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Nitrogenous end products (part 2)

2.尿素

アンモニアよりも毒性がかなり減少します。そのため、アンモニアよりも何十倍も高い濃度の尿素を血中に維持することが可能です。これはまた、水へのアクセスが悪い哺乳類が、水をセーブしつつ窒素を排泄するのにも都合が良いです。哺乳類の他に、カメ、カエルなども尿素がメインの窒素代謝産物です。我々哺乳類の腎臓髄質では、尿素を浸透圧調整物質としても利用しています。しかしながら、以前触れたように、高濃度の尿素は有害です。また、エネルギー効率で言えば、尿素を産生するには、アンモニアと同等の窒素を排泄するよりも4 ATPから5 ATP余分にかかります。
余談ですが、尿素を扱ったことがある方はご存知だと思いますが、尿素粉末を水にまぜると水の温度が一気に下がります。アイスパックなどは、この反応を利用しています。また、高濃度の尿素中に組織をつけておくと、組織が透明になり、顕微鏡で深部までみることができるようになります。これは日本のグループによって数ヶ月前のNature Methodsに発表されました。自分も実際に試したところ、autofluorescenceの強い腎臓も、だいぶ透き通ってみえるようになりました(何週間もかかりますが)。
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3.尿酸

尿酸は、腎不全以外にも高血圧や炎症など、各分野で話題を集めているようです。尿酸は抗炎症作用も言われていたり、その良し悪しについては議論の分かれるところです。今年のアメリカ腎臓学会で尿酸のセッションを聞いてきた友人は、尿酸値とIQには相関関係があるらしいとまで言っていましたが(尿酸値が高いほどIQが高い)、私は真実のほどを確認できていません。
尿酸を最終代謝産物とする代表的な動物には鳥、爬虫類、昆虫があげられます。鳥はよく痛風になり、獣医にはなじみのある疾患とも聞いています。尿酸を産生するためには、尿素よりもさらに多くのATPが必要ですが(12 ATP versus 4 ATP)、利点としては、尿素よりもさらに毒性が低いことがあげられます。また尿酸は、水溶性が極端に低いため、濃縮して結晶化した形で排泄することが可能です(車に付着した鳥のフンは尿酸の塊です)。この濃縮化は、陸上にすむ生物にとって、水をセーブできるという点で尿素以上に優れています。同等の窒素代謝物を排泄するために必要な水の量を比較すると、アンモニアを1とした場合、尿素は1/40、尿酸は1/100程度の水で済むと言われています。
毒性や水の観点から進化の過程を推測すると、アンモニア→尿素→尿酸となりそうですが、なぜ哺乳類は尿酸を最終代謝物としないのでしょうか?憶測の域をでませんが、ATPのコストを含めた総合的なバリューは、ほぼ尿素と尿酸で同等なので、どちらでも良かったのかもしれません。尿酸は結晶化して窒素代謝物が拡散しないので、鳥、爬虫類、昆虫など卵から産まれる動物は孵化する前に、尿素よりメリットがあると考えられています。

そもそもornithine-urea サイクルは、進化の過程でアンモニア代謝にとってかわるものとして出現してきた、と考えるのは正しくないようです。早期に出現した魚もornithine-urea サイクルを遂行する遺伝子を全て持っていた、と一般的に考えられています。事実、現存する魚をみると、サメ、エイ、Toadfish (MDIBL Origins of renal physiology (GFR))、 Lungfish (Extremophiles)などはornithine-urea サイクルを使い尿素を産生しますが、サケ、バス、コイなどはornithine-urea サイクルに関わる遺伝子の一部に欠損があり機能していません。各種魚の出現時期と、機能しているornithine-urea サイクルの有無には一定の関係がなく、水中ではアンモニアの排泄で間に合っていたために、ornithine-urea サイクルが欠損しても生存に影響を及ぼさなかったのかもしれません。ちなみに、多くの一般的な魚(bony fish)は尿酸、allantoin経由で尿素を産生することもできますが、メインの排泄経路ではありません。また、我々人間はuricaseを欠いているので、この経路からの尿素産生はしていません。

波戸 岳
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