「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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ASN2012

米国腎臓学会(ASN)が先週サンディエゴで行われましたが、臨床研究ではADPKDにおけるTolvaptanの有効性が示された臨床研究TEMPO
は明るい話題だったと思います。正常腎機能のADPKDにこの薬を3年間投与した結果、腎臓のサイズがプラセボに比較してよかったことと、腎機能の低下も少なかったという結果です。気になるのは口渇による副作用が多かったことでドロップアウトも多かったことです。このstudyで解決できなかったことはCKDなどすでに腎機能の低下した患者に果たして有効性はあるのかということで、この薬を実際に投与し腎機能が低下してきたら、いったいどのタイミングで中止すれば良いのかといった問題もあります。基本的にV2R阻害薬であるこの薬はネフロンが少なくなるとそれだけ作用部位も減りますからCKDが進むにつれて、その作用は減弱するはずです。

もう一つpharmacogeneticsはこれからとても大事になっていくと思います。薬効は千差万別であることは以前からわかっていますが、人種や性別によってたとえば肝臓におけるCYP代謝能の違いが遺伝子レベルで分かるようになっています。すなわちある薬はこの人種では早く代謝される一方、違う人種では遅く代謝れるとするとします。当然、薬の作用も増減しますので薬効のみならず副作用の差も出てきます。したがって、今後の臨床研究というのは血液からその薬のCYP代謝など遺伝子を調べ代謝能別に臨床結果を分析しないと正確な結論は導き出せないでしょう。これはRCTが多施設化していけば行くほど大事です。
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基礎研究の分野でもいろいろありました。観客はまばらでしたが今あるノックアウトマウスを置き換えるであろうzinc finger nucleaseの研究は非常に興味深いです。簡単にマウス以外の動物でも遺伝子のノックアウトやノックインモデルが作ることができます。もととなる原著はこちらです。
zinc finger nucleaseでpubmedを検索するとたくさん出てきますので見てください。いまのところ28種類の動物でノックアウトモデルができているようです。またすごいのは人でも適応できてもうclinical trial が行われています。遺伝子疾患の多くがこういった研究によって治療されていくことでしょう。

日米腎臓内科ネットのメンバー数人ともお会いしてなかなかよい情報交換ができました。
カンファレンスはいろいろな話題を学ぶとともに人と交流できて良いですね。

T.S
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症例クイズ(続)

この皮膚所見はuremic frost (尿素霜)です。
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Uremic frostは重度の腎不全により血中の尿素窒素や窒素性化合物が汗に凝縮し、水分が蒸発したのち白く結晶化したものです。これは腎不全が重度になる前に透析を開始する事が多い今、とても稀な皮膚所見ですが、アメリカでも無保険患者など医療費を払えない患者層や透析を拒否した場合、また透析が治療選択肢として存在しない発展途上国でみられます。

この患者さんは頭皮にも結晶化した尿素霜がみられ、血液所見ではBUN 180mg/dl, Cr 31 mg/dl, 超音波で両側腎とも萎縮して、かつ心膜摩擦音(pericardial friction rub)が聴取されたため、すぐに血液透析を開始しました。

参考文献

T.S

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症例クイズ

私が数カ月前にみた実際の患者さんです。
31歳黒人男性、高血圧歴は18歳からあり。以前AKIで透析歴があるが腎機能が改善したため透析離脱。その後5年間フォローアップせず。呼吸困難で来院。この皮膚所見はなんでしょう?
T.S
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Bardoxolone phase 3 trial、打ち切り

昨日のAjay Singhのブログからしりましたが残念です。
Barodoxolone Methylは波戸先生が以前に記事を書いていますが
糖尿病性腎症(CKD stage4)の腎機能改善に期待されていた薬ですので残念です。
試験中止理由は、bardoxolone群に死亡率および重大な副作用が多く見られたとしか書いていませんので詳細は不明です。
製薬会社のコメントです。
T.S
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肝腎症候群 その2

