生体腎移植 その2

米国では日本と異なり、血液型不適合の腎移植を行う施設は限られています。血液型不適合、またはDSA陽性の場合は交換腎移植(kidney exchange program)を行います。大きく分けて血液型不適合のペア同士内で交換移植を行うpaired donationと、全国規模のプログラムに登録するvoucher programの2つの方法があります。

Paired donationとは、複数のペア(例:ドナー血液型A/レシピエント血液型Bのペアとドナー血液型B/レシピエント血液型Aのペア)間で腎臓を交換する移植法です。施設内でペアが見つけられない場合は、全国規模のvoucher programに登録する必要があります。米国にはThe Alliance of Paired Kidney Donation (APKD) と、The National Kidney Registry (NKR )の2つの機関がそのプログラムを運営しています。

まず、ドナーが自分の希望するレシピエントを指定しておき、先に腎提供を行います。摘出された腎臓はドナーと面識のないレシピエントの待つ病院へと運搬され移植手術が行われます。ドナーの腎提供後、数週間から数か月以内にドナーの指定するレシピエントに他の病院からの生体腎がオファーされるので、移植チームが受諾の是非を決定します。レシピエントよりもドナーの年齢が若いことに越したことはないのですが、ドナーがレシピエントより高齢でも、年齢差が10年未満であれば多くの施設がアクセプトする傾向にあります。東海岸など遠く離れた地域からのオファーの場合、CITが20時間程度かかることもあります。いくら生体腎といえどあまりCITが長いとアウトカムが悪くなりますから、レシピエントに確認をしてから最終決定をします。死体腎移植と異なり、手術日程を前もって決められるのも生体腎移植の利点の一つです。

しかし、ドナーが先に上記の機関を通じて腎提供を行ったものの、レシピエントに生体腎移植が行われない場合も発生します。レシピエントが死亡したり何らかの理由で移植が不可能と判断された場合や、レシピエントが死体腎移植を選択する場合です。腎提供はドナーの完全な自由意志に基づいて行われるため、仮にドナーの望むレシピエントが生体腎移植を受けなかったとしても文句は言えないことになっています。稀ですが、仮にレシピエントが死体腎移植を先に受けてしまっても、ドナーが引き続きそのレシピエントを指定すれば、そのレシピエントは将来2回目の腎移植が必要になった場合、速やかに生体腎移植を受けることが出来ます。

殆どのドナーは特定のレシピエントがいますが、中にはレシピエントを特定しないGood Samaritan donorがいます。「健康体に生まれたのだから、自分の腎臓を提供することで誰かを救うことが出来るのならこれほど素晴らしいことはない」と移植評価外来で述べられます。これが信仰心によるものなのか文化的な背景によるものなのか分かりませんが、個人的にはただただ驚き感謝するばかりです。

ただ、一定の割合のドナーの自殺が近年問題視されています。自殺が移植後のアウトカムによるものなのか、もともとGood Samaritan Donorを希望する人たちには精神的にそのような要素がある人が多いのかは不明ですが、特にGood Samaritan Donor希望の場合、徹底した精神科的評価、ソーシャルワーカーによる生活背景調査を行うようUNOSと移植学会から声明が出されています。

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生体腎移植 その1

米国でも生体腎移植は盛んに行われています。御存じのように、生体腎移植のメリットは死体腎移植に比べ早く移植が受けられ、腎予後がよい点です。日本では原則ドナーは親族6親等以内、姻族3親等以内と定められていますが、米国ではその制限はありません。希望すれば誰でもドナーとしての評価を受けることができます。以前述べたように臓器不足は米国でも深刻な問題であるため、生体腎移植は強く勧められています。

ドナーの条件は大きく3つあり、心身共に健康であること、平均以上な腎機能を持っていること、自らの意思で腎提供を希望していること、です。健康状態に関しては、高血圧があっても必要最低限の薬剤で良好にコントロールされていれば許可します。糖尿病、心疾患等は禁忌です。腎機能(GFR)のカットオフは施設によって異なりますが、当センターでは90を下限にしています。腎提供後、ドナーは30-40%のGFRを喪失し、かつ健康成人でもGFRは加齢とともに低下していくため、特に20代、30代のドナー候補ではより高いGFRが求められます。

