MET

アメリカの病院は、Medical emergency team (MET) もしくはRapid response team (RRT)とよばれるチームがほぼどこにも存在します。これは、院内の患者さんの容体が急に変化した際、24時間体制で誰かが早急に適切な初期治療を施せるように作られたものです。
Respond to a “spark” (patient complaints, signs, symptoms) before it becomes a “forest fire” (cardiac or respiratory arrest).

MedicalEmergencyTeam.jpg

病院内の死亡率はここ30年、ACLSを施すコードチームの存在や標準化された治療、医療の進歩にかかわらずほとんど横ばい(アメリカ14.7%)です。METは心停止に陥る前の段階で、早期に適切な対応がなされれば病院内における死亡率を削減できるのではないかという理由からもともとはオーストラリアの病院ではじまった試みです。

METの構成は通常、医師とICU看護師で、今の病院はさらに薬剤師や呼吸療法士なども加わります。METは誰が呼んでもよいことになっていますが通常看護師が判断をします。バイタルに急激な変化があり、持続した場合担当医の許可なしに呼ぶことができます。先日、私の担当する腎移植の既往のある患者さんがurosepsisで入院していたのですが、血圧の低下と、貧脈を呈していましたが、私は外来中でしたので電話指示を出したりしていました。外来が終わって患者さんを見に行くと、状態はあまり変わらなかったため循環器の先生を呼ぼうと電話で話をしている最中にMETが呼ばれました。(私はMETを呼ぶつもりはありませんでした)そしてあれよあれよという間に、処置が行われ、さっさと ICU に搬送されていきました。私らにはとくにICUに搬送しても良いかなどの打診はなく、目の前に入る患者の状況に応じて淡々とことが運ばれていったわけです。こういった体制に慣れていない日本の医者なら自分のやっている治療を妨害されたとか担当医以外の人たちによってことがどんどん運ばれることに対して不快な思いをするかもしれない状況ですが、結局は患者にとってはよいことでした。
以前にも書きましたがこちら来て思うのは診療は病院のすべての人たちによって行われるものだという感覚を強く感じます。チーム医療ですね。

日本ではこの制度を取り入れているところはどれほどあるでしょう?METを取り入れるには、医師を含めた人材の確保が問題になるでしょうし教育や標準化された治療の徹底、また医師主導の医療そのものが変わらない限り、スムーズにはいかないでしょうね。この制度はこちらに来てとてもよいと思ったことの一つですので日本でも実現すると良いです。

T.S

アンジオテンシン阻害か降圧か?

内科レジデントに「DM腎症の患者さんに投与されるべき薬は?」と聞くと10人中10人、「ACE or ARB」と答えます。1970年代後半に初めてのACE阻害薬であるcaptoprilが登場してから数々のclinical trialでアンジオテンシンblockadeがDMやCHFに有用であることが証明されました。
ただ最近の数々のtrialとそのニックネームの多さから、どのtrialが何を証明したものだったか分からなくなることが多いですね。糖尿病性腎症とアンジオテンシン阻害に関して知っておくべき論文は下記だと思います。

DM neph.jpg

糖尿病性腎症の進展抑制にACE阻害薬が有用であるという最初の前向き研究は1993年のcaptopril collaborative studyです。このstudyからは1型糖尿病患者において、ACE-Iとそれ以外の降圧薬を使用したグループと比較して血圧の値に関係なくdoubling of S-Cr、末期腎不全、死亡率に関して、ACE-Iグループがプラセボと比して優ったという結果です。
また2型糖尿病患者においても2001年のNEJMに同時に3つの論文が出され、腎不全への進展抑制はARB群とプラセボ群でみると、ARBが腎不全への進展抑制効果があったというものです。
一つは有名な「RENAAL」trial でlosartanとプラセボで4年間比較すると、糖尿病性腎症末期腎不全への進展にlosartanは20%程度その進行を遅くするという結果でした。ただ12か月における血圧はlosartanのほうが低かったのでそれによる影響があるかもしれないとう意見もありました。その穴は同時に発表された「IDNT」によって補填された結果になります。これはirbesartan、amlodipine、プラセボの3群で糖尿病性腎症の進展を4年以上観察した結果、ARB投与群はamlodipine投与群に対してdoubling of S-Crに関して有意さは認めたものの、末期腎不全、死亡率に関して有意さはARBとプラセボ、ARBとamlodipineで見られませんでしたが、血圧は4年間通して3群で有意差がなかったのと、3群に分けたため各々のpowerが低かったという要素が加味され「losartanとirebesartan」の2剤が糖尿病性腎症の末期腎不全への進展抑制効果あり、というFDAのお墨付きをもらったわけです。未だに、国営のVA hospital(退役軍人病院)では上記の適応に関して他のARB(candesartanやtelmisartanなど)は認められません。(ばかばかしい話ですが)

