食育か食制限か?アメリカ頑張れ!

先日のOrlandoの学会のあとWalt Disney Worldにも遊びに行きましたが、そのとき感じたのが「肥満の多さ」です。大人だけではなく子供の肥満が目立ったのが印象的です。実際肥満のお子さんは肥満であることが多い。

70%以上のアメリカ人はoverweight (BMI>25)で、35%は肥満(BMI>30)ですから日本の肥満率3%と比較するとかなりの差です。この肥満の割合は増加傾向にあり、糖尿病、高血圧、心疾患の大きな原因になっていることは言うまでもありません。

アメリカで食事をしたことのある人ならわかると思いますが、レストランでの食事は量が多く、味も濃く、デザートも甘すぎて日本人の口には合わないと感じているのは私だけではないと思います。大体、こちらの外来などで肥満の患者さんに体重の話をはじめると皆、「私はあまり食べていません」とか「遺伝ですから」と口にすることが多いですが、遊園地のObese peopleは絶えず何か食べていますね。遺伝する肥満もありますが、親からもらうものがあるとしたら彼らの多くはbad eating habitです。これは生まれた時からすでに始まっています。母乳を飲ませない、formulaのミルクのほかに哺乳瓶でsodaを飲ませたり、junk foodが離乳食となるなんてことは現実にあり、もう立派なchild abuseといえます。
これは主に母親の栄養に関する知識の欠如が大きな原因で、minorityにその傾向が強いのも事実です。ですから解決法は簡単ではないのですが、「妊婦の栄養指導」は大事な気がします。これから生まれるわが子のことを気にしない親はいません。また小さな子供への栄養指導を授業の一環にし、学校のカフェテリアでは栄養バランスのある食事を与えるなど対策を何か練らないといけません。Obama夫人は“Let’s Move”と題し、小児の肥満減少を目指したキャンペーンを立ち上げましたが、少しでも肥満の歯止めになればよいですね。「食育」という概念を植えつけなければなりません。

一方「塩」に関してはFDAが加工食品とレストランの食事に使用できる塩分上限に関する勧告を行いました。 ほとんどこちらの人たちは加工食品の摂取と外食しかしませんから、効果が期待できるそうです。40年以上も前から塩の過剰摂取は高血圧を引き起こすことは分かっていたにもかかわらず、今まで塩の制限には規定を設けていませんでしたので、とうとうといいますか、とにかく大きなニュースのような気がします。
Institute of Medicine(IOM)によるとこの制限により、アメリカ人の平均塩分摂取量(ナトリウム換算)3.4gから2.3gまで下げることができ、年間10万人の命を救うことができると記事には書いてあります。ただし、アメリカ人の口に馴染んだ食事をすぐに変えることは難しく、徐々に減らしていくそうですが、何年かかるのでしょうかね~?IOMの資料をみると幼児からすでに塩分摂取が高いのが印象的です。FDAは糖分制限にも踏み切るべきなのでしょうか?強制的に制限するのではなく、「食育」から制限できないものなのでしょうかね?先進国なのですから。。。

T.S

National Young Investigator Forum@NKF

フロリダのオーランドで開催されたNKF /Amgen主催、5th Annual National Young Investigator Forumに参加してきました。これは主に腎臓内科フェローが行っているリサーチに関する全国レベルのcompetitionでアメリカ各地区予選から選出された人たちが、Basic science、Clinical scienceの2部門に分かれその成果発表するものです。総勢29人が一日で発表をしますので、質疑応答を含めて15分/人でしたが、かなり疲れました。

私はbasic部門で発表の機会をいただきましたが、みな素晴らしい発表ばかりで、とても良い刺激になりました。中には数人postdoctoral PhDがいましたが、大体はフェローレベルのMDたちで、本当に同じフェローかな?と思わせるhigh levelのpresentationもありました。
前回も書きましたが、presentation能力に関しては、アメリカ人は特にですが、まねのできない素晴らしいものが多々ありました。少しでも彼らの楽しいプレゼンのessenceを習得したいものです。研究の評価の基準は、1)臨床的に意義ある研究か?2)結果のquality 3)文献を引用しているか、4)Presentationの仕方、5)質疑応答の仕方で評価されますが、実は5)を特に重視するようです。みなこれは苦手ですよね。
一つよいことを学んだのが、質問を受けた際は、その質問の内容を繰り返して、間を少しおいて、答える手法。これによって、観客も質問を再度聞くことができ、自分も考える時間を作れます。これはJudgeである方から、会終了後のreceptionで教わりました。

