不法移民の透析

こんな記事がありました。
アメリカには不法移民が1100万人以上いるとされ、そのうちESRD患者は6000人ほどいるようです。不法移民は医療を受ける際は何でも引き受けるcounty hospitalなどのERに行くことになります。ERは原則、不法だろうがなんだろうが、sick patientは見なければならない法律になっています。ですが通常こういった人たちは、週3日透析をルーチンで受けられるとは限らず医学的には必要と分かっていても採血をしてKが高かったり、胸痛、呼吸困難など絶対適応がない限り透析させてもらえません。
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アメリカの透析費用は一人あたり約72000ドル/年で、通常はmedicareとよばれる国の保険でまかなわれていますが、不法移民は当然この保険の適応外になりますから自費(無理)かだれか(国民の税金)が払うことになります。コストはこれだけにとどまりません。ERで透析を受けますから上記に加えERでの人件費、X線、検査など毎回の受診費用を考えると莫大なものです。多くはアメリカに職を求めてきた若い人たちや自国では透析治療という選択肢のないといった人たちが大半です。

NYブルックリンにあるKings County Hospitalの外来透析患者の7割は不法移民だそうです。ここのフェローに以前聞いたびっくりした話です。フェローになって初めて見た透析患者は、60歳カリブの女性でJFK空港から直接救急車で来院、主訴:fatigue.採血するとBUN 450 Cr 75 HCO3<5 だったそうです! (ものすごいuremic breathがしたとか)
事情を聞くと、自国では透析を受けられないからアメリカに住む息子が母を呼び寄せたそうです。こういった患者はtunneled catheterを挿入され、透析を受けますが、シャントを作ってもらえることはありません。外科医は不法移民の手術をしてもまったく収入にならないからです。腹膜透析はERを受診しなくても家でできる分コスト削減になるはずですが、同様の理由から腹膜カテーテルを挿入したがる外科医がいません。

私のいるチャールストンの病院はcounty hospitalではないのでこういった人たちはあまり見かけません。先日いた同様の患者さんは、カテーテルを入れ数回透析後、自国(ブラジル)に帰っていただきました。ただ多くは貧困国から来ているため、慢性疾患で専門治療(透析や化学療法など) が必要な患者さんは強制退去ができないのが現実のようです。。この国は移民を受け入れ大きくなった国の一つでそれが強みなわけですがその半面、不法移民問題は医療のみならず大きな悩みの種です。

ちなみにERでの透析は不法移民に限らず、コンプライアンスの悪い透析患者さんではよくあることです。朝起きたら透析クリニックに行く気がしなかったから透析を飛ばし、数日後、ERにきて透析をする。ひどい場合、自分の好きな時に透析をしてもらうためにERばかりに来る患者もいます。アメリカで働くと日本では考えもしなかったいろいろな患者さんを見ます。
日本でこういった事情はまれでしょうが、仮にどこか貧困国からの不法移民が
このような状況になったら、どういったことになるのでしょうか?

T.S

Acute kidney injury and repair

病棟でうけるコンサルトで最も多いのはAKI、その中でもacute tubular necrosis (ATN)は最も頻繁にみられます。ATNという名前からは尿細管細胞のsloughing, necrosis, apoptosisなどの病理所見に基づいた診断を匂わせますが、実際の現場ではATNは臨床的に診断するものであり、ATN疑いで腎生検をすることはまずありません。尿中の”muddy brown cast”を毎回ドキュメントしてATNと診断を下す腎臓内科医もいれば、そんなものは飾りで、臨床的にATNが強く疑われればATNと診断するべきで、尿中にgranular castが存在してもしていなくても関係ない、主張する医者もいます。
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さて、ATNと診断した後の根本治療は、、、皆無です。我々は腎組織の自然治癒をひたすら待つことしかできません。”ATNだから待っていればよくなる”、と言って、そこで思考停止に陥っている臨床医が少なくありません。我々がこの思考停止から抜け出すことが治療の第一歩なのかもしれません。AKIからの修復のプロセスはあまりよくわかっていません。一方で、かなりのダメージをうけても、多くの症例で、腎機能が回復する事実には驚きを隠せません。