ただし!大事なのは降圧であることを忘れてはなりません!ACE-Iが登場する以前に行われた降圧によるDM腎症の進展抑制の前向き研究によると(数は少ないですが)
1型糖尿病腎症患者をβブロッカー、αブロッカー、利尿薬などで降圧した場合とそうでない場合とでみた場合、降圧は「腎機能の低下を10年間で半分以下に抑えた」というものです。この単純で説得力のある論文は「ここ」「ここ」にあります。

簡単にまとめますと、降圧をしないと顕性DM腎症は年に腎機能が10ml/min低下するところ、血圧を下げるとGFRの低下は5ml/min/年に改善、アンジオテンシン阻害薬を加えると4ml/min/年になります。ACE-IやARBの投与は降圧に加え効果はたしかにあるわけですが、もっとも重要なのは血圧をコントロールであることを示唆しています。

T.S

オススメの本:Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders

腎臓内科領域の洋書及び和書を御紹介します。



電解質、酸塩基の教科書としてイチオシです。難解なところもありますが、自分の症例に当てはまる所を読むだけでも十分に勉強になります。読むたびごとに、新しいことを学んだ気分になれる本(記憶力が悪くなっていて以前に読んだ内容を忘れているだけなのかもしれませんが)。

アマゾンのCustomer Reviewsには、

電解質の臨床は難しいというイメージがありますが、この本を読めば、電解質はこんなに簡単だったのかと思うようになります。電解質を理解するために、腎生理からはじまり、電解質異常の臨床へと、懇切丁寧な説明、大量の参考文献に基づいた根拠のある記載が満載です。Dr. Roseは、UpToDateのChief Editorとしても有名なかたで、医学教育にも熱心な先生です。日本の電解質の教科書のほとんどは、この本を参考図書として取り上げています。

とあります。

今井直彦

日米比較:透析時の足つれ

  血液透析時、患者さんが「足つれ:leg cramp」を訴えることがある。透析時の足つれの原因は、局所の血管収縮による血流障害と考えられている。電解質異常(低K、低Ca、低Mg)が背景にあることもあるが、たいては過度の除水により引き起こされることが多い。従って、実際の現場では足のマッサージの他に、除水を減らす、生理食塩水を投与する、マニトールを投与する、あるいは高濃度(10%)食塩水を投与するなどで対応されるが、日本ではカルチコール(カルシウム製剤)を静注することもある。不思議なことに、背景に低Ca血症がなくてもカルシウム静注は著効することがある。

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  日本では日常的に行われている足つれに対するカルシウム静注であるが、アメリカでは全く行われていなく、透析関係者に話すと驚かれる。カルシウム静注には、実は心停止などの重篤な副作用もある。また、高P血症を伴っている場合にカルシウムを静注することで血管内にprecipitationを起こし、心筋梗塞などを起こす可能性すらある。そう考えると、理論上はあまり勧められた治療で無いような気がする。

長浜 正彦

PKDと癌

私が腎臓内科を志した理由の一つに、腎臓の病態生理が面白そうだった(というより全くわからなかった)ことと、「癌」はきっと治せないだろうから癌のない分野に進みたいという愚かな思いが当初ありました。ですが実際、腎臓病はほとんど治らないですね。。。。

そんなこんなで私はアメリカで腎臓内科フェローとして勤務しています。フェローといっても専門研修医ですから、研修医生活は日本でしてきた分も含めると8年もやっています。アメリカ人からすると「trainingをそんなするなんて信じられない」とみんな口をそろえて言いますね。しかも現在のフェローシップはリサーチに費やされる時間が通常のフェローよりも多いコースを希望したため2年ではなく、3年フェローとして働きます。ただ臨床ばかりではなくこのコースの良い点は2年間しっかり研究に専念できることです。臨床経験だけではなく、リサーチの面白さも知ってもらい、将来のscientist/clinicianを養成しようという背景がこの制度にはあります。