今回は治療についてです。
肝硬変と腹水に伴った急性腎不全はHRS の可能性が高い場合も腎前性腎不全を必ず否定する必要がありますのでまずは生理食塩水などの等浸透圧性輸液とアルブミン(1g/kg/day) によるvolume expansionを試みる必要があります。また腹水による腹腔内圧の上昇(abdominal compartment syndrome)が疑われる場合は腹水穿刺を行い腹水の除去を行う必要があります。この場合もアルブミンの補充が必須です。現在ある治療選択肢は大きく分けて血管収縮治療とTIPS (Transjuglar intrahepatic portosystemic shunt)です。
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血管収縮治療は1) Midodrine + octeriotide 2) norepinephrine or terlipressinが現在もっとも多く行われている治療です。1)についてですが、midodrine(血管収縮作用)とocteriotide(門脈圧を下げる)はアルブミンとの併用が前提としています。おそらく米国ではこれが最もよく行われている治療ですがそれをサポートするエヴィデンスはいまのところありません。前向き臨床研究はいずれ小さいものですが死亡率、腎機能の改善に至ったと示されています。この治療が有効な例はいずれも平均3日程度でMAPの上昇と尿量の増加がみられます。後ろ向きデータ解析でも同様の結果が示されています。面白いことにこのstudyではMidodrineの量に治療反応性の相関はみられませんでした。

欧州で認可されているterlipressinという血管収縮薬はとても良いようです。この大きなランダム化臨床試験によるとプラセボ+アルブミン群に比較してterlipressinの治療(14日間)は腎機能(Cr<1.5)と短期死亡率の改善(14日目)に加えHRSの再発が少なかったとしています。Midodrine+octeriotideとterlipressinを比較した試験は要旨のみでの結果によると30日での生命予後に差はなかったものの、responderはterlipressin(92%)midodrine+octeriotide (54%)と前者に多かったとしています。では古典的なnoreinephrineとの比較はではどうでしょうか?これら小さなpilot studyによるとHRSの治療成績に差はないとしています。すなわちHRSの治療で最も大事なのはMAPを上げることであるとこのpool analysisでも強調されています。一つの機序として末期肝不全では交感神経系の活性から、腎血流のautoregulation curveが偏移していることが考えられています。すなわちHRSのでは血圧を通常よりも高く保たないと腎血流量は上昇しない可能性があります。したがってHRS患者が一般病棟でmidodrineで反応しない場合、ICUへ移しnorepineprineやterlipressinの投与により血圧をさらに上げるか後述するTIPS で交感神経系の亢進を抑制する事が重要になります。

アルブミンの投与はいずれの治療薬との併用でも大事になってきます。肝硬変とSBP(Spontaneous bacterial peritonitis)を伴った患者に抗菌薬(cefotaxime)にアルブミン(初日1.5g/kg/day、以降1g/kg/dayを3日間投与)を投与した場合とそうでない場合をみた結果、腎不全と死亡率(3ヶ月)に有意差があったとしています。またHRSでteripressinにアルブミンを併用した場合としなかった場合も腎機能と死亡率(3ヶ月目)に差がみられたとしています。

ではlarge volume paracentesis (LVP)はどうでしょうか?いくつかのstudyでLVPは腎機能を悪化させるという報告をしていますが、例えばこの報告をよく読むと腎機能の悪化はAKIではなくCKDであることがわかります。最近のstudyでは血行動態のモニタリングのもとLVP+アルブミンにより腹腔内圧を平均で25から9mmHgに下げた場合、腎機能の改善がみられ安全性も確認されています。

TIPSは数々のstudyがHRSへの有効性を示しています。TIPS は経静脈的にカテーテルでアプローチし、肝静脈と門脈に交通をもたせ門脈圧を下げる手技です。これにより消化管出血や腹水を減らす他、HRSでは腎機能の改善や交感神経系の亢進を下げ生命予後の改善につながるとしています。患者の状態をみながらですがTIPSを行える状態であれば行うべきです。

最後に末期肝不全で透析をするか否かについてひとこと。結論から言うとしてもしなくても生命予後に影響はきたしませんので肝移植の可能性がある場合を除き、個人的には透析はオファーしません。このあたりはいろいろな意見があるようですがこれら文献を見てください。

