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SIADH (続)

血漿Na 115meq/Lの患者にNa 154meq/Lの輸液をすると血漿Naは上がりそうなものですがどうでしょう?SIADHでは比較的一定したADHの分泌があるため、尿浸透圧も一定しています。尿浸透圧が一定であると仮定し、生理食塩水1Lを投与すると、308mosmの溶質(NaCl)は453mlの尿に排泄されることになります。(308mosm÷680mosm/kg=453ml)
したがって、投与した生理食塩水1Lの残り547mlは自由水として体内に貯留することになります。
dark_urine.jpg
実際Naがどのくらいになるか計算してみます。
体内総溶質=total body water (TBW) x 血漿浸透圧
   =0.5(♀)x 60 kg x 2 x 115
=6900 mosmol
547mlの水貯留はTBWを30+0.547= 30.55Lにあげますので、上記式から逆算すると
血漿Na= 総溶質÷2 x TBW
= 6900÷61.1=113 meq/L
と生理食塩液投与前のNaよりも低くなることになります。SIADHにおいて血漿Naをあげるには、尿浸透圧よりも高い浸透圧の輸液をする必要があります。

では1026mosmol/Lと高浸透圧の3%NaClを1L投与するとどうなるでしょう?1026mosmolの溶質は1500mlの尿として完全排泄されることになります。(1026÷680=1.5L)したがって、3%NaClを1L投与するとnet自由水500mlを体外に排泄できたことになります。よってTBWは30-0.5=29.5となり、上記式から
血漿Na=6900÷29.5 x 2 = 117 Meq/L
とわずかですが、血漿Naをあげたことになります。これらの実験からNaの上昇を妨げているのは高い尿浸透圧であることがわかります。

では尿浸透圧をループ利尿薬を使用して300mosmol/kgに下げた状態で3%NaClを1L投与したらどうでしょう?同じように、1026mosmolの溶質は3400mlの尿に完全排泄されることになります。(1026÷300=3.4L)したがって、この場合net 2.4Lの自由水を体外に排泄できたことになり、TBWは27.6Lとなるはずです。よって
血漿Na=6900÷27.6 x 2 = 125 meq/Lとより効率よくNaをあげることができます。

SIADHで血漿Naを補正する際に気をつけるべき点は、尿浸透圧が高いと補正が難しいということです。

T.S
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