PKDnorm.jpg

さてそれはさておき、私は「多嚢(のう)胞性腎症:polycystic kidney disease(PKD)」に関する基礎研究に携わっています。これまで正直PKDについては勉強したことがあるとは言い難く、今いろいろ勉強中です。PKDで特に面白いと私は思うのが「ADPKD(常染色体優性遺伝性嚢胞腎)のtwo hit hypothesis」です。ADPKDは嚢胞ができ始める年齢が人それぞれ違いますが、その理由としてtwo hit hypothesisが関与しているといわれています。

ADPKD はPKD1という遺伝子変異が原因の一つですが、この遺伝子座にある2つの対立遺伝子のうち1つは生まれた時すでに変異(1st hit)していますがもう一方は正常なため、すぐには病気を発症しません。その後、正常の遺伝子が何らかの原因でsomatic mutationを起こし(2nd hit) PKDが発症するというものです。ADPKDの嚢胞は実は腎臓全体のネフロンの1%からできていて、それら嚢胞を調べると多くは固有の尿細管上皮細胞に起源を持つことがわかっています。このDNAを調べると多くはPKD1遺伝子のヘテロ接合性が失われています。言いかえると、嚢胞はPKD1における正常の遺伝子対が何らかの変異を起こしているということです。これについては、この文献この文献にとてもよく記されています。

そもそも「Two hit hypothesis」とはKnudson hypothesisとよばれ、癌の発症には複数のDNAへのhitが必要だという理論に由来しています。現在がんの発症には癌増殖を刺激する遺伝子異常(1st hit)に加え、癌抑制遺伝子の不活性化(2nd hit)の両方がないと発症しないようで、そういった意味でADPKDは「癌」にとてもよく似たものであるといえますね。
そんな癌のようなPKDの治療も急速に進んでいて、いくつか有望な新薬(Tolvaptan, Rapamycin, Somatostatinなど)がclinical trialに入っていますので、良い結果が出ることを願うばかりです。

T.S

AST Fellows Symposium

American Society of Transplantation (AST)
Fellows Symposium of Transplantation Medicine:at Grapevine, Texas, Aug 6-8, 2010,

毎年ASTがフェロー向けに開催しているシンポジウムのお知らせです。
基本的にこのシンポジウムに始めて参加する人で移植に興味のある医療従事者であれば、誰でも参加対象となるようです。腎移植だけでなく、肝・膵・心臓・肺などのスモールグループに分かれたセッションもあります。臨床の先生だけでなくリサーチの先生もいらしていて、移植免疫の基礎的な講義をしてくれるので、初心者がまず移植の全体像を大まかに把握して、最近のトピックスを学ぶにはよい機会だと思います。他の大きな学会と比べるとこじんまりとしたアットホームな会で、質問などもしやすいと思います。
トラベルグラントがあり、早い者勝ちですが、シンポジウム参加費、ホテル宿泊料、滞在中の全ての食費(ホテル内での)、交通費(ただし上限330ドルまで)がでます。詳しくはASTのウェブサイトを見てください。応募には指導医の先生のサインがいると思います。
http://www.a-s-t.org/fellows/index.php

昨年までは通常10月に行われていたのですが、今年は8月6~8日に変更になっています。講義もさることながら、各地のフェローとそれぞれの施設のプロトコールやフェローシップについてなどいろいろな情報交換ができるのがおもしろかったです。アメリカでも移植のプロトコールや適応は、各施設ごとに異なっているので、自分が常識だと思っていた治療もところ変われば。。。ということも多々あり、そういう意味でも勉強になりました。

日本から参加するとなると、トラベルグラントを使ったとしても、飛行機代は、ほぼ自分もちですが、現地にきてしまえば、(基本的にずっとホテルにいることになります)、お金はかからずシンポジウムが受けられます。グラントの締め切りは米国時間の6月14日ですので、興味のある人はまず応募してみたらいかがでしょうか?

鈴木倫子

煙草と腎臓

smoke icon.jpg
喫煙が「癌」や「心臓病」の増加に関与することはよく聞きますが、「喫煙」と「腎臓病」はさほど話題に上がりません。喫煙が血管内皮障害を誘発したり、動脈硬化による高血圧よりCKDに進展するのではないかと推測はされていますが、実際喫煙者がCKDになりやすいかどうかの証明はされていません。

