「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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PKDと癌

私が腎臓内科を志した理由の一つに、腎臓の病態生理が面白そうだった(というより全くわからなかった)ことと、「癌」はきっと治せないだろうから癌のない分野に進みたいという愚かな思いが当初ありました。ですが実際、腎臓病はほとんど治らないですね。。。。

そんなこんなで私はアメリカで腎臓内科フェローとして勤務しています。フェローといっても専門研修医ですから、研修医生活は日本でしてきた分も含めると8年もやっています。アメリカ人からすると「trainingをそんなするなんて信じられない」とみんな口をそろえて言いますね。しかも現在のフェローシップはリサーチに費やされる時間が通常のフェローよりも多いコースを希望したため2年ではなく、3年フェローとして働きます。ただ臨床ばかりではなくこのコースの良い点は2年間しっかり研究に専念できることです。臨床経験だけではなく、リサーチの面白さも知ってもらい、将来のscientist/clinicianを養成しようという背景がこの制度にはあります。

PKDnorm.jpg

さてそれはさておき、私は「多嚢(のう)胞性腎症:polycystic kidney disease(PKD)」に関する基礎研究に携わっています。これまで正直PKDについては勉強したことがあるとは言い難く、今いろいろ勉強中です。PKDで特に面白いと私は思うのが「ADPKD(常染色体優性遺伝性嚢胞腎)のtwo hit hypothesis」です。ADPKDは嚢胞ができ始める年齢が人それぞれ違いますが、その理由としてtwo hit hypothesisが関与しているといわれています。

ADPKD はPKD1という遺伝子変異が原因の一つですが、この遺伝子座にある2つの対立遺伝子のうち1つは生まれた時すでに変異(1st hit)していますがもう一方は正常なため、すぐには病気を発症しません。その後、正常の遺伝子が何らかの原因でsomatic mutationを起こし(2nd hit) PKDが発症するというものです。ADPKDの嚢胞は実は腎臓全体のネフロンの1%からできていて、それら嚢胞を調べると多くは固有の尿細管上皮細胞に起源を持つことがわかっています。このDNAを調べると多くはPKD1遺伝子のヘテロ接合性が失われています。言いかえると、嚢胞はPKD1における正常の遺伝子対が何らかの変異を起こしているということです。これについては、この文献この文献にとてもよく記されています。

そもそも「Two hit hypothesis」とはKnudson hypothesisとよばれ、癌の発症には複数のDNAへのhitが必要だという理論に由来しています。現在がんの発症には癌増殖を刺激する遺伝子異常(1st hit)に加え、癌抑制遺伝子の不活性化(2nd hit)の両方がないと発症しないようで、そういった意味でADPKDは「癌」にとてもよく似たものであるといえますね。
そんな癌のようなPKDの治療も急速に進んでいて、いくつか有望な新薬(Tolvaptan, Rapamycin, Somatostatinなど)がclinical trialに入っていますので、良い結果が出ることを願うばかりです。

T.S

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