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糖尿病性腎症 (DMN) の自然経過

最近外来で診る腎臓病の多くは糖尿病です。指導医に"CKD secondary to DM"というと、なぜDMによるかを説明させられます。DMNはDM患者の30-50%さんにみられ、DMNに至るまでには少なくとも15年は必要と教わりますからDMの罹患歴は重要です。DMNへ至るには、初期のhyperfiltrationを経て、microalbuminuria からproteinuriaそしてGFR低下と経過していくのが一般的です。腎臓のサイズはhyperfiltrationからか比較的大きく、尿所見では血尿の頻度は比較的少なく、糖尿病性網膜症の存在はDMNの診断に重みを持たせるといわれます。このようなことがどのようにして分かったかは知っておくとよいですので、数ある文献からいくつか選んで見ていきます。1) DMNの自然経過 2)DMNの進行/アウトカムの2回に分けます。
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私がいるMUSCの腎臓内科のある指導医いわく、"DMは昔、NYとJoslin(ボストン)しかまともにやっていなくてNYでは血糖が腎症に影響するとは思っていなかったけど、Joslinではきっちり管理していて彼らが結局正しかったんだよ"なんて言っていましたが、そんな時代から現在は血糖管理に加え、RAAS blockadeを含めた血圧管理、インスリン抵抗性の治療などが加わり、大規模なclinical trial によりDMNのアウトカムが明らかになってきていますが、依然としてDMNはESRDへと移行します。無治療のDMNは年間GFRが10ml/min低下し、降圧療法により5ml/min/年に改善、RAAS blockadeで4ml/min/年改善することはここで書いています。

DMNの初期(70ー80年代)のstudyはほとんどが1型糖尿病についてばかりでした。その大きな理由はDM (II) はonset の確定が難しいことと、1型は若く、HTNを呈していないことが多くstudyがしやすいということがあると思います。腎臓のサイズについてですがChristiansenのstudyによると初期のDM(I)発症後2年程度ですでに腎臓のサイズとGFRの上昇が見られるとしています。したがって”1型糖尿病の初期(microalbuminuria出現前)ではすでに大きな腎臓とhyperfiltrationがある”ことが分かります。またmicroalbuminuriaがDMNの発症を予測できるかということに関してはMogensenが1984年にNEJMに報告しています。DM(I)患者43人(平均DM罹患12年)をmicroalbuminuria (-) 、microalbuminuria (+)にわけ10年観察した結果、血圧を保ってもDMNに至ったのはmicroalbuminuria (+)のグループであるとし”microalbuminuriaはDMNのriskである”と結論しています。Rudbergらは若年のDM(I)でmicroalbuminuria (-) とmicroalbuminuria (+)を呈した計64人を8年間追跡し、DMNに至ったグループとそうでないグループとでみたとき”hyperfiltrationの存在はDMNを予測できる”と報告しています。また血糖コントロール不良((A1C>8)がmicroalbuminuriaの出現に関与していることはこのstudyが示したとおりです。

したがって1型糖尿病腎症の自然経過としては初期からhyperfiltrationがおこり、血糖管理の不良はアルブミン尿の出現を招き” hyperfiltration /microalbuminuria”の存在はDMNへいたる一つのサインであるといえます。

次回は糖尿病性腎症 (DMN) の進行/アウトカムについてふれます。

T.S

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