以下、AKI repairに関して最近の論文をここにいくつかあげてみたいと思います。
HarvardのDr. Bonventreのグループが昨年発表した、尿細管のcell cycle arrestとそれに伴うfibrosisは、ATNから回復せずに透析に至るケースを理解する手がかりになる可能性があり、非常に重要と思われます(Nature Medicine)。また同グループは、近位尿細管の修復は近位尿細管細胞によってなされることをつい最近発表しています(PNAS)。彼らの仕事から推測できるように、Bonventreはstem cell, bone marrow cell, epithelial mesenchymal transitionなどに対して否定的です。BonventreはAKIマーカー、KIM1で有名ですが、それに対抗するAKIマーカーNGALに関する論文も数多く発表されています。数ヶ月前に発表された論文では、NGALの発現を時間的、空間的に詳細に分析しています(Nature Medicine)。 シスプラチンやエンドトキシンなど近位尿細管に通常ダメージをきたす物質を用いても、なぜか遠位尿細管にばかりNGALの発現をきたしていたのが印象に残りました。いずれにせよ、AKIマーカーが乱用される時代が遅かれ早かれやってくると予想され、その時代の到来前にマーカーの理解をさらに深める必要があると思います。最後に、zebrafishは生後もnephronが増え続けるそうで、哺乳類でも”nephron progenitorsの抑制”を解けば、AKI repairに応用できるのでは、仮説をたてているグループもあります(Nature)。

波戸 岳

サイアザイドについて

JNC7によると、リスクファクターのない高血圧症に推奨される第一選択はサイアザイドです。サイアザイドにはhydrochlorothiazide (HCTZ)、chlorthalidoneそしてmetolazoneといった種類がありますが、半減期の違いだけで、いずれも遠位尿細管のNa+-Cl-transporterのCl-側を阻害します。ループ利尿薬同様、低K血症を呈することがありますが、ループ利尿薬とは逆にCa2+排泄を低下(遠位で働くため、ヘンレ上行脚ではNa+やCa2+が取り込まれる)するため、腎結石(カルシウム)などの治療に用いられます。
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サイアザイドはループ利尿薬ほど強い利尿薬ではありません。このstudyは人でサイアザイドとアミロライドの作用を実際に試したのです。
この図によると、HCTZを使用して3日程度まではNa+排泄が増加しますが、その後は低下しています。(braking effect)またK+排泄は最初の数日は排泄傾向にありますが、14日程度すると投与前とほぼ同様の状態に落ち着くことがわかります。利尿薬を開始しK+値を測定するなら2週間程度してからするべきとされる理由がこれからわかります。

16日目に今度はamilorideを投与します。Amilorideは集合管主細胞にあるENaCチャネルを阻害するため尿中Na+排泄は増加し、その引き換えにK+を保持することがこの実験からわかります。

ちなみに利尿薬による低K血症の機序は
1) Na+のdistal delivery(集合管主細胞のENaC でNa+/K+の交換が行われる)が最大の理由です。介在細胞でH+/K+の交換も関与しています
2) その次にVolume↓によりレニン-アンジオテンシン系の亢進です。

腎不全になるとサイアザイドは効かなくなるからループ利尿薬に変更することも多いかと思いますが、その一つの理由は、サイアザイドは糸球体で濾過され遠位尿細管に到達しますが、ループ利尿薬はほとんどが尿細管分泌されるためといわれています。でも効果の違いを人で証明したstudyはないと思います。実際Metolazoneは腎不全患者でもとてもよく効きます。

