「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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腎不全における薬物動態 (その2)

透析によりほとんどの薬は除去されますが、除去率にどういった要素が関与しているのでしょう?
除去されやすい要素
1) 体内分布(Volume of distribution: Vd <0.7 L/kg)の小さな薬剤
2) タンパク結合率の小さな薬剤(透析膜とおりやすい)
3) 分子量の小さな薬剤(小分子<300Da, 中分子300-12,000Da, 大分子>12,000Da)
4) 水溶性薬剤(透析液に拡散しやすい)
pict.jpg
ほとんどの薬は<500Da以下です。(例外:Vancomycin 1500Da, Daptomycin 1620Da)また最近の透析膜はいわゆるHigh Flux Membraneですのでpore sizeは20-30,000Daという大きさを持っていますので、タンパク結合(分子量>50,000)しない限り透過性は良いはずです。
気をつけるべき点は、薬剤の血中濃度を測定するタイミングです。特にVancomycin AminoglycosideなどはRe-equilibrationをするめ、透析後(vancomycinは4-6時間、aminoglycosideは1-2時間後)しばらくして測定しないと誤差を生じる可能性があります。

Aminoglycoside
この薬剤の使用量の目安にされていたpeakとtroughいう概念は透析患者においては最近は使用されません。投与量はその用途により変わってきますが
1) Synergy (他の抗生剤の相乗効果として使用した場合)
-loading dose 1.5-2 mg/kg
-maintenance dose 1 mg/kg (透析後投与)
2) 中等度から重症の感染症(例:Hospital acquired pneumonia)
-血中濃度 8-10を目指す
Aminoglycosideは4時間の透析で約50%が除去されるとされます。ただし、透析患者はこのピークを次回透析まで維持することになるので現実的には他の薬剤を使用するべきです。

Vancomycin
VancomycinはMICが1mg/Lである場合、効果的な最低血中濃度は15mg/Lです。MICが1以上の場合、使用は薦められません。薬力学効果は血中濃度がMICよりどのくらい高くそして長く維持されるかによるからです。
1) Loading dose 20-25mg/kg
2) Maintenance dose 10-15mg/kg
次回透析前にrandomの血中濃度を測定し以下のようにdosingしなおす。
>25 mg/L:再投与は控える
10-25 mg/L:500-750mg
<10 mg/L:1000mg

CRRT(continuous renal replacement therapy)における薬剤の投与
はどうするか?
適切なdosingはきわめて困難です。ほとんどのstudyはUFが1L/hrという実際よりも少ない透析で計算されていることにも注意が必要です。糸球体でろ過され、尿細管で再吸収され、Vdが小さく、タンパク結合がない薬剤であれば、ほとんどCRRTで除去されるため正常量を使用することが薦められます。投与の詳しい目安はここここに詳細に書かれています。

腎不全における抗菌薬の投与方法で覚えるべき点
抗菌薬(time dependant killing)投与量を減らす
-Cephlosporins
-Vancomycin
-Azole (抗真菌薬)
-acyclovir
抗菌薬(concentration dependant killing)投与間隔をあける
-Aminoglycoside
-Quinolones
-Daptomycin

以上簡単に腎不全における薬物動態に関して書いてみました。

T.S
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Brenner’s hypothesis - Size Matters

ヒトの身長は何cm? こう聞かれると、身長には個人差があるため、回答に窮屈すると思います。一方で、腎臓一つあたりのネフロンの数はいくつ?と聞かれると、大多数の我々は100万個という単一の数字を頭に思い浮かべると思います。ところが、実際のネフロンの数にはかなりのばらつきがあることが知られています。ネフロン数617,000 per kidney (range 331,000 - 1,424,000) や、785,000 (range 210,000 – 1,825,000) などの広範囲な分布が報告されています。ネフロンの数を正確に数えるのは容易ではありませんが、この広範囲な分布は事実、ネフロン数の個人差を反映していると考えられています。
size matters.jpg
ネフロンの数と出生時体重には相関関係があることが知られています。出生時体重が軽いほど、生まれもって備わったネフロンの数が少なくなります(Fig A, Fig B - Adapted from Brenner & Rector's the Kidney1,2)Fig Aのもととなるスタディーでは、growth-restricted still birthsと、生後一年以内で死亡したgrowth-restricted infants のネフロンの数を比較することで、低出生体重児のネフロンの数は生後増えないことも示しています。
生まれもって備わったネフロンの数が少ないと、ネフロンに負荷がかかり将来腎不全や高血圧になる確率が高くなるのではないか? 一般にBrenner’s hypothesisと呼ばれるこの仮説はBarry Brennerが20年以上前に提唱して以来、様々な動物実験やヒトでの観察データが蓄積し、少しずつ受け入れられつつあります。

