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臨床研究の難しさ

昨年発表されたTempoスタディーはTolvaptan(V2R antagonist)が多発性のう胞腎の治療に有効性がみられたというもので、腎臓の分野ではとても明るい話題だったと思います。臨床試験が中止されず、かつpositive resultが見られることは非常に難しいのです。臨床医なら大事な臨床試験の結果はどうであれ知りたいと思いますが、クリニカルトライアルは現在、clinicaltrials.govへの登録が必須になっているにもかかわらず、その半分以上は様々な理由から出版に至りません。これは驚くことに、NIHスポンサーのトライアルでも同様の事が言われています。
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治験薬の有効性がないため試験半ばで中断された例として上記のTempoとともに発表されたAltitudeスタディー
を見てみます。レニン・アンジオテンシン系阻害が糖尿病性腎症の進展を遅延させることはここで書きましたが、この試験は8000人以上にも及ぶ糖尿病患者にレニン阻害薬(aliskiren)を、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)に加え投与した場合とそうでない場合とで比較しました。結果は残念ながら併用したグループの方が生命予後、心血管系、腎臓のイヴェントすべてにおいて悪化の傾向があるということから試験は中止されました。ただしこの結果をよく見てみると、レニン阻害薬はその働きをしっかりと果たしているのです。このsupplementのfigureS3をみるとレニン阻害薬を加えることで血圧は下がり、カリウムは上がり、蛋白尿も下げたのですが、腎機能の改善に至らずむしろ心血管系イヴェントを増加させてしまったわけです。

数々の研究とスクリーニングを経てBenchから臨床試験へと登場する薬たちですが、このように細胞や動物、人での小さな臨床研究で効果が見られても、大きな臨床試験で使用するとその利点みられないということは多々あります。今回のstudyではレニン阻害薬を加えた薬効が本当になかったのか?とういう質問の答えはでないでしょう。しかしstudyデザインは本当に良かったのかということは次につなげるためにも議論の余地がある気がします。いままでのpreliminaryデータからAliskirenは糖尿病性腎症で良好な短期成績を収めていました。薬の拡大適応を狙った策からか、腎機能も血圧も蛋白尿も正常に近い人もこの試験では含まれていることを考えると患者層を広げすぎた可能性はあります。すなわち、正常の腎機能患者にあえて2剤もRAS系阻害薬を投与するべきかということです。ACE阻害薬・ARBに加え、レニン阻害薬の追加効果を最も必要としているのは蛋白尿の多いネフローゼ症候群の患者さんだと思います。正直、腎臓内科医としてはこの患者層へのレニン阻害薬の追加効果を知りたいですよね。残念なことに一般的に、ここまで時間・労力・お金をつぎ込んだ大きなネガティブトライアルのあとに、こういった小さな患者層に臨床試験を行うことはまずないと考えられます。FDAがこの薬にブラックボックス警告を設定してしまうと、使用すらできなくなってしまう恐れがあります。
治療薬の開発と臨床への適応はとても難しいです。

T.S
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