身体的な評価とは別に、ILDA(Independent Living Donor Advocate)という独立したチームが精神的/社会的評価を行います。本当にこのドナー候補が自らの意思で腎提供を希望するのか、周囲からの強制がないか、経済的利益相反がないか(例えば腎提供をソーシャルメディアにアップし収入を得るなど)を評価します。また、ドナーの権利(手術当日であっても提供の意思を撤回できるなど)をひとつひとつ確認する重要な役割を担っています。一連の評価が全て完了すると、移植選考委員会で最終決定を下します。評価には約6カ月要するので、特にレシピエントが既にCKDVの場合は評価をスピードアップし、透析開始前に移植が行えるよう努力します。

腎臓提供後はドナーは数日で退院できます。その後、少なくとも6カ月毎の血液検査および尿検査を行い、全て問題なければ2年後に施設でのフォローを終了します。

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CNI minimization

タクロリムスやシクロスポリンなどのCNIほど、移植医を悩ませる免疫抑制剤はないでしょう。CNIは拒絶予防や治療に欠かせない免疫抑制剤でありながら、副作用もきわめて多い薬剤でもあります。代表的なものに神経障害(振戦、末梢神経障害、PRESS)や糖尿病悪化がありますが、やはり何といっても腎傷害(arteriolar hyalinosis, fibrosis)が一番の問題だと思います。特に、腎傷害は死体腎移植においてmarginal quality kidneyを移植された場合に顕著になります。トラフレベルを最小量にしても腎機能が回復しないことはよくあります。

その場合、CNIを他の薬剤に切り替える必要があります(CNI minimization)。米国での主流はベラタセプトです。約10年ほど前に開発された静注製剤で、幾つかの研究でシクロスポリン群と比べGFRと長期予後の優位性が示されたことから、爆発的に普及しました。特に、どんな質の腎臓でも移植するアグレッシブな施設では、移植直後からCNIではなくベラタセプトによる免疫導入を行っているほどです。

当センターでは、移植後GFRが50未満、または重篤な副作用によりCNIが使用できない場合にベラタセプトへの切り替えを検討します。移行期(最初の3カ月)はTCMRおよび感染症(特にCMV)のリスクが高まることが知られています。そのため、同剤への切り替えは移植後6カ月まで待つようにしています。また、CMVハイリスク患者は移植後1年以上経ってから行います。投与開始後は3-4カ月かけてCNIを漸減していきます。肌感覚では、約半数の症例でGFRの改善が見られます。患者さんには、たとえ腎機能の改善が見られなくても、CNIを完全に中止することで腎臓は長く持ちますと説明しています。

ベラタセプト適応外の症例では、エベロリムス/シロリムス等のmTORiに切り替えますが、薬価が高いので(月250ドル)結局CNIを再開することもあります。

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BKウイルス感染症

BKVも移植後に発症するコモンな感染症の一つです。BKVはヒトの85%が小児期に無症候性、或いは上気道経由で感染しており、移植後の免疫抑制により再活性化します。BKVは尿細管および尿管内に多く発現しているガングリオシドに結合し細胞内に侵入します。このガングリオシドは他臓器の細胞にはないため、他臓器に影響を及ぼすことはありません。また、BKVはサイトカインも殆ど放出しないため、無症候性です。

最初は尿で検出され(BK viruria)、10-20%の患者はウイルス血症(BK viremia)を呈します。一般に、血中のウイルス量が10000 IU/mLを超えるとBKウイルス腎症(BKVN)のリスクが高まると言われていますが、実際にはウイルス量がこれより遥かに高値でも腎機能が正常に保たれるケースも多いです。その理由の一つとして、NCCR(non-controlling coding region)の活性度の違いが挙げられています。NCCRはウイルスDNAの一部分で、その活性度によって病原性の強さが左右されるため、ヒトによってBKVNの発症のし易さが異なるというものです。NCCR活性が低ければ、例えウイルス量が高値でも腎機能は保たれますし、逆もまた然りです。

