
私の行っている臨床留学は確かに大変ですが、研究留学にはない良さがあります。日本の大学や医局からのサポート・縛りがなく、自ら道を開拓しなければならないという苦労と引き換えに、英語力の向上はもちろんのこと、今まで見えなかった「世界」と「外から見た日本」が実によく見えてくるのです。研究留学でもよいのですが、その場合、留学生活を実りあるものにするためには、できるだけ長く現地に滞在することです。もし留学中、現地の病院からは無給だとしても、その価値は大いにあります。海外生活を始めると、誰しもまず最初に大きなカルチャーショックを受けます。文化や風習・食生活の違いなどから、自分が慣れ親しんだ日本がどんなに良いかと実感するのです。そして日本の良い面を並べては自分を納得させる。ところがここで「郷に入っては郷に従え」の精神を思い出し、初心に戻れるかどうかが問題になります。その国の人々が自国のどういったところをよいと感じているのか(または悪いと感じているのか)を直接情報収集し、自分の肌で直に感じ取ることができた時に初めてその国の真の姿が見えてくるのです。
情報収集という点では、インターネットの普及により、私たちが得られる情報の量はこの10年で大きく変化しました。医療分野では莫大な医療情報が次々と更新され、我々医師は普段の診療に加え、情報のアップデートにより多くの時間を費やす必要が出てきました。したがって、既存の医療システム・教育体制・勤務体制では事実上対応できなくなってきているのが現状です。米国は様々な問題もありますが、医療システムや教育体制に関しては日本に比べ進んでおり、学ぶべき点が多々あります。
米国の医療システムの大きな特色の一つに、「医療の専門化」が挙げられます。今後は日本でも医療の専門化がますます進んでいくと予想されます。賛否両論あるでしょうが、これは医師と患者の双方に利益になるというのが私の考えです。溢れるほどの情報の中で、どんなに優秀な医師でも専門外の知識に関してはやはり限界があるはずです。最近では、医療従事者のみならず、患者やその家族もインターネットやその他の媒体を通して専門知識を情報収集することが可能な時代です。そのような患者側から見ると、「常にアップデートされた専門知識を持つ専門医にかかりたい」と考えるのは当然の心理と言えます。米国では専門医へのコンサルト制度が非常に普及しています。日本のように普段の仕事の延長としてコンサルト業務をこなすのではなく、コンサルト自体を仕事として扱う医師・チーム・科が存在し、それ自体が主な収入源となるシステムがあるのです。日本においても、いずれはこのようなシステムが必要になると感じています。
日米の医療システムの違いは、他にも多々ありますが、次回は大学の人材育成に関する根本的な違いについても触れておきたいと思います。
T.S