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Crossmatch testing (I)

腎臓移植の際には、拒絶のリスクを減らすために、クロスマッチを必ず行います。Terasakiらが40年以上前に確立したcomplement-dependent cytotoxicity (CDC) クロスマッチが今でも必須です。ドナーの免疫細胞とレシピエントの血清を補体とともにかけあわせて、細胞がどの程度破壊されるかを評価します。表1のケースではT-cell, B-cell のcrossmatchとも陽性(溶血あり)です。ちなみにHLA typingの数字は私が任意につけたので実在するかどうかは保証できませんが、これは5/6 matchです。
Antibody.jpg
T-cell, B-cell crossmatchともに陽性のまま移植するのはリスクが高すぎます。レシピエントがドナーに対する抗HLA抗体を持っているために、移植直後に腎臓を失う可能性があります。一方で、このクロスマッチの結果には偽陽性の可能性も残されています。レシピエントがリンパ球に対する自己抗体を持っていて溶血をひきおこしているのかもしれません。一般に自己抗体はIgM抗体が主体と言われており(IgG抗体ではなく)、また、IgM自己抗体は移植腎の予後に影響を及ぼさないと言われています。IgM自己抗体の関与をチェックするためには、IgMのdisulfide bondsをdithiothreitolなどで還元してIgM抗体の作用を弱めてから、クロスマッチを再度行い、また、自己血清と自己リンパ球間でのauto-crossmatch を行うのが一般的です。表2はIgM自己抗体によるauto-crossmatch陽性例です。

次に、CDCクロスマッチ陽性で、IgM自己抗体によるauto-crossmatchが陰性であった場合の解釈です。これには
1) T-cell crossmatch (-), B-cell (-);
2) T-cell (+), B-cell (+);
3) T-cell (-), B-cell (+);
4) T-cell (+), B-cell (-)
の4通りが考えられます。

1) T-cell (-), B-cell (-): 陰性です。DSA (donor specific antibody)なしとみなして、移植に進みます。ただし、この陰性結果には、DSA が存在しているにも関わらずそのtiterが低いため溶血がおこらなかった、もしくはマイナーな溶血のみであった可能性(偽陰性)が残されます。

2) T-cell (+), B-cell (+): これはレシピエントがDSAを持っていると考えられ、移植は不可です。特にT-cell CDC陽性例は、Terasakiらのスターディーをはじめ、予後が非常に悪いことが知られており、移植は許されません。

3) T-cell (-), B-cell (+): 可能性のひとつとして、HLA class II に対するDSA がレシピエントの血清に存在していることが考えられます。HLA class I (A, B, C)は有核細胞全てに存在するのに対して、HLA class II (DP, DQ, DR)の発現は”主に”抗原提示細胞(B cells, macrophages, dendritic cellsなど)に限られています。なのでHLA class II に対するDSAは、B cellを破壊しても、T cellは破壊されません。
二番目の解釈としては、HLA class Iに対するDSA が存在しているに関わらず、B cellだけが破壊された可能性が考えられます。B cellはT cellよりもHLA class Iを多く発現しているため、特に低濃度のHLA class I DSAが存在している場合に、B cellだけが破壊されるということが起こりやすくなります。

4) T-cell (+), B-cell (-): 何らかのテクニカルエラーがあったと考えられます。この結果にはB cellとT cellとのviabilityの違いも関係しているのかもしれませんが、いずれにしてもT-cell CDC陽性のまま移植に踏み切ることは禁忌です。

CDCクロスマッチ陽性でも、実際にどんなDSA がどの程度存在しているかは、CDCクロスマッチのみでは判断できません。もしかしたらレシピエントが何種類ものHLAに対するDSAを持っているかもしれませんし、non-HLAに対するDSAを持っているかもしれません。そのため、多くの施設ではCDCクロスマッチと合わせて、フローサイトメトリーやsolid phase assayを使用し、どんなDSAが存在しているのかを確認しています(生体腎移植で時間的に検査が許される場合)。次回はこれらフローなどの検査結果を合わせた解釈について書いてみたいと思います。

波戸 岳
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