BKVが増殖を続けると、尿管狭窄やBKVNを起こしますが、BKVNの方がよりコモンです。原則BKVの治療薬はなく、免疫抑制剤(主にMMF)を減量することでウイルス量をコントロールします。腎機能が悪化した場合は生検を行い、BKVNの診断を行います。100%有効な治療薬はありませんが、IVIGが50%以上の患者では有効な印象を持ちます。無効な場合はレフルノミド等を投与しますが、あまり効きません。慢性BK viremiaになってもウイルス量が十分抑えられていれば腎機能低下の心配をすることはありません。BKVの殆どは移植後2年以内に発症し、経時的に発症リスクは減少するので、2年目以降はルーチンにチェックする必要はなくなります。知らない間にウイルスが消失したりすることもよくあり、その場合はMMF再開が可能になります。

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サイトメガロウイルス(CMV)感染症

移植後は感染症のリスクが上昇しますが、ウイルス感染症の中ではサイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス、パルボウイルスB19、BKウイルスが問題になります。今回はCMVについて説明します。

CMV感染のリスクはレシピエントとドナーのCMV IgG抗体の有無で変わります。ドナーの抗体の有無にかかわらず、レシピエントがCMV IgG(+) であれば中等度リスク、ドナーがIgG(+)でレシピエントがIgG(-)ならハイリスク、双方ともIgG(-)なら低リスクとなります。CMVはドナー(およびレシピエント)の白血球内や臓器細胞内に潜伏しており、免疫抑制により再活性化することでレシピエントに感染します。移植直後からバラガンシクロビルの予防内服を行いますが、中リスク患者は3カ月、ハイリスク患者では最低6カ月必要です。予防内服終了後は、3カ月程度CMV PCRをチェックします。ウイルス量が1000-2000 IU/mL以上になると無症状でも治療が必要ですが、3桁以下だとモニタリングのみ行うこともあります。

患者がCMVハイリスクだと分かった場合は、多くの腎移植内科医は身構えます。発症が急速でかつ重篤化し易いためです。移植後順調な経過を辿っていたと思いきや、ある日突然強烈な全身倦怠感や消化器症状が出現し、ウイルス量がひと月前がゼロだったものが数万以上に上昇しているなど寝首を掻かれることは稀ではありません。したがって、ハイリスク患者ではたとえ無症状であってもCMVが検出された時点で治療を開始します(search and destroy strategy)。殆どはバラガンシクロビル、ガンシクロビル静注に反応しますが、中には耐性を持つものがおり(resistant CMV infection)、その場合はUL97/UL54遺伝子変異をチェックします。治療抵抗性の場合はマリバビルやレテルモビルに変更します。どちらもよく効きますが極めて高価なので、途中でバラガンシクロビルやシドホビルに変更せざるを得ない場合もあります。

厄介なのはCMVハイリスク患者がCMV感染症と重症TCMRを併発した場合です。ATGを投与すると感染増悪は必至です。またATG、MMF、バラガンシクロビルは全て白血球減少を起こします。免疫抑制剤の調整が難しく、悩ましいところです。

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TCMRとAMR その2

免疫抑制剤の役割も絡めると臨床免疫の理解が深まります。以前述べたように、ステロイド、タクロリムス(CNI)、マイコフェノレート(MMF)がスタンダードな免疫抑制維持療法です。免疫抑制剤はリンパ球の機能を抑制することでその効果を発揮しますが、それぞれ得意不得意な分野があります。

ステロイドとCNIはT細胞の中でも急性拒絶の主軸であるエフェクターT細胞の抑制に優れた力を発揮しますが、濾胞T細胞の抑制はあまり得意ではありません。したがって、ステロイドとCNIは急性TCMRの予防および治療に使用されますが、AMRの治療には有効ではありません。重篤なAMRの場合は炎症を全体的に抑える意味でステロイドを増量する場合もありますが、個人的にはおまじないのようなものだと捉えています。