北欧は出生時のregistry systemsがしっかりしているそうで、出生時低体重と将来の腎機能低下や、出生時低体重と将来の高血圧のデータが北欧からいくつも出ています。特にこのCirculationに出たスウェーデンのスタディーは 双子に焦点をあてており重要だと思います。Fig C はまた別のスタディーですが、事故死した人のネフロン数を高血圧の有無に分けてプロットしてあります。残念ながらこのスタディーでは出生時体重のデータがありませんが、非常に興味深いデータであることには違いありません。

ヒトで、ネフロン数減少と腎機能低下や高血圧との因果関係(causation, not association)を示すのは非常に困難ですが、腎移植後のデータはとてもsuggestiveです。Fig Dはフランスからのデータで、移植腎の重さとレシピエントの体重のミスマッチの有無による腎機能の推移を示しています。腎臓の重さとネフロンの数は比例します。ミスマッチがあると、移植後6年ほどはhyperfiltrationがあり、その後腎機能が急に低下しています。

最後に、生体腎移植に着目してみます。生体腎ドナーは献腎後ネフロンの数が半減します。しかし、生体腎ドネーションは一般に”安全“と言われています。本当に献腎後問題がないのかどうかは議論の余地が残るところです。特にNEJMに掲載された、オーストラリアの原住民アボリジニーとその地域に住む白人との献腎後のデータの比較は特筆に当たると思います。アボリジニーは出生時低体重が多く、また、ネフロンの数が少ないことが知られています。生体腎ドナーの安全性について次回以降もう少し掘り下げてみたいと思います。

波戸 岳
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腎不全における薬物動態 (その1)

腎臓内科医はしばしば腎不全における薬の投与量や排泄経路について質問を受けます。
腎不全に関わる薬物動態に関して知っておくべきことを書いてみます。
CrCl.gif
A) MDRD vs CrCl
腎不全における薬の投与量はほとんどCockcroft-Gault (CG)によるCrClに基づいています。
MDRDとCGを比較したstudyいくつもありますがいずれも違いを指摘するも、どちらの計算式がより有効でかつ腎毒性が少なかったかについては触れていません。CrClは尿細管からの分泌がある分、MDRDに比べ20%程度高く計算されます。またMDRDは体表面積をCGは実体重で計算するためCGは体の小さな人ではunderestimateする可能性があります。その例をここに示します。

B) 薬の吸収を低下させるsituation

1)Uremia: 胃のpHを変化させるため
2)DM: 機能性障害(gastroparesis) を伴った場合
3)りん吸着やアルミ含有antacidsなど多価陽イオンを含む薬剤の使用
4)浮腫

C) 薬物の体内分布 (Volume of distribution:Vd)

1) Small Vd (<0.7L/kg)
-タンパク結合率が高い場合
-水溶性
-例:フェニトイン, Vd= 0.7, タンパク結合90%
2) Large Vd(>0.7L/kg)
-脂溶性
-例:Digoxin (Vd = 8 L/Kg) and 三環系抗うつ薬(Vd = 36 L/Kg)

浮腫を伴った腎不全では、小さなVdを有する薬剤はそのVdを増加させる可能性があります。
体表面積あたり脂肪の分布が多い人は当然、脂溶性薬剤のVdを増加させます。Vdが大きいほど透析により除去されにくいことも理解できるかと思います。

