「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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「高容量のステロイド投与中は入院」という矛盾

日本ではネフローゼ症候群や血管炎、腎炎などでステロイドや免疫抑制剤を長期投与する場合、高容量のうちは入院して行う施設が未だに多くあると聞きます。私もこちらに来る前はそうしていました。なんとなくそういうルールだったからで、院内が外よりもきれいだと考えられていた理由だったと思います。

Healthcare-associated infection (HAI: 医療関連感染) による死亡数はCDCのデータでは急性期病院では毎年72万人にものぼることが報告されています。これはヨーロッパ諸国でも似たようなデータが出ています。HAIの半分はICU以外の一般病棟で起こることも指摘されています。HAIの対処法はとにかく予防につきるわけです。例えば、尿カテや中心IVラインは早期抜去、IVラインは清潔操作の徹底、MRSAやVREのスクリーニングから、contact precautionをおこなうなど、その予防項目は多々あります。なにより、入院の必要のない人はさっさと退院させることです。要はそれだけ病院は汚いところなのです。
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ステロイドや免疫抑制剤は累積投与容量や投与期間が増すほど感染のリスクが上がることはご承知のとおりです。それならばなぜ敢えて感染のリスクの高い院内で治療をするのでしょうか?

ちなみに、米国ではネフローゼや血管炎、腎炎のためのパルスステロイドやシクロフォスファミドの点滴、高容量ステロイド(1mg/kg/day)であろうが基本的には外来で行います。これは、腎移植後の患者でもそうで、私のいる施設では腎移植後は術後3日で退院ですので、その後は外来でフォローしています。ステロイドや免疫抑制剤によって(日和見)感染がおこる時は、院内であろうが自宅であろうがおきるときはおこるのです。大事なのはこういったリスクのある患者に日和見感染の予防をしっかり行うことで、入院は嘔気嘔吐など経口摂取ができないとか、呼吸困難、出血など絶対的適応がない限りさせません。それが患者さんのためになるからです。長期入院は、患者の感染のリスクを上げるだけでなく、患者のQOLの低下、医療費の高騰、ベッド使用率の面からもとても理にかなったこととは思えません。こういった無駄な入院を削減すれば、真に入院の必要な患者へのベッドを確保できますし、場合によっては余ったベッドの削減(大部屋の排除:感染およびプライバシーの面からアメリカには存在しない)、など効率化にもつながるかもしれません。

みなさんは高容量のステロイドや免疫抑制剤を使用する場合、入院させていますか?「昔からそうしていたので今も続けている」からだとしたら見直しが必要と思います。患者さんのためにも外来で治療しましょう。

TS
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