「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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腎代替療法のオプション提示について

 慢性腎不全が進行してきて、いよいよ”透析“をしなくてはならない時期が近づいてきた患者さんに対して、みなさんどのようにお話をしているでしょうか?私がここであえて”透析“としたのは、「本当に透析だけが選択肢なのか」ということを皆さんに一度考えてほしいと思ったからです。日本ではどうしても「透析」という言葉が「腎代替療法」という言葉より頻繁に使われます。それは慢性腎不全の患者さんの選択肢として透析しか医療スタッフの側も患者の側も浮かばないということにつながっているのではないでしょうか?一方で腎代替療法という言葉の中には、血液透析、腹膜透析だけではなく、腎移植も含まれています。進行期の慢性腎不全の患者さんを前にして、これらの「腎代替療法」の選択肢について、偏りなくその長所、短所を日本の医師はきちんと説明できているでしょうか?
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 私が、今度9月2日に依頼されて行う講演のスライドを添付します。ここで、私が取り上げた症例の中に、50歳の男性で一家の大黒柱として働いてきた方で、腎不全で「腎代替療法」を考えなくてはいけない状態になった方を紹介しています。他院でこの方は「今すぐ入院してシャントを作って血液透析を始めないといけない」と言われ、「週3回も透析の為に病院に通っていては職場からくびをきられてしまう、透析以外の選択肢はないのか?」とおっしゃって私の外来に自分の血液データをコピーした一枚の紙切れを持っていらっしゃいました。残念なことにこの方は、腹膜透析についても、腎移植についても、さらにもっといえば在宅血液透析についても一切説明をうけていらっしゃいませんでした。私の外来で1時間近く時間をかけて、冊子やDVDを用いて血液透析、腹膜透析、腎移植についての説明を行い、腹膜透析を選択されました。1年あまりたった今もお元気でお仕事を続けられており、献腎移植の登録もされました。この方のように、「腎代替療法」の選択をきちんと説明されていないのではないかと思う症例はたくさんあります。

添付のスライドの中に柴垣先生が報告されたアンケート結果を引用させていただいていますが、実際に腎移植を受けた方のなんと50%は腎臓内科医から腎移植の説明を全く受けたことはなく、自分で調べて移植の道を選ばれたようです。これはかなりショックなことではないでしょうか?もちろん、実際移植をされた患者さんですから、移植に対する禁忌(例えばすごく高齢であるとか悪性腫瘍などで予後があまりよくない)があった方ではありません。

また、最近、当院に見学にいらっしゃる学生さんたちにいつも聞いてみるのですが、「大学の授業で日本の腎移植の成績(1年及び5年生着率)を学んだことがあるか?」と聞いてみると、みなさん「聞いたことがない」との答えです。また、腎移植の1年及び5年生着率を予想してもらうと50%とか、30%などといった数字がしばしばでてきます。ところが、スライドにも示しているように、日本の最近(タクロリムス導入後)の移植の成績は1年生着率は95%、5年生着率は90%と非常に良好で、確立された医療といって問題ありません。ところが、このような大事な情報が、学生さんや若い研修医の先生方になかなか浸透していないようです。とても残念なことです。この大事な情報を知らなければ患者さんとお話をするのも困難になってくるでしょう。

一方で、先ほどの血液透析しか説明を受けていなかった患者さんを担当していた他院の前医の立場を考えてみましょう。私も日本の現場で医師をしている人間なのでよくわかるのですが、外来で1時間も時間をかけて「腎代替療法」の説明をするのは極めて困難であり、ほとんど不可能です。日常業務は非常に忙しいですし、「今すぐ血液透析をしないとだめ」と5分で説明をしても1時間かけて一生懸命いろんな選択肢について話し合っても、医師に与えられる評価は「外来再診料」としての700円だけです。一方で病院経営にとっては、この患者さんが血液透析をしてくれれば、月約35万円の診療報酬が得られるのに対し、大学病院に紹介して、移植をしてしまえば、病院の収入は0ということになってしまいます。そういった悪循環が日本で「腎代替療法」オプション提示がきちんと行われない一つの理由ではないかと思います。

アメリカでは、診察の際に、どれくらいのレベルの診療をしたかによって診療報酬がかわります。いくつもの問題について評価を行い、患者に説明を行ったかによってレベル1からレベル5までの評価があります。また、透析施設で透析をしている患者さんのうち腎移植の適応のある患者さんのうち何%が献腎移植に登録をしているかでも診療報酬の点数が変わります。もちろん、日本とアメリカの文化の違いや法律の違いも大きいのですが、こういったシステムがアメリカで日本よりはるかに腎移植が多い理由の一つかと思います。一方で、このシステムをみて、思ったことは、診療報酬からくるプレッシャーの為に、とにかく誰でも移植登録をということで、糖尿病で脳梗塞を起こしていて、ASOで下肢を切断していて、コンプライアンスも悪く、予後が悪く、手術のリスクも高いと思われる患者も移植登録をされてしまうということがありました。そうすると、移植登録の待機リストの患者数が増加し、若くて、元気な最も移植によってメリットを受けるべき患者の移植待機時間が長くなるという矛盾を経験しました。ですので、こういったシステムにももちろん重大な倫理的、社会的問題は大きいと思います。腎代替療法の選択肢説明に対する説明に対して、もっと経済的、社会的評価が欲しいという一方で、アメリカの方法をそのまま、日本に持ち込むことは不可能ですし、問題点も多いと思います。日本としてどのような方法をとっていくのか、今後、考えていかないといけないと思います。

もうひとつ、「腎代替療法」という概念の中に含まれているのかどうかわかりませんが、私が提言したいのは、「透析をしない」という選択肢についてです。高齢であったり、悪性疾患、他の多くの合併症をかかえていたりする患者さんで、透析を開始した途端、一気にADLが低下し、残念な転帰をたどる症例は少なからずあります。「透析をしない」という選択肢を患者や家族に提示することも医師としての大事な役割ではないかと私は思っています。一方で、他の先生とお話をしていると、「透析をしないと死ぬとわかっていて透析をしないというのはどうか?」というご意見もあります。これはなかなか難しい問題だと思います。添付したスライドの中に「透析をしない」という選択をされた患者さんの症例を紹介しました。皆さんはどう思われるでしょうか?

田川美穂
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