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透析とMedicareについて

Medicareは主に65歳以上を対象としたアメリカ連邦政府の公的健康保険ですが、その他、subacute nursing facility(SNF)やESRDに関する費用もまかなっています。このMedicare、実に国家予算の1/4程度を占めていて、高齢化やESRDの増加などを含め今後も上昇が予想され、国はいろいろな制限をかけてきています。腎臓に関してですが、ESRD のMedicareに占める割合は約6%程度ですが、CKDやESRDの増加に伴い、今後さらに割合が上ることが予想されます。
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外来の慢性維持透析患者に関してですが、2011年より、包括医療制度が適用され、一回の透析に関わるreimbursementが一定額(平均230ドル前後)になっています。他国との比較はこちら。これは何時間透析してもその還付額は変わりません。この費用に含まれるものは、各種血液検査、透析回路/ダイアライザー、生理食塩水のほか、エリスロポエチン、鉄剤や抗生剤なども使用したらそれに含めることになっています。ちなみに、ESRD患者の中にはMedicare以外のプライベート健康保険を持っている方もいます。このプライベート保険は通常、透析に関してMedicareの約三倍程度還付します。貧困層が多い、私のいる地域のある透析クリニックAを例に取ると、患者数は40人以上いますが、プライベートの健康保険を持っている人は一人か二人です。この状況で患者一人を透析すると一回あたり平均6ドル損をする計算になります。実際、アメリカの透析は2大会社(DavitaやFresenius)が8割近くを担っています。このような大会社は裕福層のいる地域(プライベート保険保持者が多い)を含め、全国展開しているので地域格差の影響を受けにくいと言えます。

さて、透析患者がERにくるとどうなるでしょうか?緊急透析を要する状況(高カリウム血症、肺水腫など)では通常入院させてから透析します。これはもちろん安全面からも適切なのでしょうが、最大の理由は外来扱い(ER)で緊急透析をしても病院や医師の収入が低いことがあげられます。提携クリニックの患者が来た場合は、その患者にMedicareが割り当てたcapitated fundから少量支払いがあります。しかしそれ以外の患者を透析しても、capitated fund は他の透析クリニックが実質収めることになるので報酬はありません。このため自分の患者以外は診たがらないのが常です。MedicareはこういったER visitに関して上記のcapitated fund以外は一切還付しません。一旦入院になると、腎臓内科医は院内コンサルトや透析に関する報酬を別に請求できます。ところが、Medicareの入院規定は(今まで十分複雑でしたが)最近は更に複雑化しています。以前は、入院と決めれば入院でしたが、今はtwo midnight ruleなる新たな規定ができて、要は患者が院内に3日は最低いないと入院ではなく、observation=外来扱いになります。Medicareは基本part A(入院) 、part B(外来)に分かれています。入院になると、part Aがカバーをするため、deductibleとよばれる個人負担額(2013年で$1,184)を払うとあとはpart Aが基本的には入院に関する費用を持ちます。しかし、例えば2日しか病院にいないとobservation(外来扱い)となり(ちなみにMedicareの規定では退院日は入院に含まれない)、血液検査、X線、部屋の使用料、透析、などすべての項目ごとに料金(coinsurance、実費の20%)が発生し、これが上限なく患者に請求が回るようになります。さらに、入院でないと、もし退院後、患者がSNF へ行かなければならなくても、この費用はMedicareによってカバーされないため、患者は下手をすると破産する可能性があります (入院扱いならカバーされる)。

慢性維持透析システムがなく、いまほど高齢化してなかった時代(1960年台)に施行されたMedicareという公的健康保険システムは、制限が多く、患者や医師側から見ても実際の臨床のシナリオに当てはめると不十分な点が多々あります。現在の社会の高齢化やESRD患者の増加、SNFの需要の増加をふまえると、はたして国家予算の1/4も使って維持していくに値するものなのかを再考する時期に来ている気がします。

TS
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