この様なforumは腎臓内科に限らないと思いますが、年々アメリカでは人気が薄れている「研究のできる医師」の育成を目的としています。基礎・臨床研究の面白さを同じ土俵で頑張っている人たちの発表を聞く機会を設けることは、良い研究発表を聞くことによる刺激と同じフェローたちや一流の臨床-研究医であるJudgeの先生方との交流を深めることもでき、とてもよい機会だと思いました。NKFはこういったフェローにグラントも用意していますので、NIHのほかにNKFのグラントを取っているフェローが結構いたのも印象的でした。
これだけハイレベルのプレゼンを一つの会で聞いたことはないとJudgeのひとりが言っていましたが同感です。また来年も参加したいです。

T.S

日本人の討論力

 アメリカで仕事をしていると日本人の「討論力のなさ」をつくづく感じます。決して内容が悪いわけではないのですが、討論やプレゼンテーションが下手です。それに比べアメリカ人は本当にプレゼンテーションが上手です。独特の雰囲気作り、展開のうまさ、ユーモアを取り入れた内容の濃い、すばらしいプレゼンを聞くと本当にまねができないと感じてしまいます。

DiscussionやPresentation能力は、大人になってうまくなる人はもちろんいるのでしょうが、大半は子供の頃から繰り返し訓練を受けているからできるわけです。私はアメリカで小学校時代を過ごしましたが、すでに小学生の低学年から、新聞の切り抜きを持参し、その話題に関してみんなの前で発表をさせ、クラスでDiscussionを繰り広げる場面が多々ありました。皆がうまいわけではないですが、こういった環境の中で育つ人とそうでない人の違いは将来大きな差を生むことは事実でしょう。このあたりの比較・体験は以前書いたエッセイに書いてあります。

日本人が討論力を欠くもう一つの要因は「出る杭はうたれる」環境にあると感じています。「平均」を心地良いと好む国民性に加え、とにかく日本特有の「みんな仲良く」という学校教育の基本方針をどうにかしないと、良いことも悪いことでも目立った人は指をさされ、結果としてその子供の行動を委縮させてしまいます。

いじめが最近よく日本では問題になっているようですが、いじめなんてどの国にも昔からあるもので今更始まったことではありません。そもそも人はみんな違うのですから、「みんな仲良く」できるわけがないのです。そんなことができたら世界で戦争なんておきませんよ。人はみな楽器に例えるといいのです。弦楽器、管楽器や打楽器、みな音色や音量は違いますが、オーケストラとして一緒の曲を奏でたら素晴らしいわけです。(オケの多くは弦と管、通常仲悪いです)教育とは個々がまずどういった楽器なのかを示してあげることから始まり、次にその楽器をいかによく奏でるか導いてあげることだと思います。アメリカでは子供が学問のある分野が苦手だったとしても、その子に駄目だしすることは少ないでしょう。結局、弦楽器は打楽器にはなれないわけですから当然ですし、それを先生がよく認識しています。

Discussion能力の育成は楽器同様小さいころから習わないとうまくなりません。
日本では文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム」の中で多くの大学が「討論力養成」を目標に掲げていますことはよいことだと思いますが、大学生から養成しても遅いのです。そういったことを考えると、日本人の苦手とする「討論力」を養成するには、もっともっと小さいころから訓練することが大事になってくるでしょう。

T.S

外国人のアメリカでの献腎(死体腎)移植

日本での絶対的ドナー不足により、海外で臓器移植を受ける日本人もいるが、日本人がアメリカで献腎(死体腎)移植を受ける場合はどうだろうか。アメリカの施設での外国人の移植は、その施設の年間移植数の1%まで許されている。つまり、その移植施設で年間100件の移植をしていれば、1人は外国人の移植をしても良いということだ。しかも、待機期間は外国人でもアメリカ人と同様の順番でドナーを待つことができる。日本ほど深刻ではないがアメリカでもドナーは不足している。最近の待機期間は血液型にもよるが、約3年である(O型:4年、A型:2年、B型5年、AB型1.5年.SRTR Annual Report 2006年)。

移植にかかる費用は外国人だと医療保険なしのため、バージニア州立大学の場合は総額11万ドル(移植前評価に1万ドル、移植手術・入院費用に10万ドル)と高額になるが、アメリカ人でも4万ドルは程かかる(日本では保険適応で約400万円)。

しかし、2008年5月にイスタンブール宣言が出され、腎移植も含めた臓器移植は自国で行うべきであるという方向性が世界的に示された。従って、実質上の海外渡航移植は禁止となり、今後は海外での(ドナーに依存した)移植の機会は減少せざるを得ない。

