t([^\t]+)\t([^\t]+)\t(.*)\t([A-Z]{10,})
を入れ、replace withに \2\t\3\t\5\t\6\t\"\"\t\8 を入力しました。Regular expressionは他のソフトでも広く共通して使え、Mac OSやLinuxではTextWrangler、gedit、jEditなどがNotepad++の代わりに無料で使用できます。Regular expressionの説明はここでは省略しましたが、興味のある方は、インターネット(無料)や関連する本(例えば、Practical computing for biologists, Steven Haddock, Casey Dunn, SINAUER Associates, Inc.)を参照してください。

波戸 岳
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尿細管性アシドーシス(RTA)part 2

RTAは腎臓が原因で高Cl-性代謝性アシドーシスをきたす病態であるとPart 1で書きましたが、厳密には“正常または正常に近い腎機能”で酸の排泄障害がある病態を示します。高Cl-性代謝性アシドーシスの原因で大事なのは慢性腎臓病(CKD)です。特にGFRが40ml/min以下になるとネフロン数の減少からアンモニアの産生が低下するため、腎臓は体内で作られた酸を十分に排泄できなくなり、高Cl-性アシドーシスを呈します。GFRが20ml/min以下とさらに低下すると陰イオンを排泄できなくなるため、「アニオンギャップ」(=通常計測されない陰イオン)が増加します。したがって通常CKDでアニオンギャップがみられるのは腎機能が進行した場合であることがわかります。

3型RTAは1型と2型RTAが混在した小児にみられる稀な病態です。

RTAで最も多いのが4型RTAです。病態は“低レニン性-低アルドステロン症”です。臨床上1) 軽度のCKD 2) 糖尿病3) 高K血症4) 高Cl-性アシドーシスを呈していることが多いです。4型RTAの正確な機序は不明ですが以下のことが指摘されています。

腎臓:低レニンの機序は不明ですが、それに伴う低アルドステロンは高K血症をきたします。腎機能が正常だと高K血症そのものが集合管からのK排泄を促すため高K血症は改善しますが、CKD(特にGFR 40ml/min以下)ではネフロン数の減少から高K血症とアンモニアの減少からアシドーシスをきたします。またCKDは体液過剰にある場合が多く、これがレニンの分泌を抑制していることが考えられます。その証拠に、利尿剤などでhypervolemiaを改善するとKや血圧は正常化します。ただし、両側の腎臓を摘出してもアルドステロンは産生されることと高K血症がアルドステロン産生を刺激することから、低レニンだけが4型RTAの原因とは考えらていません。

副腎:糖尿病によるインスリン抵抗性からか、副腎のzona glomerulosaの機能障害を引き起こしアンジオテンシンII不応の低アルドステロン症を呈します。
実際このstudyではACTHによるアルドステロンの分泌は正常であったため、DMは副腎におけるpost receptor defectを引き起こすと考察しています。

薬剤:レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とヘパリンは高K血症を助長します。RAS阻害薬はその名のとおりです。NSAIDsはプロスタグランディン(PG)の合成を阻害しPGはレニンを刺激することがわかっていますので、低レニンから低アルドステロンに関与します。ヘパリンは副腎におけるアルドステロン合成を抑制するため低アルドステロンとなります。

4型RTAの治療はK制限のほか血圧が正常なら、fludrocortisoneなどの鉱質コルチコイドの投与が有効ですが、体液過剰や高血圧がある場合は利尿剤です。
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またRTAではありませんが、“高K血症と代謝性アシドーシス”を呈する病態で重要なのは、鉱質コルチコイド受容体(Mineral Corticoid Receptor:MR)の障害です。遺伝的にMRに変異があるため、アルドステロンの感受性の低下した偽性低アルドステロン症(psuedo-hypoaldosteronism: PHA type1)という病態がありますがこれは小児でみられアルドステロンの産生に異常がないが高K血症や代謝性アシドーシスを呈する病態です。また米国で好まれる黒いlicorice(甘草)に含まれるglycyrrhizic acidは腎臓で11-β-hydroxysteroid dehydrogenase [コルチゾール(MRに作用する)→コルチゾン(MRに作用しない)の変換酵素]を阻害するため、腎臓における鉱質コルチコイドを増加させるためPHA の治療としても使用されます。

T.S

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Potpourri II

最近のDr. Singhのブログにて、アメリカと他国(主にアジア)の透析の違いについて触れた記事がありました。これはそもそもUCLAのDr. Kalantar-Zadehの記事をもとにしたものですが、各国の透析の違いをどうとらえるか、2人の見方が異なっており、興味深く思いました。この記事では、On-line hemofiltration、クレメジン、たんぱく制限食などがあげられていますが、他にも違いはいくつもあげられます。特に急性期の透析療法に至っては、違うことのほうが多いといって過言ではないでしょう。
このような違いをあげたとき、往々にして、どの国が優れているかという論争になりがちですが、”Anonymous”がDr. Singhのブログのコメント欄にて指摘しているように、”RCT proven”に限らず、現時点でベストと思われる選択肢を探す姿勢は、目の前の患者をみるに当たって大切なことだと思われます。
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各国の医療制度や倫理の違いは大きく、それは、臨床治験の活動にも大きく影響を及ぼします。例えば、アメリカのFDAは、新薬を用いる臨床治験を審査する際に、新薬の潜在的な患者への利益よりも、その新薬が患者に有害でないことを重視します。そして、その傾向はますます強くなってきています。そのため、新薬や、人体に使われるディバイスが、治験の直前まではアメリカで開発されつつも、臨床治験はヨーロッパにて行われる、というパターンが増えているようです。例えば、以前紹介したものでは、コレステロール吸着膜を使用したsFlt1のapheresisがそうです。もっと最近の例では、来月ドイツにて、ベットサイドGFR測定機器を用いた臨床治験が開始となります。逆に、ヨーロッパの国によっては、動物を使ったグラントの認可は、厳しく制限されているところもあると聞いています。各国がお互いの利点を生かして、協力、前進していく姿勢は、今後更に重要になってくることと思います。

波戸 岳
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Quiz 2

最近の腎生検からです。診断は何でしょう?

電子顕微鏡写真1
電子顕微鏡写真2

波戸 岳
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