まとめるとHRSは除外診断なので最初はアルブミンなどでvolume expansionを行い腎前性腎不全を否定する必要があります。腎血流を保つのに大事なのは血圧を上げること。また腹腔内圧が高い場合は腹水穿刺をを行うことも考慮し、可能な限りTIPSを行うべきです。ただしHRSに関連した大きな臨床研究がないことから標準治療はいまのところ確立されていません。以上、HRSの病態から治療まで簡単におさらいしました。

T.S
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肝腎症候群 その1

腎臓内科医が診断や治療に悩むのが肝腎症候群(Hepatorenal syndrome:HRS)です。今回は肝腎症候群の歴史と病態生理について、2回目は治療について大事なstudyを取り上げながら書いてみます。
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HRSの病態生理は、肝硬変などにより門脈圧亢進が続くと内臓や全身の血管拡張(splanchnic vasodilation)から有効循環血液量の低下を招き、その反動で交感神経が亢進し腎血管の収縮から腎虚血→腎不全をおこすためと考えられています。強力な交感神経系の活性から体液貯留をおこし腹水がみられるのも特徴です。
HRSの概念は1863年にすでにAustin Flintによって指摘されています。その後、肝性昏睡で亡くなった方の腎臓を剖検した症例報告によると、18/22人の腎臓は正常所見であったことがわかり、肝硬変に伴う腎不全は腎実質障害よりも、虚血による影響が大きいことが指摘されました。
これを実際画像で鮮明に証明したのがこのstudyです。HRSの患者の腎臓を造影すると腎虚血があるが(左)剖検時、腎臓を取り出し再度造影したところ今度は血管がくっきりと造影されている(右)のがわかります(注:HRSの腎臓を造影したのはこれが最初で最後だと思います)。
シクロスポリンが使用される以前の1969年のこの報告ではHRS(罹患期間5-104日)の診断で亡くなった方の腎臓を7人のESRDに移植をしたところ6人中7人が14日目で良好な腎機能を維持していたとされます。したがって今でも、HRSによる虚血による腎障害の可逆性を決める期間は90日程度とされます。

HRSの診断は除外診断ですので、腎前性の急性腎不全やATNなどを否定する必要があります。そういっても、最後までATNかどうかわからない事が多いのも事実です。HRSの診断基準は腎臓内科ではなく消化器医が決めています。このガイドラインは2007年に改定されましたが、以前あった尿中Na<10meq/lや乏尿の記載が外れているのと、最近では特に重要視されている腹腔内圧に関しての記載がありませんので注意が必要です。またCrの上昇の規定も曖昧で、肝硬変でよくある筋肉量の低下した患者さんは特にそうですが仮にCr0.5から1.4に上昇したら急性腎不全ですが、これだけみるとHRSの診断から外れてしまいます。したがってHRSの診断には注意をはらう必要があります。このあたりこの記事によく議論されています。

次回はHRSをの治療について書いています。

T.S
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腎不全におけるオピオイドの使用 (Part 2)

Codeine
Codeineはプロドラッグでそれ自体はオピオイド作用がありません。同じくCYP2D6により代謝されMorphineになります。この酵素の低い人種はPoor metabolizerといわれcodeineによる鎮痛作用が見られなかったり、逆にrapid metabolizerは急激にmorphineへの変換が行われ中毒作用を呈する人もいます。Codeineは腎不全では体内に蓄積しますし、分子量やVdが大きく透析では除去されないことから、透析患者での使用は禁忌です。

Fentanyl
Fentanylはmorphineの100倍もの鎮痛力を有するオピオイドで、即効性があり半減期も短い薬です。手術中の痛みのコントロール、癌の疼痛緩和や慢性疼痛などに使用されます。外来で処方されることが多いのが比較的緩徐に効くパッチですが、用量を守らないと呼吸抑制などの副作用を引き起こします。Fentanylは肝臓でほとんど不活性物質であるnorfentanylに代謝されます。中等度以上の腎不全では腎臓からの排泄が遅延することが報告されています。透析ですが、fentanylは分子量が大きく、タンパク結合率が高く、Vdも大きく親水性が低いので透析では除去されにくいです。

