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Beer Potomania

先日、アルコール依存症の男性が意識不明で病院に搬送されましたが、血漿Na 103meq/L、血漿浸透圧220mosm/L、尿浸透圧500mosm/Lと真性の低Na血症を呈していました。ビールを一日30本以上飲み、ほかにも酒を飲むということです。診断は?Beer Potomaniaです。
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以前にも書きましたが、人は尿を最大50mosm/L程度まで希釈することが可能です。欧米人は平均10mosm/kg/日の溶質(タンパクやNa)を食事から取るとされます。したがって、75kgの人を例にとると750mosm/日の溶質をとることになります。ところが、酒飲みはあまり食べないので仮にその1/3の250mosmしか摂取したとすると、理論上どんなに尿を希釈しても尿1Lあたり50mosmの溶質を失いますから、5L以上自由水(ビールなど)を摂取すると、自由水過剰をきたし低Na血症を呈することになります。酒飲みのもうひとつの特徴は溶質の摂取が少ないほか、嘔吐や下痢などvolume depletionを呈しているので、非浸透圧性の抗利尿ホルモン分泌がみられ、さらに自由水を集合管から保持しようとするため低Na血症を助長します。これがBeer Potomaniaです。心因性多飲症の多くは食事摂取が十分あるので、多尿をきたしても通常、低Na血症はきたしません。ただし15L/日以上の飲水は上記理由から低Naに傾くことになります。

ADHは主に「血漿浸透圧」の変化により調整されますが、volume depletionがあると非浸透圧性のADH分泌がおこり、その分泌量は通常よりも強力とされます。したがって、Beer Potomaniaに生理食塩水(308mosm/L)を点滴すると、まずvolumeが改善しますので、すぐにADHの分泌が抑制され、尿から自由水の排出が起こり、血漿Naは上昇します。急激な血漿Naの上昇は、浸透圧の変化させ細胞内から水を細胞外に移行するため、Central pontine myelinolysisという不可逆性の神経障害を起こすので注意が必要です。したがって、こういった患者は、ICUで3時間おきに血漿Naと尿浸透圧の値をモニタリングしながら、生理食塩水などを投与し始めます。Naの上昇が早すぎる場合(血漿ΔNa>10meq/L/日)5%ブドウ糖液など自由水の投与に替えるなど調整が必要です。実際、この患者さんは3日で血漿Naが103→111→123→130meq/Lときれいに改善しましたが、2日目以降はほとんど5%ブドウ糖液を投与していました。ADHの抑制により、尿中の自由水の喪失が極めて早かったからです。

T.S
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