MMFはステロイドやCNIとは別の作用機序でT・Bリンパ球全体の機能を抑制するので、TCMRとAMRどちらの治療にも有効です。

免疫抑制導入および中等度以上のTCMRの治療に使用されるサイモグロブリンは、T細胞膜上に表現されているCD3,4,8など中核となるレセプタに結合しアポトーシスに導くことでほぼ全てのT細胞を機能不全に陥らせる破壊力を持っています。Banff 1B以上のTCMRが適応になります。当然感染症のリスクが高まるので、慎重に適応症例を選び投与量を調整します。

AMRの標準治療は免疫イムノグロブリン(IVIG)と血漿交換(TPE/PLEX)です。IVIGは抗体に直接作用しその機能を抑制します。TPEは抗体そのものを物理的に除去します。TPEの治療回数は施設で異なりますが、米国では隔日で6-7回が一般的です。前述したように、メモリーB細胞の働きにより抗体は持続的に産生されるため、TPEの治療効果は一時的です。したがって、治療後はMMFを増量するなどしてAMRの進行をブロックします。

慢性AMRに関してはこれまでリツキシマブが治療の中心でしたがアウトカムは芳しくありませんでした。理由はリツキシマブは既存のB細胞の機能を抑制できるのですが形質細胞に対する効果が不十分なためとされています。しかし、最近ダラツムマブの慢性AMRに対する有効性が示されました。同剤は本来は多発性骨髄腫に対する治療薬なので、B細胞および形質細胞への優れた抑制効果が期待できます。しかし、拒絶に対してはoff-label useなので使用できるかどうかは保険会社次第です。

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TCMRとAMR その1

拒絶反応は大きく分けてT細胞メインのTCMR (T-cell mediated rejection)とB細胞が産生する抗体メインのAMR (antibody-mediated rejection)に分けられます。

拒絶反応はT細胞の活性化から始まります。活性化したT細胞はB細胞(形質細胞)を刺激し、抗体産生が行われます。こう書くとTCMR単独発症はあっても、AMRは単独発症せず、必ずTCMRと併発するように思えます。しかし、実際はAMR単独発症は極めてコモンです。なぜでしょうか?

それは、TCMRにおいて組織損傷を担うT細胞と、 B細胞を刺激するT細胞は別物だからです。TCMRでは、エフェクターT細胞(CD4+Th1、CD8+)が実際に組織に浸潤し攻撃を行います。間質や尿細管にはT細胞が認識しやすいAPCやMHC-IIが多く発現しているためT細胞の第一の攻撃対象になります。そのため、TCMRは尿細管炎、間質炎が表現型の中心となります。APCやMHC-IIは動脈内皮には発現していないためTCMRでは動脈炎は滅多に起きません。しかし、重度のTCMRではサイトカインにより血管内MHC-IIやケモカインなどが発現されます。そのためT細胞に認識されてしまい、結果として動脈炎を発症することがあります。TCMRは抗原提示量が多い移植直後から初期にかけてよく発症しますが、経時的に発症リスクは減少していきます。

対して、AMRはB細胞(形質細胞)が産生する抗体による血管内皮傷害が主病態です。B細胞を刺激するのは濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)であり、エフェクターT細胞ではありません。さらに、B細胞は腎臓組織内ではなくリンパ節などのリンパ器官で刺激され抗体を産生し、AMRを発症します。つまり、AMR発症はT細胞の腎組織内への浸潤(TCMR)を必要としません。これがTCMRとAMRが必ずしも併発しない理由です。また、形質細胞が抗体を産生すると、長期間にわたりメモリーB細胞が存続します。そのためAMRは慢性化したり移植後長期間経過しても発症します。抗体は血管内皮上に発現する抗原に結合し組織を傷害します。糸球体や傍尿細毛細血管は血管の塊ですから、AMRでは糸球体炎 (glomerulitis)、傍尿細管毛細血管炎 (peritubular capillaritis)が表現型の中心になります。