T.S

Fellows Schedule

今回はフェローのスケジュールを紹介したいと思います。一例として私の所属するプログラムの実際の予定表をここにあげます。個人名は排除して、フェローの出席が要求されているところは赤字にしました。これはあくまで一プログラムのスケジュールですが、他のプログラムも同様にfellows conference やgrand roundsが組み込まれているはずです。これらのカンファレンスやレクチャーの合間に患者をみて、手技(透析カテーテル挿入や腎生検など)をこなし、アテンディングや学生らとラウンドするというのが日課となります。さらに週に一度は外来があり、週によっては腎移植外来などで週二回外来が入ります。
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Fellows conferenceのテーマは通常、ケースプレゼンテーション、ジャーナルクラブ、もしくはMorbidity/Mortalityで、月に一回か2回ほどの頻度で自分の発表の番が回ってきます。CQI (continuous quality improvement)と呼ばれる臨床の質を高めるための、ミニリサーチのようなものも、一度は発表することが義務付けられています。Grand roundsは一つのテーマについて深く掘り下げて一時間話をするので、準備が楽ではありません。幸いgrand roundsは年に二回のみの割り当てです。
上記は臨床中心のフェローの日程です。多くのプログラムではリサーチに集中できる期間が与えられており(数ヶ月から年単位)で、その間はコンサルトなどのランダムなコールを受けずに、自分のやりたいことに専念することができます。

波戸 岳

「先生、何年目?」←この言い方やめましょう

アメリカで医師をしていると誰もが感じることだと思いますが、「○年目の医者?」と言う聞き方をまずしませんね。年齢なんてまず聞かれたことはありません。新聞でもテレビのニュースでも人の名前の横に(○○歳)表示はされません。これは差別に当たります。履歴書にも生年月日はいれません。
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日米双方で医師をしてきて「先生は何年目?」と聞くこともあったし聞かれたこともありますが、アメリカに来てからはこの言い方はよくないと感じるとともにあまり意味がないと思います。医師の総合的な能力は経験年数に比例しません。もちろん1年目のインターンと5年目のフェローでは違いはもちろんあるわけですが、本質は何年医師として働いたかではなく、どういった環境で何を診て、何を勉強して、それをどのようにキープし、最新の情報に常にupdateできているかが大事なわけです。このような総合的な最新の医学知識を持ったうえで、医師としての経験が初めて意味をなしてきます。一方で、人は年齢を重ね成熟していくわけですから、「何年目か」は人として、医師としてどの程度成熟しているかの判断する材料としては良いのかもしれませんが、あいさつ代わりに聞くことではないですね。

日本の医療現場は年功序列が強いと思いますが、医学は経験年数の多いものが必ずしも優れているわけではありませんし、少なくともこの序列が優秀な学生や研修中の医師の発言や行動をつぶすような圧力として機能してはダメだと思います。日本ではそういった序列を明らかにしないことから何か始めてみるべきです。こちらで研修をしていると、優秀で素晴らしい学生や研修医はfacultyと対等に議論を交わすことができることから、私も彼らから多くを学ぶことができ、最近経験年数は思っているほど重要ではないとつくづく感じる日々です。
これを読んでいるみなさんはまず、「何年目の医師の○○です」という言い方をやめることから始めましょう。

