「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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The frog in the well (2)

今回は大学の人材育成に関する根本的な違いについて触れておきたいと思います。米国のシステムを知れば知るほど、日本のピラミッド型の医局体制は、勤務環境としては理想とかけ離れているように感じられます。少し悪い言い方をすれば、日本の医学部は既存の体制維持のために若い学生や医師を「洗脳」します。組織の中に、「若い人は育ててもらっている立場なのだから、多忙・薄給・地方勤務を含めた職場環境や教育に関しては文句を言わせない、言ってはいけない」とういう暗黙の了解が築かれてしまうのです。個人の才能や特技、個性などといったものは、組織にとってはある意味「二の次」という認識なのでしょう。若い一個人がその組織にとってどのような形で貢献できるか、という視点で見た場合、極端な話、組織としては彼らが真面目に働くかどうか以外にはあまり関心がないわけです。
それに対し米国では、面接の際に「あなた自身が組織に与えられるものは何か」という質問をされることが多いです。これは米国の医学部に入学するためには四年制大学卒業の資格が必須であり、日本の医学生に比べて他分野での経験が予め多いということも影響しているかも知れません。組織に自分をアピールすることは、自己主張が苦手とされる日本人にとって大変なことですが、大切なことは以下の二点に尽きます。
① 「自分はその組織からどのようなことを得ることができ、またどうやって自分の良さを伸ばせるか」を考える。
② 「自分が他人より秀でている点を明確にし、それをその組織にどのように還元できるか」ということを言葉でしっかりと表現する。
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人材育成についてもう一つ付け加えるとすれば、米国はキャリア育成に関して進んでいます。米国の大学にも「教授・准教授」等のランクはありますが、facultyの数が多く、年功序列の要素が少なく、昇進の基準さえ満たせばどんどん伸びるチャンスがあります。具体的には、研修中からjunior facultyレベルまで必ずメンターがつき、日々の診療をはじめ教育・研究・グラント申請まで様々な場面で助言と協力を得られるのです。「どのようにしてその人を伸ばそうか」という働きかけが、組織をあげて行われているわけです。そして大学の研修プログラムは、「こんなに素晴らしく育てた人材ですので、きっとそちらでも活躍してくれることでしょう」とtraineeを他の大学や組織に送りだすことに誇りを持っています。と同時に、どの大学も期待に応えられる優秀な研修医やfacultyを常に探しています。人材の入れ替わりは組織に新しい風を吹き込み、それによって組織が更に強くなることを実によく心得ているからなのです。
日本では多くの場合、その逆ではないでしょうか。何年勤務しても、またどんなに尽力を注いだとしても、その組織を離れる際には「これだけ教えてやったのに、他に移るのか?」と非難を受けるケースも多いと聞きます。このような日米の組織の違いをどう捉えるかは皆さん次第です。日本でも、このような情報が入るにつれ、既存のシステムの異常に気付いて組織を変えようとする人・組織を離れる人・気付かない人・気付いても圧力に勝てずに流されてしまう人、など個人の対応は様々になっていくでしょう。既存の異常は「外から見るとより良くわかる」場合が多いですので、これを読んで下さった学生や若い医師の方々はぜひ一度は日本を出て(理想的には背中に紐がついていない状態で)、視野を広げてみてください。今こそ蛙も井戸を飛び出す時です!

T.S
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