Meperidine
Meperidineは当初morphineなどのオピオイドに比べ効力があり、依存性が少ないなどとうたわれていましたが、実際はその反対で、痙攣の閾値を下げたり、セロトニン症候群をふくめ様々な問題があることが指摘されています。Meperidineは肝臓で半減期のきわめて長いnormeperidineに代謝されますが、腎不全があるとこの半減期がさらに延長し、血中濃度が上昇します。したがって腎機能障害のある場合は使用が薦められません。またnaloxoneなどのオピオイド受容体拮抗薬も無効です。その理由としてnormeperidineの抗コリン作用が指摘されています。この薬は分子量が小さく、親水性があり透析で除去されやすいと報告されています。
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Methadone
Methadoneは経口のオピオイドできわめて半減期の長い薬です。作用するオピオイド受容体がmorphineやheroinと同様で効力が長く持続することからアメリカではヘロインなどのオピオイド依存症の治療に使用されます。癌の疼痛緩和や慢性疼痛のコントロールにも使用されます。代謝物の排泄経路ですが半分は便、残りが腎臓です。きわめて親水性が低くVdが大きく、タンパク結合率の高く透析では除去されにくいのですが、少ない報告によると腎不全患者には安全に使用できる薬とされます。


オピオイドを腎不全患者に使用する場合は代謝物質が腎排泄のことが多いため投与量の調整が必要になってきます。腎不全/透析ではoxycodone、codeine、meperidineの使用は避けたほうがよい一方でmethadoneは便排泄であることと、fentanylは代謝物質が不活性であることから比較的安全に使用できるとされます。ただし、透析ではともに除去できないので注意が必要です。

参考文献

T.S
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腎不全におけるオピオイドの使用 (Part 1)

NSAIDsは血管収縮をきたしますので腎機能障害のある患者での使用は腎機能の悪化を招くことは知られていますが、オピオイドなら比較的安全に使用できると思っている人は結構多いように感じます。各オピオイドの薬物動態を知り腎不全で使用する際の注意点をいくつか上げてみます。
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Morphine
Morphineは肝臓で代謝され多くは腎臓から排泄されますので腎不全では代謝産物の蓄積が問題になることがあります。中でも活性代謝産物(鎮痛作用を有する)のmorphine-6-glucronide(M6G)は代謝産物中10%程度と少ないものの、腎不全での使用は呼吸抑制作用や中枢神経作用を増強する可能性(脳血管関門(BBB)を通過する)があるため、投与量の調整が必要になります。MorphineやM6Gはタンパク結合率が低く、比較的親水性であるため透析でよく除去されます。しかしM6GがBBBを通過し脊髄液に移行した場合は除去が遅延します。

Hydromorphoneやhydrocodone
HydrocodoneはCYP2D6という肝酵素によりhydromorphoneへ代謝されます。Hydrocodone自体オピオイド受容体に作用し鎮痛作用を持ちますが、鎮痛力が何十倍も強いhydromorphone(morphineの8倍)に比べると小さいので、CYP2D6がもともと少ない人は鎮痛作用が減弱します。Hydromorphoneは肝臓で代謝され、代謝産物は腎臓から排泄されます。代謝産物のひとつhydromorphone-3-glucronide(H3G)は鎮痛作用は有さないものの、幻覚、興奮など神経刺激症状を持つとされます。腎不全ではhydromorphoneや代謝物の血中濃度は上昇することが知られていますので、投与量を少なくするとともに投与間隔を広げる必要があります。Hydromorphoneは名前のとおり親水性で、分子量も小さくvolume of distribution (Vd)も小さいので透析で容易に除去されます。

Oxycodone
経口投与での生体利用効率が高く、morphineの2倍程度の鎮痛力を有することからoxycodoneは米国では頻繁に使用される薬です。実に世界の80%のoxycodoneはアメリカで消費されているそうです。この薬はstreet drugとしても使用され、結構な高値で売れるのでこれを目当てで来るdrug seekerも多くいます。Hydrocodone同様CYP2D6による代謝を受けるので、この酵素が不十分な人では鎮痛作用は減弱する可能性があります。代謝産物は沢山ありここでは書きませんが、多くは肝臓で代謝され腎臓より排泄されるので、腎不全での使用は代謝物の蓄積を引き起こし、鎮痛作用の増強や遷延他、副作用の増強が予想されます。OxycodoneはVdが大きいのですがタンパク結合率が50%程度で親水性のため、理論上透析では除去されますが透析に関するデータはなく、一般的に透析患者での使用は推奨されていません。