T.S

糖尿病性腎症 (DMN) の進行

1型糖尿病性腎症(DMN)は前回書いた通り自然経過としては血糖/血圧にかかわらずmicroalbuminuriaの存在はDMNへのリスクファクターではあるのですが、microalbuminuriaははたして不可逆性なのでしょうか?これを示したのはPerkinsらの2003年のstudyです。これによるとmicroalbuminuriaを呈した1型糖尿病性腎症の患者386人(平均DM罹患年数11年)を2年ごとにフォローし8年間追跡した結果、ACE-Iの使用に関係なく、初期のmicroalbuminuriaおよびA1C、BP、脂質が低いほどmicroalbuminuriaはなくなる傾向にあり、"初期のDM(1)ではmicroalbuminuriaは可逆性を持つ"と結論しています。最近発表されたDCCTのstudyによりますと、1型糖尿病患者が持続性のmicroalbuminuriaを呈しても、血糖、血圧、脂質を改善することによりなんと40%!もの患者はアルブミン尿から正常尿所見にもどったとしています。このstudyとてもよくできててもっと注目されるべきと思いますが、、、、なぜNEJMやLancetにのらなかったかが不明です。
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また興味深いことに病理所見で糖尿病性変化が見られても、膵移植をすると10年かけて徐々にそれが薄れていくことが示されています。
顕性蛋白尿を呈するDMNに至るには10-20年必要であるとさまざまな文献が示しています。Krolewskiらは1939ー1959年の間Joslin clinicを訪れた1型糖尿病性腎症の患者292人を20-40年間!も見た結果顕性蛋白尿の出現はDM発症後5-15年にかけてピークがありそれ以降は減るとしています。また一旦顕性蛋白尿が見られると、ほとんどがESRDへと進行していくことは多くが報告している通りです。
ではどういった要素がDMNの進行に関与しているのでしょうか?Hovindら はアルブミン尿(>200mcg/min)を呈している1型糖尿病性腎症301人を平均7年毎年BP、A1C、脂質、GFR、蛋白尿を計測し重回帰分析を行った結果、カットオフ値は提示されませんでしたがBP、A1C、脂質、蛋白尿各々がGFR低下に関連しているとしています。
腎臓の大きさですが、一般的には糖尿病の腎臓は大きいことは前回述べましたが、ESRDに至るころには一般的には他の腎症よりも大きいものの、おおまかには1/4は小さく、1/4は大きく、1/2は正常の大きさになるようです。また糖尿病によるESRD患者のほとんどは糖尿病性網膜症の罹患があることも数多くの文献が示している通りです。
さていままでほとんどが1型DM腎症ばかりでしたが、2型糖尿病のstudyで有名なのはPima Indianのstudyです。彼らは高率にDMになる部族で、ESRDへの進行も高いです。彼ら194人を正常、IGT、新規糖尿病、糖尿病(平均12年の罹患)にわけその進行を見た結果、数々の1型糖尿病のstudyと同様に2型糖尿病でも、アルブミン尿の存在はその後のDM腎症の進行を予想できたとしています。このfigure1&2は教科書に載っているいわゆる典型的なDM腎症の経過を示していますので参照してください。
そしてRitzはここで1型DMでも2型DMでも極めて似たような臨床経過をたどることを指摘しています。

まとめますと、糖尿病性腎症は1型でも2型でも多かれ少なかれhyperfiltrationを起こし、その後、数年アルブミン尿を呈し、5年から10年程度かけて蛋白尿の出現そしてCKDへ移行し、最終的にはESRDへと進行していくのが一般的です。今の医療では多少なりともその進行を遅くすることができてもcureは難しく、DMの極めて初期(アルブミン尿)に血圧、血糖や脂質の管理を施すと可逆性もあることが指摘されています。
DM腎症の自然経過、アウトカムに関する文献はさまざまですがいくつか重要だと思ったことを中心におさらいしてみました。