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DGFとPNF

DGF (delayed graft function)とは移植後1週間以内に透析が必要になった症例と定義されます。DGFは死体腎移植ではコモンです。DGF発生率は全件数の10-20%程度ですが、アグレッシブな施設だと50%近くに上ります。通常、移植後は尿量や血液検査をモニターし必要に応じて透析を行いますが、ハイリスクドナー(長時間CIT、KDPI高値)の場合、高い確率で術後透析が必要になることが予想されます。これをexpected DGFなどと呼び、予め透析を術後に計画することもあります。症例によっては術後数日無尿が続く場合もあります。腎機能の回復速度は患者によってばらつきがあり、尿量が徐々に増えていく人、ある日突然大量に尿が出始める人など様々です。体重や血液検査に応じ透析治療の間隔を調整します。十分な尿量があるにもかかわらずクリアランスだけが不十分な場合は、出来る限り透析の間隔を延ばしクレアチニンを追跡できるようにします。フェロー時代は人手不足だったこともあり殆ど入院病棟管理だけだったので、無尿のまま術後3日で退院していく患者を見て「一体我々は何をやっているんだ?」と感じたものです。しかし、90%以上の症例は1週間以内に尿が出始め、2-3週間以内には透析離脱が可能になります。透析離脱までの期間が長いほど、アウトカムは悪くなります。

PNF (primary non-function)とは移植後90日の時点で透析離脱が出来ない、もしくはGFRが20未満の症例と定義されます。発生率は2-3%と稀です。殆どがハイリスクドナー症例ですが、中には予想に反して原因不明のPNFになる場合もありますし、術後合併症のため深刻なAKIを発症し、結果としてPNFになるなど様々です。PNFと判断した場合はUNOSに報告する必要があります。レシピエントは待機時間が保持されるので、患者が希望すれば1回目の手術から回復したのち2回目の移植手術を行うことができます。しかし、残念ながら深刻な術後合併症のため再移植適応にならなかったり、移植後感作によりCPRAが高値に上昇したため、数年以上待機する必要がある場合もあります。PNFと診断することは速やかな2回目の移植を保証するものではありません。PNFは是非とも避けたい合併症の一つですが発生率はゼロにはなりません。オファーを受けた腎臓の質が微妙な場合は、このレシピエントがPNFになった場合再移植に耐えうるかどうかまで勘案して応需を決定します。

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典型的な腎移植後経過

腎移植と同時にインダクション(免疫抑制導入)を行います。米国ではステロイドパルスに加え、バシリキシマブまたはサイモグロブリンが主流です。質の良い腎臓であれば吻合直後より尿を目視することが出来、腎機能も翌日から改善し始めます。術後翌日よりタクロリムス、マイコフェノレートを開始し、以降メンテナンスとして継続します。尿量はばらつきがありますが、1Lから多いときは10L以上出る時もあり、利尿薬や輸液を適宜投与します。必要なら透析も行います。米国では術後2-5日で退院することが多いですが、当施設では合併症がなければ術後4日目の朝に2投目のバシリキシマブを投与して退院となります。当初は術後3―5日で退院させて本当に大丈夫なのかと不安でしたが、案外上手くいくものです。患者さんは、最初の数日から1週間は創部痛と頻尿で体力的に消耗しますが、その後徐々に回復していく方が多いです。貧血がなければ術後1カ月で運転を許可します。復職時期は人によりますが、順調ですと2-3カ月以内に許可できます。

腎機能は、早ければ移植後1―2週間で安定化しますが、概ね2-3カ月かかる印象です。KDPIや虚血時間など、ドナーのプロファイルから腎機能の安定化までの期間が大体予測できます。腎機能回復のスピードが予測より遅い場合は生検を考慮します。日本と異なり生検は放射線科に依頼する必要があるので、生検が行われるまで3-4週間は待つ必要があります。緊急で必要な場合は入院させます。米国ではプロトコール生検は主流ではなく、当施設でも行っていません。

最初の2週間は週2回の通院と血液検査を行いますが、腎機能や体調の回復に応じて検査や外来受診頻度を徐々に延ばしていきます。術後6-8週後には血液検査は隔週、外来受診は月一回とし、以降1年間継続します。