次回はcodeine, fentanyl, meperidine, methadoneについて書きます。

T.S
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CRRTを長く使用するためには

CRRTを凝固させないためにはどういったことに気を使うべきか?CRRTは通常、透析カテーテルを用いますが、理想的なカテーテルは短く、内腔の大きなものです。ただし実際はカテーテルの先端が内頚静脈から挿入された場合は右心房、そけいからの場合は下大静脈に位置するべきなので、長さはどうしてもある程度長いものが必要になります。このstudyでは100人のCRRTで長さの違うカテーテルを用いて観察した結果、右心房まで到達する長いシリコンカテーテルのほうが持ちが良かったとしています。内腔ですが、一般的にシリコン製のカテーテルはポリウレタンに比べカテーテル壁が大きい傾向があるのでカテーテルの太さに比べ内腔が狭くなります。またカテーテルの血流の入出口ですが、側壁についているタイプよい先端に入出口があるタイプのほうが原則静脈壁に吸着するなどの問題点は少ないようです。また中心静脈圧が低いほど、カテーテルトラブルが多くなりますので血行動態の安定化はCRRTのトラブルを減らすためにはもっとも重要な要素です。
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Filtration fraction(FF)はダイアライザーが凝固するかどうか予想する大事な要素です。論理は簡単でFF=(限外ろ過液流/血液流)でこの比が高いほど回路内の血液濃縮から透析膜の目詰まりや凝固をおこす可能性が高くなります。限外ろ過液流=透析液量(QD)+補液量 (QF)+除水量(UF) の合計で、血流は厳密には血漿量なので血流量(QB)x (1-Ht)です。したがって
FF =QD + QF + UF/QB(1-Ht)です
透析膜内におけるを極力軽減するために、補液をダイアライザーの出口から返す場合(post-dilution)FFは20%未満に抑えるべきとされます。FFを下げる方法はいろいろありますが
1)血流をあげる
2)補液をダイアライザーの入り口から返す(pre-dilution)
3)UFを下げる
などがありますが1)と3)は制限がある場合があるのでもっとも簡単にFFを下げる方法はpre-dilutionです。この場合、血液が希釈されるため透析効率が落ちますが、透析回路は長持ちします。このことは小さなstudyで示しているとおりですが、興味深いことに平均BUNやCrはpost-dilutionでもpre-dilutionでもあまり変わらないとしています。これはpost-dilutionでは回路が凝固し透析が中断された時間が多かったため、結果的に一日の透析量が落ちたためと考えられます。

透析膜が凝固するといいますがclottingとcloggingの違いは知っておくべきです。Clottingはダイアライザーのファイバーが閉塞することに対して、cloggingは透析膜孔に血液やタンパクが沈着し透析膜の透過性が低下する状態です。したがってcloggingは透析膜の透過性の低下や中分子の除去率の低下を招き、transmembrane pressureがあがります。またcloggingはclottingを誘発するとされます。Pre-dilutionのほうがcloggingを引き起こす確率が少ないとされますが、UFを多く行うと逆に透析膜孔へのタンパクの沈着が大きくcloggingを引き起こしやすいという意見もあります。透析効率の観点からはpost-dilutionが理想的ですが、透析膜を長持ちさせるためにはpre-dilutionのほうがよいため、私のいる施設では補液を2つのポンプでpre50%、post50%の割合で使用しています。
透析膜の種類も重要です。アルブミンは陰性に荷電しているので透析膜の表面は電気的に陰性に荷電しているものが理想です。またタンパク吸収性の高い透析膜はタンパクが結合しやすく、それに伴う補体や血小板の活性から凝固が誘発されやすくcloggingやclottingに影響します。ただし、透析膜の種類によってcloggingやclottingを比較した大きな前向きのランダム化臨床試験は今の時点ではありません。