T.S

Extremophiles

最初の生物が出現したのは今から40億年前、およそ地球誕生から5億年後といわれています。我々の最古の先祖はhyperthermophilic mocrobesとよばれる、高温下で生存可能な生物だったと推測されています。Hyperthermophilic microbesを含めて、極端な環境下で生息する生物はextremophilesと呼ばれ、多くの場合それらは古細菌(archaea)です。例えば古細菌で最初に遺伝子解析されたMethanococcus janneschiは200 atmという高圧、85度という高温下で活動します。他の古細菌の中には113度の高温で繁殖するものや、高濃度塩(5 M)、強い酸(pH 0)で活動可能なものもいます。Deinoccocus radioduransに至っては、高濃度放射性物質と乾燥に強いので核廃棄物の中で生存可能です。 Metagenomics projectsが色々進行しているので、今後さらに我々の想像を超える生物が見つかるかもしれません。Metagenomics とは一般に海水をランダムにサンプリングして遺伝子解析したり、腸内細菌を全てシークエンスにかけるようなアプローチです。
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我々にもう少し近い動物に目をむけると、extremophilesほど極端でないにしても、我々からみるとextremeだと思える例は多くあります。腎臓に関連したものをここにいくつかあげてみます。
1. 鳥は常に高血糖ですが糖尿病性腎症を含め高血糖による合併症をきたしません。
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2. 熊は半年近く冬眠し、その間排尿しません。GFRは低下し、creatinineは1 mg/dlから3 mg/dl台になりますが、冬眠から明けると腎機能はもとに戻ります。また、筋萎縮や骨粗鬆症にもなりません。
3. 亀は長時間呼吸せずに泳げます。泥の底で冬眠する亀も少なくありません。冬眠中亀は嫌気的にATPを維持しますが、代償として高乳酸血症になります(150 mM)。しかしながらpHは生理的範囲内に維持されます。理由のひとつとして、亀は自分の甲羅を溶かして重炭酸濃度をあげることが知られています。
4. 最後にpHの維持に関連して人と魚。ヒマラヤに住む民族、Himalayan SherpasのPaCO2 は20 mmHg、HCO3- は14 mmol/L、そしてpHは生理的範囲内です。これは高山での”adaptation”です。魚は水中の酸素をえらからとりいれる際に大量の水を通過させないといけないため、CO2はwashoutされて2 – 4 mmHg程度です。HCO3- は3 - 6 mmol/LでpHは 7.5程度と生理的範囲内です。Garfish (“Lungfish”)はえらと肺の両方を持っています。冬季はえら呼吸のみなのでPaCO2 3 mmHg, HCO3- 6 mmol/L前後ですが、水中の酸素濃度が下がる夏季には未熟な肺を使います。結果、PaCO2 13 mmHg, HCO3- 10 mmol/Lとなり、pHは変化しません。
鳥も熊も亀もあまり産業とかかわっていないので生理学的研究が進んでいませんが、次回以降もう少し詳細に触れたいと思います。

波戸 岳

CKDの透析予想計算機

みなさんの外来にもいらっしゃいますよね?Cr2.5程度で何年も安定しているCKD患者さん。一方でCrが1.8程度でまだ大丈夫かなと思っている人があれよあれよという間に進行して透析導入になるケース。CKD患者さんの透析導入予想ができたらよいと思いませんか?
そんな我々腎臓内科医の願いをかなえてくれる?かもしれない朗報があります。
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先日JAMAに発表されたこのstudyはCKD3-5の患者さんが将来腎不全に至る可能性を数値化しています。カナダと英国の大きなcohortを元に、さまざまなデータを分析し、腎不全をアウトカムとした場合に、どう入った要素が重要かを7つのmodelに分けて、実際のアウトカムと予想されるアウトカムを比べたようです。その結果、最も正確にCKD患者の腎不全を予想する要素は低GFR、低年齢、男性、アルブミン尿、低血清アルブミン値、高リン、低HCO3、低カルシウムでありこの要素を用いたmodelのc-statisticsは0.92と極めて高い数値になっています。驚いたのは、糖尿病や高血圧の有無、血圧の値や体重は予測に影響しないということです! そんなわけないと思うわけですが、理由としてCKDのほとんどはDMとHTNの罹患があることと低GFRやアルブミン尿がある状態ではすでに上記の要素による違いが影響を来しにくいという理由です。(決して血圧や血糖コントロールをしなくてもよいということではないです)
このstudyを元に作成された2年及び5年後に腎不全予測計算式はここ(Excel、スマートフォンapp )にあります。こういった予想式により、腎臓内科医に見てもらうべきハイリスクの患者さんの同定ができることや透析準備に入る大まかな予想ができたり、特にpreemptiveの腎移植希望の患者さんはメリットがあるかもしれないです。何よりも普段測定するデータで予測できるところがいいです。一方で5年後の腎不全のリスクが30%だったとしてもじゃあどうすればよいかという問題がありますが、やはりmodifiable factorの改善は絶対に行うべきであることはわかります 。(アシドーシス、CKDーMBD治療、RAAS阻害による蛋白尿の減少etc.)この論文はぜひ一度読んでみてください。
T.S

