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Medulla II: Conflicting demands

Medulla is like Hellと言い切る人もいますが、実際にそうなのかもしれません。浸透圧が非常に高く、低酸素な環境は細胞にとって決して好ましいものではありません。まず、腎臓髄質の低酸素下ですが、皮質でのoxygen tensionは70 mmHgほどありますが、outer medullaからinner medullaに入る時点で30 mmHgまで低下しています。Inner medullaの先端では10 mmHg以下しかないといわれています。
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低酸素に加え、腎臓髄質は高浸透圧です。腎髄質での浸透圧は大雑把に言えば半分は尿素、残り半分はNaなどの電解質から構成されています。話がそれますが、臨床の場でBUNが高くても、BUN自体は無害だから(透析しなくて)大丈夫、という主張を耳にします。確かにBUNが70 mg/dlなどというレベルではそうかもしれませんが、極端に高濃度の尿素は決して無害ではありません。尿素はdenaturantの代表です。実際、蛋白のunfoldingを促すために実験の現場で長年使用されています。高濃度のNaも同様です。例えばaffinity chromatographyで抗原抗体のbindingをほぐす時など、色々な場面で蛋白をdestabilizeする性質が利用されています。我々の細胞が正常に機能するために、正常な蛋白の働き、正常な蛋白のfolding、は非常に重要です。事実、腎臓髄質ではheat shock proteins (HSP)など、正常にfoldingしていない蛋白をレスキューするchemical chaperonesが、皮質と比べて何十倍も多く(正常腎で)発現しています。 たとえばHSP70だけで腎髄質の総蛋白量の0.5%を占めます。高浸透圧な環境で細胞が機能し続けるために必要なのだと思います。

髄質での低酸素と高浸透圧には密接な関わりがあることが知られています。前回述べたように、thick ascending limb (TAL)でのNaCl再吸収は、髄質での浸透圧を生み出すために、非常に重要です。事実、TALでのNa+K+ATPaseの働きはNaCl再吸収/浸透圧維持のために非常に活発で、大量の酸素を消費しています。しかしながら、TALでの酸素消費のために、これより深部にいくdescending vasa recta (DVR)は低酸素になります。Outer medulla以深が低酸素になる理由は他にもいくつかあります。
1)DVRとascending vasa recta間でのcountercurrent systemが、深部への酸素供給効率を悪くしてます。一方でこのcountercurrent systemは腎髄質の浸透圧物質の洗い流しを防ぐために重要です。
2)血管の減少。DVRの4/5はouter medullaでU-turnして皮質に戻っていきます。わずか1/5のDVRがouter medullaより深部の髄質に入っていきます。
3)遅い血流速度。DVRの血流速度は遅く、酸素供給に最適とはいえません。DVRの周りにはpericytesが存在しており、髄質深部へ行く血流速度が調整されています。髄質での早すぎる血流速度は浸透圧物質を洗い流してしまいます。遅い血流と、そしてごく限られたDVRが髄質深部に入っていく構造は、浸透圧維持にはプラスに働くようです。過度の血流不足で組織が虚血に至らないようnitric oxidide等の物質を介して微妙なバランス(酸素供給vs 浸透圧維持)が保たれているのでしょうが、腎髄質に虚血に対する予備能があまりないのは想像に難くありません。
4)また、TALとDVRは解剖的に離れており(少なくともラットでは)、腎虚血時にTALがダメージを受けやすいことに加担している可能性があります。一方で、TALとDVRが位置的に離れているのは髄質の浸透圧を維持するのに都合が良いようです(computer simulation)。

最後に、昨年のMDIBLの追記ですが、MDIBLのコースではNa+K+ATPaseによる腎臓組織の酸素消費の変化を、Na+K+ATPase inhibitorなどを用いて測定しました。Platinumの電気抵抗が酸素濃度によって変わることを利用して酸素消費を測定しました。腎臓で、酸素の80%はNa+K+ATPaseのために使われていると言われています。

波戸 岳

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