次回は透析による薬の除去について書いてみます。

T.S
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Scientific writing

私はwritingが苦手です。職業柄ものを書かないといけないことが少なからずありますが、毎回binge writingで済ましているため、上達しません。何度かScientific Writing Courseをとったことがありますが、最近受講したGeorge Gopenのコースは格別良かったのでここに紹介したいと思います。
Snoopy-Writing-Life.jpg
彼の根本の主張は読み手を意識せよ(Readers’ Perspective)、というところにあります。当たり前に聞こえるかもしれませんが、文章のstructureを意識することで、いかに文章を改良できるかを具体的に示しています。彼の執筆した本には、彼の主張する内容が良くまとまっています。彼のWritingのアプローチは一読の価値があると思います。もうすぐ英語を母国語としない人向けの本も出版されるようです。

George Gopen
The Sense of Structure: Writing from the Reader's Perspective


Expectations: Teaching Writing from the Reader's Perspective


波戸 岳
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塩分摂取と高血圧

塩の取り過ぎは血圧の上昇につながりますし、高血圧は心疾患、脳血管障害などにかかわります。日本人は塩分摂取量が欧米に比べ高いといわれています。実際、1970年代後半まで日本人の死亡原因第1位は脳血管障害でしたが、適切な血圧管理と減塩の概念が浸透してきた結果でしょうが、今では脳血管障害は3位になっています。(図6)
DASH.jpg
実際、世界の人々の塩分摂取量を最初にきちんと見たstudyはおそらく
INTERSALTではないかと思います。これは32カ国のさまざまな人口の血圧とナトリウムの排泄などを観察した結果、尿中ナトリウム排泄は血圧の高さに相関するというものでした。またK排泄は血圧に逆相関していたようです。このなかで興味深いのが極めて塩分摂取の低い民族がいるということです。Yanomamo, Xinguとよばれるブラジルのインディアンはほとんど塩分を取らないため高血圧がいません。なんとYanomamoの人たちの尿中Na排泄は1mmol/day=23mg/day だそうです! これは低塩分食(ナトリウム2300mg)の1/100です。これらの民族には一切高血圧がいませんし、血圧上昇率が-0.8/10年だそうです。ただ、背はみな低く、平均寿命が50歳代なので遺伝的疾患があるのかもしれません。また、この調査が行われたのはもう40年も前の話なので、Yanomamoの現在の状況を調べて見ると興味深いですね。(i phone、internetの時代ですから彼らも。。。)

こちらで健康によい食事の代名詞はDASH diet(野菜や果物、穀物、低脂肪食)とされています。これはDietary Approaches to Stop Hypertensionの略ですがこのstudyを取り上げます。

400人ほど(疾患なし、s-BP120-159、血圧薬なし)を4週間同施設で通常の食事とDASH食を食べるグループにわけ、さらに各々を塩分別(ナトリウム換算で)1.2, 2.3, 3.5gにわけました。その結果、DASH食(高塩分グループ)を食べた人たちは通常食にくらべると、収縮期血圧が6mmHgも下がったそうです 。これはかなり大きな数字です。またもっとも血圧を下げたグループはDASH+低塩分です。DASHが血圧を下げる最大に理由は高K食であるからだと思われています。Yanomamoの食事もほとんどフルーツや穀物でしょうから、かれらの尿中KもDASH食の人たちと同じかそれ以上に高かったわけです。

DASH食=降圧薬一つ分にあたりますので、降圧治療のまず最初の処方せんであるべきですね。

T.S

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悩ましい透析患者でのMRSA血流感染症 Part 2 ( 耐性)

S. aureus (今回はMRSAに絞ります) が血培から検出された場合、もちろん抗菌薬治療が必要でvancomycinのトラフを15-20 mg/Lに保ちながら上述の期間治療します。当院では幸い薬剤部が入院中のトラフと投与量をモニターしながら、退院までに適切な量、投与間隔を教えてくれるのでそれに従っています。ただ、退院後にトラフがずれる例も多く、長期投与では、home infusion companyと連絡を取りながら微調整が必要な場合もあります。最近問題になってきているのはMRSAの中でもvancomycin のMICが高い株が増えてきていることです。
wash.jpg
CLSI (Clinical and Laboratory Standards Institute: 微生物の抗菌薬への感受性、耐性を分ける”breakpoint”と呼ばれるMIC値の定義、改定などをしている) の基準では、vanomycinのMICが≤2 mcg/mLであれば感受性 (susceptible) と判定されるものの、IDSAではvancomycin のMICが2で臨床的な改善が認められない場合、vancomycin以外の治療薬を考慮した方が良いとしています。これには例として以下のような理由が挙げられています。