腎臓移植に関しても喫煙とgraftの予後や生命予後に関する話題はありますが、今月のAJKDにちょっと違った視点からみた記事がありました。Nogueriaらによると喫煙者や喫煙歴のある人は非喫煙者と比較して、生命予後及び移植腎臓の予後を悪くするだけではなく、移植腎の早期拒絶に陥りやすい可能性があると結論づけています。後ろ向き研究で生活歴の詳細は不明なところもあるでしょうが、もしこれが事実だとすると、喫煙および喫煙歴の有無によりレシピエントのselection
criteriaに制限を設けるべきか?なんていう議論も出てきてもおかしくないですね。
喫煙はおそらくパーキンソン病を除く多くの病気に害を及ぼすでしょうから、喫煙と病気を関連付けた話題=禁煙推進につながることを考えると、様々な分野から喫煙の害に関して報告されるべきでしょう。

ところでアメリカ国内の喫煙率は平均20%前後で州ごと差はあるようですが、日本の男性喫煙率の約半分です(約38%)。たばこの値段はアメリカ>日本ですが、実際は州ごとに大きなgapがあるようです。いま私のいるサウスキャロライナ州は全米でもっともたばこ税が低く(7セント/箱)、このrateは1970年代から1度も変わっていないそうです。(実際3ドル台でたばこが買える)それにくらべ、NY市は全米で最も高額の4ドル25セント/箱を課します。(たばこは8、9ドル/箱)
ですがNYの喫煙率は18%でサウスキャロライナは22%ですから、値段の割に喫煙率にさほど差はないようです。必ずしもたばこの値段だけで、喫煙率を大きく下げることは難しいのかもしれません。
日本とアメリカの違いは、レストラン、会社、病院など公共場所での喫煙がアメリカではできないことが大きいような気がします。日本は飛行機は全面禁煙ですが、電車は喫煙車両が今でもありますし、レストラン、居酒屋では当然のように喫煙席があります。
日本でも公共場所での全面禁煙が実現することを願います。

T.S

「アメリカ移植学会年次総会2010/5/1~5/5」

先週サンディエゴで行われたAmerican Transplant Congress (ATC)に参加してきました。
Nephrologyの年次総会であるAmerican Society of Nephrology (ASN) と比べると、規模はやや小さいですが、それでもAmerican Society of Transplantation (AST:主にTransplant nephrologistsと hepatologistsのためのどちらかというと内科サイドの学会)と、American Society of Transplant Surgeons (ASTS:移植外科医がメインの学会)が合同で毎年一回この季節に開催する、アメリカの移植学会としては一番大きな学会です。
医師以外にも、基礎研究者はもちろん、薬剤師、ナース、コーディネーターなどが参加します。
tacrolimus.JPG
今年の話題として印象に残ったものでは、ステロイドフリーの維持免疫抑制療法のみならず、Calcineurin inhibitor (CNI: Tacrolimus やCyclosporin Aなど現在の腎移植における免疫抑制の基幹となる薬剤)フリーの試みも発表されており、“Calcineurin inhibitor: Love Them or Leave Them ?”というタイトルのシンポジウムもありました。またステロイドやCNIに変わる新しい薬剤に関する報告も多々あり、今私達がアテンディングの先生に「先生がフェローの頃ってradiationとかImmuran (Azathioprine)がメインだったんですよね?」ときくように、いずれ私も『先生がフェローの頃ってタクロリムス全盛の頃だったんですか?』といわれる日がくるかもしれない、などと思いながらセッションをきいていました。他には2008年のNEJM(Scandling. Kawai , Alexander )で、同時に3つの異なるグループからヒトでの報告が発表されて以来、更なる注目を集め、現在移植学会でのホットトピックスとなっている免疫寛容についてのもの、そしてRegulatory T cell(TReg)に関するセッションが多くみられました。Tregの発見者でTregの父と呼ばれる日本の坂口志文先生(京都大学再生医科学研究所)のTregと免疫寛容に関するシンポジウムは学会のトピックスとして大きくとりあげられていました。

学会そのものもさることながら、学会開催中日に、臓器提供推進キャンペーンの5kmのRun & Walkがありそれにも参加してきました。早朝6時すぎに学会場そばの海沿いのランニングコースに500人近い参加者が集まり、皆それぞれのペースで楽しんでいました。最近運動不足の権化のような生活を送っていることもあり、当初は「靴をもってきてないから。」と断っていたのですが、アテンディングに「僕らも参加するんだから君もぜひ参加しなさい!」といわれ、前日に郊外のTargetというスーパーに学会発表のポスターの大きな筒をかついだままつれていかれ、急遽ジョギングシューズと、パーカーなどを買い、参加することになった次第です。頑張って早起きして、思い切って参加した5km walkは、思いのほか非常に爽やかで気持ちよく、多くの移植に関わる人たちと会話しながらの海沿いの散歩は、よい体験になりました。日本人の先生方も少なからずおみかけしましたが、runの先頭集団を突っ走る数人の日本人の先生方を、尊敬のまなざしでみておりました。皆さんも海外の学会に参加されることがあったら、どの学会でもけっこうこうしたイベントを行っているので、思い切って参加されてみてはいかがでしょうか?何かを一緒にすることによって、非常に気軽に会話の糸口が開かれるものですし、意外な出会いがあるかもしれませんよ。(ただし、翌日の筋肉痛には御注意を)。