長浜 正彦

サイト更新

世話人リスト(高橋哲史先生)と関連リンク(腎移植を学ぶ会)が更新されました。

日米比較:腎臓移植成績

日本での腎臓移植件数は2006年にやっと年間1000件を超えたが、アメリカの腎臓移植数は日本に比べて圧倒的に多い(日本:1302、米:16119. 2009年)。単純にアメリカの人口が日本の2倍強である事を考えても、やはり大きな違いである。内訳を見てみると、日本では9割近くが生体腎移植であるのに対して、アメリカでは生体腎移植と献腎(死体腎)移植が、約半数ずつである。最も異なる点は、日本は献腎(死体腎)移植のうち脳死の占める割合はわずか1割以下なのに対してアメリカでは逆に脳死が9割以上を占める点である。
また、献腎(死体腎)移植の待機時間が日本では15年と極端に長い。これは透析患者さんの5年生存率が60%であることを考えると、深刻な長さである。ただ、アメリカでもドナーは不足しており、以前に比べると待機期間は延びてきており、今では3~5年である。
周術期管理は日米共に外科が中心に行う。しかし、腎臓移植後は日本では外科がそのままフォローするのに対して、アメリカでは腎臓内科がフォローする。移植後は感染症や慢性腎臓病の管理が主体になり、しかも5年、10年といった長いスパンになることを考えると、腎臓内科がフォローするのが妥当だと思う。治療成績は両国ともに1年生着率(1年後に移植腎が機能している率)が約90%と良好ではある(日本:90.1%、米:92.5%)。

SRTR Annual Report 2009年
日本移植学会2010年
長浜 正彦

Primer on Kidney Disease

腎臓内科領域の洋書及び和書を御紹介します。



これはそんなに厚くない本で入門書として頂きました。知識的にはこれ一冊ではちょっと不十分なのですが、コンパクトで読みやすいです。結構頻回に改訂されているようです。お値段も手頃なのではないでしょうか。

アマゾンのCustomer Reviewsには、

「Nephrologistを志しこれから勉強していく方に是非お勧めしたい一冊です。また、臨床経験をある程度つまれた方にも知識の再確認にもってこいの本でもあります。日本の本は往々にして痒いところに手が届かない本が多いのですが、この本は「おっとこんなことも書いてある」と発見の連続です。そして、通読が可能な分量であることも重要なポイントです。分量が多すぎても消化不良で積読になってしまいます。American Kidney Fundation が出していることも信頼に値すると思います。損することのない一冊ですよ。」

とあります。

日米比較:塩分摂取量

  日米で塩分摂取量はどう違うだろうか。日本には伝統的に味噌、醤油、漬け物など塩分が高いものが多くあり、日本は塩分摂取の多い国として有名である。アメリカ人も日本の”soy sauce”や“miso soup”を知っており、たまに「日本人は1日に20~30gの塩分を摂取している!」とからかわれることがある。確かに以前はそうだったかもしれないが、日本人の塩分摂取量は減少傾向で、現在は1日11.4g(厚生労働省 2002年)である。
   しかし、アメリカにいるとアメリカ人の食生活だって褒められたものではなく、塩分摂取量は日本人と同等か、あるいはそれ以上と感じることがある。現在、アメリカ人の1日塩分摂取量は男性で10.4g、女性で7.3g(U.S. Department of Agriculture, Agricultural Research Service. 2008)で、今でも日本人の塩分摂取量の方が多いようだ。
   塩分摂取量を云々する際、ピットフォールなのが、摂取量がナトリウム(Sodium)で換算されているのか、 食塩(Salt:NaCl)で換算されているのかである。分子量が異なるので、当然どちらで換算されるかで数値が違ってくる。1g sodium = 2.5g NaClのため、例えば上記のアメリカ人女性の1日塩分摂取量7.3gは食塩換算だが、ナトリウム換算すると約3gとなる。この数字を見てアメリカ人の食塩摂取量を3gと勘違いしている日本人は意外と多い。

長浜 正彦

科学者の育成を進める

JAMAにPromoting Science Educationという記事が載っていました。
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/short/303/10/983?home

国の発展には良質な教育の重要性があげられますが、アメリカの大統領はこれを“Educate to Innovate” というcampaignとして取り上げています。
http://www.whitehouse.gov/issues/education/educate-innovate

その中の一つにscience, technology, engineering, and mathematics (STEM). の分野におけるアメリカの学生の参加および能力の向上を目的とした企画があります。これは国のお金のみならず、企業、マスコミ、ボランティアの援助を得て、若い学生に科学の楽しさを覚えさせ、彼らが将来、科学分野のinventorやinnovatorとなれるよう目的が掲げられています。アメリカにおける教育の質は実はピンからキリで、良質の教育を受けられる国民はそう多くはないのですが、良い学校の教育制度、先生や生徒の質はやはりよいものです。それにもかかわらず、アメリカの15歳未満の子供の数学や科学の分野は特に、世界の先進国と比べるとそのレベルはまだ低いです。こういったアメリカの弱点を子供に科学の楽しさを教えることにより補っていくというcampaignを立ち上げたObamaさんの方針には賛成です。