糖尿病性腎症 (DMN) の自然経過

最近外来で診る腎臓病の多くは糖尿病です。指導医に"CKD secondary to DM"というと、なぜDMによるかを説明させられます。DMNはDM患者の30-50%さんにみられ、DMNに至るまでには少なくとも15年は必要と教わりますからDMの罹患歴は重要です。DMNへ至るには、初期のhyperfiltrationを経て、microalbuminuria からproteinuriaそしてGFR低下と経過していくのが一般的です。腎臓のサイズはhyperfiltrationからか比較的大きく、尿所見では血尿の頻度は比較的少なく、糖尿病性網膜症の存在はDMNの診断に重みを持たせるといわれます。このようなことがどのようにして分かったかは知っておくとよいですので、数ある文献からいくつか選んで見ていきます。1) DMNの自然経過 2)DMNの進行/アウトカムの2回に分けます。
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私がいるMUSCの腎臓内科のある指導医いわく、"DMは昔、NYとJoslin(ボストン)しかまともにやっていなくてNYでは血糖が腎症に影響するとは思っていなかったけど、Joslinではきっちり管理していて彼らが結局正しかったんだよ"なんて言っていましたが、そんな時代から現在は血糖管理に加え、RAAS blockadeを含めた血圧管理、インスリン抵抗性の治療などが加わり、大規模なclinical trial によりDMNのアウトカムが明らかになってきていますが、依然としてDMNはESRDへと移行します。無治療のDMNは年間GFRが10ml/min低下し、降圧療法により5ml/min/年に改善、RAAS blockadeで4ml/min/年改善することはここで書いています。

DMNの初期(70ー80年代)のstudyはほとんどが1型糖尿病についてばかりでした。その大きな理由はDM (II) はonset の確定が難しいことと、1型は若く、HTNを呈していないことが多くstudyがしやすいということがあると思います。腎臓のサイズについてですがChristiansenのstudyによると初期のDM(I)発症後2年程度ですでに腎臓のサイズとGFRの上昇が見られるとしています。したがって”1型糖尿病の初期(microalbuminuria出現前)ではすでに大きな腎臓とhyperfiltrationがある”ことが分かります。またmicroalbuminuriaがDMNの発症を予測できるかということに関してはMogensenが1984年にNEJMに報告しています。DM(I)患者43人(平均DM罹患12年)をmicroalbuminuria (-) 、microalbuminuria (+)にわけ10年観察した結果、血圧を保ってもDMNに至ったのはmicroalbuminuria (+)のグループであるとし”microalbuminuriaはDMNのriskである”と結論しています。Rudbergらは若年のDM(I)でmicroalbuminuria (-) とmicroalbuminuria (+)を呈した計64人を8年間追跡し、DMNに至ったグループとそうでないグループとでみたとき”hyperfiltrationの存在はDMNを予測できる”と報告しています。また血糖コントロール不良((A1C>8)がmicroalbuminuriaの出現に関与していることはこのstudyが示したとおりです。

したがって1型糖尿病腎症の自然経過としては初期からhyperfiltrationがおこり、血糖管理の不良はアルブミン尿の出現を招き” hyperfiltration /microalbuminuria”の存在はDMNへいたる一つのサインであるといえます。