1) h-VISA (Heterogeneous Vancomycin Intermediate Staphylococcus aureus) 患者に感染しているMRSAの集団のうち、vancomycinへの感受性が良いものと今ひとつのものが混ざっているためMICが高めに出る。このため、vancomycinを使い続けていると感受性の悪い株を選択していることになる、
2) Vancomycinの臨床的効果を得るためにターゲットとするAUC/MIC≥400はMICが2以上では到達しがたい。
また、hVISA やVISA ではvancomycinが使えない場合の治療の切り札となるdaptomycinへの感受性も悪くなるという報告もあります。いまだにcontroversialな領域ですが、IDSAのMRSAガイドラインに2人のauthorが入っている当施設では、vancomycinのMICが2の場合、原則としてdaptomycinでの治療を行っています。Linezolidもオプション (特に肺炎例では肺サーファクタントで不活化されてしまうdaptomycinは使えないので) ではありますが、殺菌性ではなく静菌性であるのと血小板減少 (ESRDではよりおこりやすい) やperipheral neuropathy, ocular toxicityなどの副作用のため、血流感染でvancomycinが使えない例ではdaptomycinに分があります。Daptomycinの主な副作用としてmyopathyがあり、CPKのモニターが必須です。昨年報告された意外な副作用としてeosinophilic pneumoniaがあり、当院でも最近1例見つかりました。またFDAの承認通りの量を使用すると (ちなみに承認量よりも高容量、10mg/kgを使用すべきという意見もあります)、ESRDの透析患者に対しては6mg/kg 48時間ごとの投与になってしまうので透析日とずれてしまうのもやや使いにくい点です。

というわけで、なかなかすっきりとはいかない透析患者でのMRSA血流感染症について書いてみました。

Wayne State University感染症フェロー
早川佳代子

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悩ましい透析患者でのMRSA血流感染症 Part 1 (ガイドライン、診断、治療)

Detroitにある当院での感染症科のコンサルト中で、最も多いのはなんといってもS. aureus、特にMRSAの血流感染です。Detroitの場合、IVDU (Intravenous Drug Use、ヘロイン) が原因のことも非常に多いのですが、各種ライン (PICC、CV), そしてHD カテーテルによるものも多いです。ここ数年、IDSA (米国感染症学会)からも立て続けにカテーテル関連感染症 (2009)、MRSA感染症の治療(2011) ガイドラインが出されています。
MRSA.jpg
 カテーテル関連感染症のガイドラインでは「カテーテル関連」であるための診断基準が詳しく書かれています。抜去したカテーテルのチップ培養の結果、15 colony-forming units以上の菌が見つかり(厳密には5cm以上の長さのカテーテル先端をコロコロと培地の上で転がす) 、更に同じ菌が末梢血血培からも見つかる (但しS. aureusの場合、カテーテルチップ培養陽性のみで末梢血血培陰性でも治療が勧めらています) というのが第1ですが、カテーテルをすぐ抜去できない状況も多く、末梢血よりも、カテーテルから得られた血培が2時間早く陽性になるという基準も可とされています。但し、HDカテ血流感染の場合、外来透析中にleukocytosisや発熱のため、HDカテから血培が取られ、それが陽性になったから (あるいは陽性になる前でも) 病院に送られてくるケースが非常に多く、末梢血培が得られていないことも多く(将来のshunt作成などのため採血困難な例もあり)、この2番目の基準も実際診療上有用とは言い難いです。日常診療では、他部位の感染症が否定的で、カテーテル感染に典型的な菌が陽性、HDカテの刺入部の炎症 (膿、発赤、疼痛など)、HDカテを長く使っている(何カ月以上も前に挿入された) などを手掛かりに診断している場合が多いです。