CRRTを長持ちさせる要素はもちろん抗凝固剤が大きなウェイトをしめますがそれ以外の要素について簡単におさらいしてみました。

T.S
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透析をやめるとき

余命6ヶ月といわれた癌患者に積極的な治療でなく緩和医療(palliative care)をオファーすることに抵抗は少ないと思いますが、余命が同程度と思われるESRD(末期腎不全)患者に透析を提供しないまたは透析をやめることに抵抗を感じる人は多いと思います。
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USRDSの統計によるとアメリカでは様々な理由から透析を行っている5人に1人の割合で透析から離脱しています。これは驚くことにESRDの死亡原因の3位(カナダでは2位)に値する高い数字です。この中にはおそらく腎不全以外の理由で延命治療を施さない一環で透析を中止する人も含まれていると思いますが、それでも日本では透析を中止する割合が<1%と極端に低い数字ですのでその差は大きいです。尊厳死が認められていないことと死生観のちがいが大きな要因でしょうが「治療があるなら施すべき」ではなく適切かどうかを考えることが重要です。ESRDのみならず急性腎不全でもそうですが、透析がその人の生命予後を改善しないもしくquality of life (QOL)の悪化が予想される場合、また身体的に透析を受けることが困難な場合は適切でないと判断するべきです。透析をオファーしないもしくは中止する理由としては、重度の痴呆、意識不明患者、末期の心肺疾患、重度の精神疾患、ペインコントロールが困難な状態、多臓器不全、末期AIDSなどが上げられます。人が病気で亡くなるパターンはこの図にあるように3つあるといわれます。癌患者のようにそれまで問題なく経過してきたが病気とともに急激な身体機能低下をきたす場合。心不全など状態の悪化や回復を繰り返しながら徐々に身体機能が低下する場合。最後に痴呆や老衰などに時間とともに少しづつ身体機能が低下していく場合です。ESRDがどこに入るかは難しいところですが、矢印のあるところで我々はある決断を迫られます。これがESRDの場合、癌と違い判断が容易ではないことは事実ですが、欧米では透析の開始と離脱に関してガイドライン(米国英国)があります。

米国の腎臓内科フェローシッププログラムで透析の離脱教育をカリキュラムに組み入れている施設もあるようですがそう多くはないと思います。私の研修した施設ではフォーマルな指導はありませんでしたが指導医によっては積極的に行うことがありました。一般的にESRDの透析からの離脱はガイドラインにもあるようにShared decision makingに基づくことです。つまり複数の医療従事者が病気の予後に関してまとめた専門的な意見や推奨を患者の死生観や価値観を含めて本人としっかり話し合い最終合意に達すること。また本人が意思表示できない場合は代理人がこの役割を担います。米国では一般的ですがadvanced directiveといって、もしものときにどのような治療を施してほしい、誰に意思決定をしてほしいなどあらかじめ本人が詳細に記載することのできる公的文書があります。このadvanced directiveがあると家族の間で治療に関して意見の相違がでても、指定された代理人が最終決定権を持ちます。急性腎不全で、一時的な透析によって腎機能が回復する見込みのある場合は期間を決めて(time limited trial)透析をオファーする場合もあります。多くの場合、トライアル後は透析を治療オプションとして提示しないのが普通ですが、状況によっては透析を延長する場合も少なくないのが現状です。

透析治療を選択しない場合、緩和ケアとの連携のもと、予想される経過と処置の選択をふくめ、どこでどのように死期を迎えるかを話し合います。緩和医療とホスピスの違いですが、後者は一般的に予後が6ヶ月以内の患者をホスピスという団体が医療費の負担を含め終末期にかかわるマネジメントを行う点です。先月、私は病院で慢性透析コンサルトを担当していましたが、慢性透析患者2人の透析を本人や代理人を含め長い話しあいをした結果、最終的に透析を中止しました。一人は50歳で末期AIDS脳症による痴呆がひどく透析をうけられない方。もう一人は38歳でcalciphylaxisによる腹部創の状態がかなり悪い方でした。いずれも透析を中止したのちホスピスケアのもと自宅や施設にいかれました。

透析療法は提供するだけではなく、病状、生命予後、QOLに応じて本当にそれが本人にとって適切な治療かどうかを十分に話し合い、場合によっては透析を中止したり、透析を開始しない選択肢も考慮するべきです。患者の高齢化が進む日本では特に多くの医療関係者が認識し勉強するべき大事なトピックだと思います。

T.S
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