次回は糖尿病性腎症 (DMN) の進行/アウトカムについてふれます。

T.S

Medulla II: Conflicting demands

Medulla is like Hellと言い切る人もいますが、実際にそうなのかもしれません。浸透圧が非常に高く、低酸素な環境は細胞にとって決して好ましいものではありません。まず、腎臓髄質の低酸素下ですが、皮質でのoxygen tensionは70 mmHgほどありますが、outer medullaからinner medullaに入る時点で30 mmHgまで低下しています。Inner medullaの先端では10 mmHg以下しかないといわれています。
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低酸素に加え、腎臓髄質は高浸透圧です。腎髄質での浸透圧は大雑把に言えば半分は尿素、残り半分はNaなどの電解質から構成されています。話がそれますが、臨床の場でBUNが高くても、BUN自体は無害だから(透析しなくて)大丈夫、という主張を耳にします。確かにBUNが70 mg/dlなどというレベルではそうかもしれませんが、極端に高濃度の尿素は決して無害ではありません。尿素はdenaturantの代表です。実際、蛋白のunfoldingを促すために実験の現場で長年使用されています。高濃度のNaも同様です。例えばaffinity chromatographyで抗原抗体のbindingをほぐす時など、色々な場面で蛋白をdestabilizeする性質が利用されています。我々の細胞が正常に機能するために、正常な蛋白の働き、正常な蛋白のfolding、は非常に重要です。事実、腎臓髄質ではheat shock proteins (HSP)など、正常にfoldingしていない蛋白をレスキューするchemical chaperonesが、皮質と比べて何十倍も多く(正常腎で)発現しています。 たとえばHSP70だけで腎髄質の総蛋白量の0.5%を占めます。高浸透圧な環境で細胞が機能し続けるために必要なのだと思います。

髄質での低酸素と高浸透圧には密接な関わりがあることが知られています。前回述べたように、thick ascending limb (TAL)でのNaCl再吸収は、髄質での浸透圧を生み出すために、非常に重要です。事実、TALでのNa+K+ATPaseの働きはNaCl再吸収/浸透圧維持のために非常に活発で、大量の酸素を消費しています。しかしながら、TALでの酸素消費のために、これより深部にいくdescending vasa recta (DVR)は低酸素になります。Outer medulla以深が低酸素になる理由は他にもいくつかあります。
1)DVRとascending vasa recta間でのcountercurrent systemが、深部への酸素供給効率を悪くしてます。一方でこのcountercurrent systemは腎髄質の浸透圧物質の洗い流しを防ぐために重要です。
2)血管の減少。DVRの4/5はouter medullaでU-turnして皮質に戻っていきます。わずか1/5のDVRがouter medullaより深部の髄質に入っていきます。
3)遅い血流速度。DVRの血流速度は遅く、酸素供給に最適とはいえません。DVRの周りにはpericytesが存在しており、髄質深部へ行く血流速度が調整されています。髄質での早すぎる血流速度は浸透圧物質を洗い流してしまいます。遅い血流と、そしてごく限られたDVRが髄質深部に入っていく構造は、浸透圧維持にはプラスに働くようです。過度の血流不足で組織が虚血に至らないようnitric oxidide等の物質を介して微妙なバランス(酸素供給vs 浸透圧維持)が保たれているのでしょうが、腎髄質に虚血に対する予備能があまりないのは想像に難くありません。
4)また、TALとDVRは解剖的に離れており(少なくともラットでは)、腎虚血時にTALがダメージを受けやすいことに加担している可能性があります。一方で、TALとDVRが位置的に離れているのは髄質の浸透圧を維持するのに都合が良いようです(computer simulation)。

最後に、昨年のMDIBLの追記ですが、MDIBLのコースではNa+K+ATPaseによる腎臓組織の酸素消費の変化を、Na+K+ATPase inhibitorなどを用いて測定しました。Platinumの電気抵抗が酸素濃度によって変わることを利用して酸素消費を測定しました。腎臓で、酸素の80%はNa+K+ATPaseのために使われていると言われています。

波戸 岳

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