インディアナ大学 腎臓移植フェロー

鈴木倫子

Moonshine

“Moonshine”という言葉を知っていますか?今いるアメリカ南部に来るまで私は聞いたことがありませんでした。Moonshineは違法蒸留酒のことで、特にアメリカ南西部では自宅で今なお作っている人たちが多々います。なぜジャック・ダニエルではなくmoonshineか?それは安く大量に製造できるからで、味に関してはよくわかりません。地下に古くから蒸留装置が設置しているなんてお家は相当数あるようです。
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なぜmoonshineを取り上げたかというと、違法蒸留酒は「鉛」を多く含むからです。最近の蒸留装置はだいぶ少なくなったようですが、以前は車のラジエーターが蒸留装置に使用されていたので、漏出した鉛による、lead nephropathy(慢性鉛腎症)が問題です。
ローマ帝国はワインに含まれていた鉛が原因で衰退したのが一つの原因といわれるほどですから鉛は昔から問題を引き起こすことがわかっています。米国では1980年以前に製造されたペンキは鉛を含むため主に子供への中毒が知られていますし、大人に関しては精錬所勤務者における中毒は今も問題です。

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Lead nephropathyは高血圧性腎症と区別がつけにくく、特にこの地域では高血圧性腎症の診断を受けている人たちの中で鉛の影響が見逃されていることがよくあると言われます。「高血圧」、「軽微たんぱく尿」、「痛風」と「慢性腎臓病」が主なサインです。これって日本ではいっぱいいますよね、所変われば違った疾患があるものですね。つくづく問診の重要性を感じます。「Moonshineはするか、もしくはしたことがあるか?」は今の病院では必ず問診事項に含まれ、驚くことに結構な割合で「yes」と答える人がいます。慢性鉛腎症が疑われた場合、確定診断にはCaNa2EDTAという鉛に結合するキレート剤を注射し、尿中の鉛を測定します。また治療も同様です。

それにしてもmoonshine=「月明り」ですから夜中に製造したからついた名前なのでしょうか?ちなみに研修医のアルバイトをmoonlightingと呼びます。これも届け出なしでやると違法な場合がありますのでご注意を。

T.S

臨床研究について

アメリカでは、腎臓内科のフェローシップ(日本での後期研修にあたる)中に、研究の機会が与えられます。基礎研究をする人もいますし、臨床研修をする人もいます。私がフェローシップを行ったペンシルバニア大学病院では、以前の臨床研修セミナーでのスライドで紹介しましたが、フェローシップの2年目のスケジュールのうち約半分が研究にあてられており、なんらかの研究を行い、学会に抄録を発表すること、あるいは論文を書くことがフェローシップ修了の条件でした。私は臨床研究をすることを選び、何本かの論文を書くことができました。

ところで、臨床研究を行うには、統計の知識が必須となってきています。ラッキーなことに、私の場合、フェローシップの卒業生の先輩でとても統計ができる先生が全くの好意でお手伝いをしてくれましたが、必ずしもそんなラッキーなことがいつでも、どこでも可能なわけではありません。アメリカでは、統計の専門家がいて、ある程度のお金を払って、研究のアイディアを持って相談に行くと、データの形式を専門家が指定してくれて、そのデータを集めて持っていくとデータ解析を行ってくれます。統計を本当にきっちりしようと思うとかなりの知識と統計ソフトを使いこなすことが必要になりますが、臨床をしながら、というのはなかなか困難です。でも臨床研究というのは実際臨床の現場にいる人間が最も必要で重要な臨床研究テーマのアイディアを持っています。ということで、アメリカではそのあたりの分業が進んでいて、上記のような委託が可能になっています。

臨床研究をする機会をアメリカでいただき、とても興味深いと思っています。日本帰国後も少しずつ続けていきたいと思っています。日本でも、臨床研究を援助するシステムがもっと発展するとよいなと日々思っています。

田川美穂
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