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Re: 腎代替療法のオプション提示について

August 13, 2010
日本大学医学部附属板橋病院 腎臓高血圧内分泌内科 岡田一義

田川(村島)美穂先生へのコメントと追加

1)腎代替療法の情報提供と選択
腎代替療法には、施設血液透析、在宅血液透析、腹膜透析、血液透析と腹膜透析の併用療法、生体腎移植(血縁間、非血縁間、pre emptive)、献腎移植(心停止、脳死)があります。透析者数は年々増加し、2009年末に290,675人(施設血液透析者 280,590人、在宅血液透析者 229人、腹膜透析 9,856人)となり、透析者の95%以上が透析施設に通院するか入院をして血液透析を継続しています。一方、腎移植患者数は、1,302人(生体腎移植 1,113人、心停止献腎移植 175人、脳死腎移植 14人)です。2009年に改正臓器移植法が成立し、2010年7月に施行され、日本で初めて、本人の口頭意思表示と家族の承諾により、交通事故で脳死となった20代の男性の移植が2010年8月10に実施され、今後、年間70例の脳死移植の増加が予測されています。日本腎臓学会・日本透析医学会・日本移植学会・日本臨床腎移植学会が2009年に作成しました「腎不全の治療選択 あなたはどの治療法をえらびますか?」では、残念ながら在宅血液透析について触れられていませんでした。

在宅血液透析のメリットは、十分な透析量が確保でき、貧血・心機能・栄養状態が改善し、生存率は腎移植とほぼ同等とも報告されています。また、ライフスタイルに合わせて周囲に気兼ねしないで透析を実施でき、通院が月1回程度であり、家族と接する時間も増加し、精神的な安定が得られます。活動的な生活も可能となり、フルマラソンにも挑戦している患者もいます。施設のメリットとしては、大きな設備投資が不要であり、透析室ベッド数や透析スタッフを増やすことなく、患者を確保することが可能になります。

在宅血液透析のデメリットは、透析者と介助者への教育期間(自己穿刺、透析回路組み立てなど)が必要で、在宅血液透析の長期化とともに透析開始のための準備と透析終了後の処理などに時間を要するため介助者のストレスも増加します。経済的には、設備工事費、自宅改修費、透析に伴う水道光熱費の自己負担などがあります。施設のデメリットとしては、経済的には、在宅血液透析の保険点数は施設血液透析より低く、透析液供給装置加算は、透析装置などのレンタル費と保守管理費などに充てられているため、収入がより低くなることなどです。

在宅透析(在宅血液透析、腹膜透析)と腎移植にはデメリットもありますが、医療従事者は、患者中心の医療のために、施設血液透析だけではなく、QOLをより向上できる在宅透析と腎移植を実施できる体制や紹介ルートを早急に整備し、腎代替療法の適切なインフォームド・コンセントを行い、患者にすべてを正しく理解できる教育を提供し、患者が腎代替療法を自己選択することが重要です。

2)ボタンホール挿入
血液透析患者は、透析毎に内シャントを穿刺されています。私は、シャント穿刺部位は毎回違う部位に刺すように先輩から指導を受けましたが、Twardowskiらは、透析毎に内シャントの穿刺部位を変えるのではなく、同一部位に反復穿刺することにより、穿刺痛が軽減される上、合併症の頻度が低下し開存率が向上することを報告しました(Twardowski Z. Dial Transpl 24: 559, 1995)。ボタンホール穿刺と命名されましたが、穿刺孔が広がる可能性があり、普及しませんでした。Tomaらは、血管表面近くまでしか到達しないポリカーボネイト製のスティックと先端が鈍の穿刺針を考案し、穿刺孔は一点しかできないボタンホール穿刺法を確立しましたが、あまり普及していない現状があります。ボタンホール穿刺は、感染症発症率も通常穿刺と同様である上、痛みも少なく、理論的には大変よい方法であるため(當間茂樹.腎と透析 58: 416, 2005)、我々は當間先生にボタンホール穿刺の研修をさせていただき、Twardowskiらの方法と當間らの方法を組み合わせ、特別な器具が不要な簡易ボタンホール作製法を報告し、ボタンホール挿入と呼んでいます(飯島真一、岡田一義、他. 日本透析会誌 in press)。透析開始時通常の穿刺針で穿刺し、次回以降の透析開始時、穿刺孔に形成された痂皮を剥がし、前回と同じスタッフが同じ穿刺針を用いて同一部位に同一方向に反復穿刺します。この穿刺作業を担当した1人のスタッフが穿刺抵抗の軽減を感じるまで繰り返し、穿刺抵抗が軽減した時点をルート完成と判断し、次回透析より通常のカニューラ穿刺針は使用せず、先端が鈍の穿刺針を用いて挿入を行う簡便な方法です。
ボタンホール挿入と通常穿刺の痛みを比較すると、ボタンホール挿入によりまったく痛みを感じないか軽減する患者が60~80%、同様の患者が10~30%、強く感じる患者は約10~20%であり、中には痛みが増強する患者もいますが、針刺し事故の防止にもつながるため、医療従事者はボタンホール挿入をまず研修し、技術を習得することが必要です。

3)透析療法の中止・未開始
 私の考えは、日本透析会誌に書き、私案(透析中止のガイドライン、透析延期のガイドライン、延命治療不開始のガイドライン、延命治療中止のガイドライン)を提示していますが、日本透析医学会は学術小委員会血液透析療法治療ガイドライン作成ワーキンググループ「導入基準・非導入・中止グループ」を立ち上げ、検討を開始しています。
質の高い在宅医療および終末期医療を確立するためには、すべての国民が日本国憲法13条で認められている個人として生きる権利を行使し、終末期にも自分が考える尊厳ある生き方を貫くということから始め、多くの国民が事前指定書を尊厳維持のために必要であると認識することが重要なステップです。生前の自己意思表示である「尊厳生」による事前指定書を作成し、普及させるために、じんぞう病治療研究会のホームページに掲載し、ダウンロードできるようにしています。
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