もう一つ重要なのは患者教育です。当施設ではコーディネータおよび薬剤師が、初回外来と2回目受診時に数時間かけて患者教育を行います。その後も、コーディネータは通年患者のコンプライアンスを確認します。コーディネータは各患者の生活背景を驚くほどよく知っており、彼らのアドバイスに非常に助けられています。

次回はdelayed graft function (DGF) とprimary non-functional kidney (PNF) についてお話ししたいと思います。

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米国腎移植の内情

ご存じのようにアメリカは資本主義国の最たるものですから、全てが数字(金)と直結しています。一定の収益を上げなければ移植プログラムを維持させることができません。移植件数が増えると病院への収入も増えます(腎移植内科医の給与が増えるわけではありません)。前述したように、一般の人々は「移植件数」と「どれだけ早く移植受けられるか」に基づいて施設を決める傾向にあるため、競争に勝つためにはハイリスク症例に手を出さざるを得ない状況になります。腎機能が芳しくない場合、腎移植内科医や移植コーディネータは患者さんの不満や苦痛と長きにわたり向き合うことになります。その一方で、移植件数のみを喧伝して“We are saving lives !”と喜んでいる管理職をみると、どうにもやり切れなくなります。大規模な移植施設だと風通しも悪くなりますからチーム内に軋轢が生まれ易く、内科外科を問わず医師の大量退職に繋がることもあります(手前味噌ですが、当施設では外科チームと常にコミュニケーションをとり適切に移植を行っていると自負しています。小規模施設の利点です)。

これまで色々述べてきましたが、結局死体腎移植が上手くいくかは運が全てという思いを強くしています(身も蓋もないですが)。グラフト予後予測因子の中でもKDPIと虚血時間がきわめて重要であることは論を俟ちません。「質の良い腎臓」を「タイムリーに」移植できるかどうかは運次第です。オファー応需の際、患者には予想されるアウトカムについて一通り説明し、手術を受けるか見送りたいか訊くことになっています。パーフェクトな腎臓であれば文句なしに手術しましょうと言えますが、困るのは質が微妙な腎臓の場合です。死体腎移植は不確定要素が多く、腎予後を明確に予測することは難しいからです。患者さんから「Whatever you recommend」と言われてしまうとこちらも困ってしまいます。移植に踏み切るのは簡単ですが、うまくいかなかった場合必ずしも再移植できるとは限りません。かと言って、移植を見送った場合、次いつオファーが来るかは予想出来ませんし、よい腎臓がオファーされる保証はどこにもありません。透析患者の生命予後には大きなばらつきがあり、例え今問題なく生活が送られていたとしても、オファーを断った場合、2-3か月後に移植可能な健康状態であるかもわかりません。結局移植に踏み切る場合が多いのですが、移植後腎機能が芳しくなかった場合、「もう少し待つべきだったかな」と思うこともあります。

グラフトロスが生じた場合、移植後年数に関わらずUNOSに報告することになっています。しかし、移植後1年から数年経つと多くの患者は地域の腎臓内科クリニックに紹介されていくことが多いので、報告されないことも多く、自施設の長期予後を把握することは容易ではありません。結局は日々の診療の肌感覚で判断するしかなく、ましてや一般の人々が実情を把握することは不可能に近いのです(一番いい方法は、そこで働いている人に自分の施設で移植を受けたいと思うか訊いてみることです)。殆どの患者は自分の居住地域近隣の移植センターに登録することになりますが、いい質の移植が受けられるかどうかは神のみぞ知るというところです。中には他州から移植のためだけに転居する人たちもいます。

繰り返しになりますが、移植に対する患者の期待と現実には隔たりがあります。ハイリスク症例を移植する大規模センターであれば、いっそのこと「当施設では移植腎の質は保証できないが、早く移植を受けられます!」と大々的に宣伝してしまった方がお互いスッキリしていいのではないかと常々感じています。

次回は典型的な腎移植の術後経過についてお話ししたいと思います。

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