さて、一方でアメリカにおける貧困層の教育レベルの低さは問題です。実際、2005年にはカリフォルニア、テキサス、ニューメキシコ、ハワイは、非白人が半数以上を占め、2050年には半分以上の州でいわゆるminorityと呼ばれる人種が半数以上を占める時代が来るそうです。すなわち、こういったminorityの教育水準を上げない限り、アメリカの教育や国力そのものの低下は免れなく、この問題は今始まったことではありませんが大きな障害です。

このJAMAの記事にはStanford大学でこういったminorityとくに黒人、ヒスパニック系で良質な教育環境にいない高校生を夏のExtra-curricular activity として大学内に居住環境を与え、特に科学の分野の楽しさに触れさせ、将来の科学者育成に結び付けようとするProgramが1988年から行われていることが書かれています。具体的にはその指導をするのが、同じminority出身の科学を専攻するUndergraduate studentですがいままでに、500人ほどの高校生がこのprogramを終了し、その99%が大学に進学し、80%前後が卒業しています。
これは一般の国民(黒人やヒスパニック、ラテン系)の4年制大学卒業率が10-15%程度であることを考えると大きな数字です。こうして成功したminorityはまた自分のlocal communityに帰りその良さを伝え、次の世代をinspireするでしょうし、多くの子供の目標となるでしょう。
先につながるよい企画であると思います。もしこういった企画を各州の代表大学で実現できたとするとその効果は絶大なるものとなるでしょう。Stanfordのprogramのお金はNIHやHoward Hughesのgrantからきているので、そういった経費の問題が最大の問題でしょうが、国費だけではなく企業やマスコミなど”Educate to Innovate”のように様々な方面から出資が得られれば、不可能ではないかもしれません。

日本では将来の科学分野のinventorやinnovator育成へはなされているのでしょうか?
次回は日本における教育の良さ悪さを、日本の外からみて思ったことを書いてみたいと思います。

T.S

Co-medicalスタッフの充実

こちらに来て驚いたのは、医師以外のco-medicalスタッフの守備範囲の広さです。
米国はチーム医療という観念がより強い気がします。これに関して良さ悪さはあるのでしょうが、多くの場合よいと感じました。

例えば、ICUナースは特別にトレーニングを受けていますので患者さんの昇圧剤の調整を行うことができます。sepsisなどで昇圧剤を投与中の患者さんの血圧をmonitor (通常map>65を目安に)しながら
医師の指示なしに調整してくれます。そのほか人口呼吸管理に関する知識も豊富で私はresidentのころは特にナースに教わるところが多かったです。人工呼吸器管理は呼吸療法士が指示の下、ウィーニングから抜管までしてくれます。

そして透析もしかり。CRRT (持続透析) は基本的にICUのナースが管理をしてくれます。
脱血流不良やちょっとした血圧低下では呼ばれません。彼らが昇圧剤の調整やカテーテルの調整を行いますし、しっかりとした知識を備えています。こちらでは、抗凝固剤は使用しないか (血流が日本より早いため必要ない場合がほとんど) してもcitrateを使用します。このcitrateはイオン化カルシウムの血中濃度を頻繁に測定しなければなりませんがこういった測定と凝固剤の調整もプロトコールができていてすべてナースが行います。医師は極端な話、CRRTに関してはオーダーを書くだけといっても過言ではありません。

わたしが 日本でCRRTに携わったころは機械のプライミングから透析液や補液の交換
脱血流不良をふくめたトラブルシューティングはもちろんほとんどベッドサイドから離れられなかったのを記憶しています。いろいろとそういった経験から学ぶことも多かったです。
研修の立場にある医師にとって本当によいかという問題は難しいですが、やはり、その中間あたりがよいのかもしれません。

コンサルト制度のブログで書いた通り、コンサルトフェローは多くの患者さんを見ますので
一人の患者さんに時間を取られ過ぎると仕事が回らないというのも事実です。医療の質という観点では、理論上、細かいところまでも指示は医師に任すのがよいのかもしれませんが、実際、現場の医師は忙しく“その指示をあおげていたら、迅速な治療ができてた”なんてこともあるでしょう。そういった意味で、ナースやcomedicalの守備範囲の広さは(きちんと勉強し、ある程度の経験があってを前提にですが) 医療の質の向上につながる気がします。
NPの話題も日本ででているようですが、チーム医療の観点からもよいと思います。

みなさんはどう思われますか?
T.S
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