治療に関しては、同ガイドラインでは
1) カテーテルの抜去 及び
2) 血液培養が陰性化するまでに72時間以上かかっていれば4-6週間の治療を推奨しています。
もしも血培が72時間以内に陰性化し、かつTEE (経食道エコー) が陰性 (vegetationがなくIE: Infective Endocarditisが否定的) であればカテーテル抜去後に3週間の治療も可となっています。但し実際コンサルトを受けた場合、どれほど強くTEEを推奨するのかは悩ましく、1週間近く血培陽性が続いていれば間違いなく必要なものの、それ未満の場合はアテンディングによっても意見が異なります。

ごく最近CID (Clinical Infectious Diseases) に載った論文では、IEを予想するためにnosocomialなS.aureus 菌血症の場合、
1) prolonged bacteremia (>4 days)
2) presence of a permanent intracardiac device
3) hemodialysis dependency
4) spinal infection
5) nonvertebral osteomyelitisのうち、1つ以上を満たすというcriteriaを使ったところnegative predictive valueは99.2-100%であったという結果がでており (positive predictive valueは5.9-12.7%と低かった)、これを1つも満たさない場合、TEEは必要ないのではと結論付けていますが、hemodialysis dependencyは既に基準に入ってしまっているので、透析患者でのTEEの適応を絞り込むのには残念ながら有用ではありません。ただ例えば当院では、先月1カ月だけでもHDカテ由来の菌血症 (MRSAとCandidaが1例ずつ) に合併したIEの症例を経験しており、MRSA菌血症の症例は更に頸髄の硬膜外膿瘍まで合併していました。本当に少しでも疑わしければ (心雑音、塞栓症状、持続菌血症など) IEは常に重要な鑑別疾患です。

次回はMRSAの耐性についてお話します。

Wayne State University 感染症フェロー
早川佳代子

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CQI

以前フェローのスケジュールについて書いた際に、CQI (Continuous quality improvement)の発表が義務づけられていることを紹介しました。詳細はここでは述べられませんが、私は入院、外来における透析患者のとある問題に焦点を絞り話を進めました。CQI発表の際に作成したグラフの一部をここに添付しました。Inner cityに位置する、とある外来透析室のデータの一部ですが、日本の透析患者層と比較し、透析生存率などで大きく違いがあることがみてとれるかと思います。
image.jpg
他のフェローはContinuous renal replacement therapyの処方と実際の透析マシーンの稼動時間の差をみたり、透析患者の放射線被爆量と腎不全でない患者の放射線被爆量を比べてみたり、外科医個別のシャント,グラフト開存成績と感染率をだしたりと、何でもありです。

波戸 岳

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不法移民の透析

こんな記事がありました。
アメリカには不法移民が1100万人以上いるとされ、そのうちESRD患者は6000人ほどいるようです。不法移民は医療を受ける際は何でも引き受けるcounty hospitalなどのERに行くことになります。ERは原則、不法だろうがなんだろうが、sick patientは見なければならない法律になっています。ですが通常こういった人たちは、週3日透析をルーチンで受けられるとは限らず医学的には必要と分かっていても採血をしてKが高かったり、胸痛、呼吸困難など絶対適応がない限り透析させてもらえません。
fuho.jpg
アメリカの透析費用は一人あたり約72000ドル/年で、通常はmedicareとよばれる国の保険でまかなわれていますが、不法移民は当然この保険の適応外になりますから自費(無理)かだれか(国民の税金)が払うことになります。コストはこれだけにとどまりません。ERで透析を受けますから上記に加えERでの人件費、X線、検査など毎回の受診費用を考えると莫大なものです。多くはアメリカに職を求めてきた若い人たちや自国では透析治療という選択肢のないといった人たちが大半です。

NYブルックリンにあるKings County Hospitalの外来透析患者の7割は不法移民だそうです。ここのフェローに以前聞いたびっくりした話です。フェローになって初めて見た透析患者は、60歳カリブの女性でJFK空港から直接救急車で来院、主訴:fatigue.採血するとBUN 450 Cr 75 HCO3<5 だったそうです! (ものすごいuremic breathがしたとか)
事情を聞くと、自国では透析を受けられないからアメリカに住む息子が母を呼び寄せたそうです。こういった患者はtunneled catheterを挿入され、透析を受けますが、シャントを作ってもらえることはありません。外科医は不法移民の手術をしてもまったく収入にならないからです。腹膜透析はERを受診しなくても家でできる分コスト削減になるはずですが、同様の理由から腹膜カテーテルを挿入したがる外科医がいません。

私のいるチャールストンの病院はcounty hospitalではないのでこういった人たちはあまり見かけません。先日いた同様の患者さんは、カテーテルを入れ数回透析後、自国(ブラジル)に帰っていただきました。ただ多くは貧困国から来ているため、慢性疾患で専門治療(透析や化学療法など) が必要な患者さんは強制退去ができないのが現実のようです。。この国は移民を受け入れ大きくなった国の一つでそれが強みなわけですがその半面、不法移民問題は医療のみならず大きな悩みの種です。

ちなみにERでの透析は不法移民に限らず、コンプライアンスの悪い透析患者さんではよくあることです。朝起きたら透析クリニックに行く気がしなかったから透析を飛ばし、数日後、ERにきて透析をする。ひどい場合、自分の好きな時に透析をしてもらうためにERばかりに来る患者もいます。アメリカで働くと日本では考えもしなかったいろいろな患者さんを見ます。
日本でこういった事情はまれでしょうが、仮にどこか貧困国からの不法移民が
このような状況になったら、どういったことになるのでしょうか?

T.S
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Acute kidney injury and repair

病棟でうけるコンサルトで最も多いのはAKI、その中でもacute tubular necrosis (ATN)は最も頻繁にみられます。ATNという名前からは尿細管細胞のsloughing, necrosis, apoptosisなどの病理所見に基づいた診断を匂わせますが、実際の現場ではATNは臨床的に診断するものであり、ATN疑いで腎生検をすることはまずありません。尿中の”muddy brown cast”を毎回ドキュメントしてATNと診断を下す腎臓内科医もいれば、そんなものは飾りで、臨床的にATNが強く疑われればATNと診断するべきで、尿中にgranular castが存在してもしていなくても関係ない、主張する医者もいます。
ATN.jpg
さて、ATNと診断した後の根本治療は、、、皆無です。我々は腎組織の自然治癒をひたすら待つことしかできません。”ATNだから待っていればよくなる”、と言って、そこで思考停止に陥っている臨床医が少なくありません。我々がこの思考停止から抜け出すことが治療の第一歩なのかもしれません。AKIからの修復のプロセスはあまりよくわかっていません。一方で、かなりのダメージをうけても、多くの症例で、腎機能が回復する事実には驚きを隠せません。

以下、AKI repairに関して最近の論文をここにいくつかあげてみたいと思います。
HarvardのDr. Bonventreのグループが昨年発表した、尿細管のcell cycle arrestとそれに伴うfibrosisは、ATNから回復せずに透析に至るケースを理解する手がかりになる可能性があり、非常に重要と思われます(Nature Medicine)。また同グループは、近位尿細管の修復は近位尿細管細胞によってなされることをつい最近発表しています(PNAS)。彼らの仕事から推測できるように、Bonventreはstem cell, bone marrow cell, epithelial mesenchymal transitionなどに対して否定的です。BonventreはAKIマーカー、KIM1で有名ですが、それに対抗するAKIマーカーNGALに関する論文も数多く発表されています。数ヶ月前に発表された論文では、NGALの発現を時間的、空間的に詳細に分析しています(Nature Medicine)。 シスプラチンやエンドトキシンなど近位尿細管に通常ダメージをきたす物質を用いても、なぜか遠位尿細管にばかりNGALの発現をきたしていたのが印象に残りました。いずれにせよ、AKIマーカーが乱用される時代が遅かれ早かれやってくると予想され、その時代の到来前にマーカーの理解をさらに深める必要があると思います。最後に、zebrafishは生後もnephronが増え続けるそうで、哺乳類でも”nephron progenitorsの抑制”を解けば、AKI repairに応用できるのでは、仮説をたてているグループもあります(Nature)。

波戸 岳
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