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肝腎症候群 その2

今回は治療についてです。
肝硬変と腹水に伴った急性腎不全はHRS の可能性が高い場合も腎前性腎不全を必ず否定する必要がありますのでまずは生理食塩水などの等浸透圧性輸液とアルブミン(1g/kg/day) によるvolume expansionを試みる必要があります。また腹水による腹腔内圧の上昇(abdominal compartment syndrome)が疑われる場合は腹水穿刺を行い腹水の除去を行う必要があります。この場合もアルブミンの補充が必須です。現在ある治療選択肢は大きく分けて血管収縮治療とTIPS (Transjuglar intrahepatic portosystemic shunt)です。
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血管収縮治療は1) Midodrine + octeriotide 2) norepinephrine or terlipressinが現在もっとも多く行われている治療です。1)についてですが、midodrine(血管収縮作用)とocteriotide(門脈圧を下げる)はアルブミンとの併用が前提としています。おそらく米国ではこれが最もよく行われている治療ですがそれをサポートするエヴィデンスはいまのところありません。前向き臨床研究はいずれ小さいものですが死亡率、腎機能の改善に至ったと示されています。この治療が有効な例はいずれも平均3日程度でMAPの上昇と尿量の増加がみられます。後ろ向きデータ解析でも同様の結果が示されています。面白いことにこのstudyではMidodrineの量に治療反応性の相関はみられませんでした。

欧州で認可されているterlipressinという血管収縮薬はとても良いようです。この大きなランダム化臨床試験によるとプラセボ+アルブミン群に比較してterlipressinの治療(14日間)は腎機能(Cr<1.5)と短期死亡率の改善(14日目)に加えHRSの再発が少なかったとしています。Midodrine+octeriotideとterlipressinを比較した試験は要旨のみでの結果によると30日での生命予後に差はなかったものの、responderはterlipressin(92%)midodrine+octeriotide (54%)と前者に多かったとしています。では古典的なnoreinephrineとの比較はではどうでしょうか?これら小さなpilot studyによるとHRSの治療成績に差はないとしています。すなわちHRSの治療で最も大事なのはMAPを上げることであるとこのpool analysisでも強調されています。一つの機序として末期肝不全では交感神経系の活性から、腎血流のautoregulation curveが偏移していることが考えられています。すなわちHRSのでは血圧を通常よりも高く保たないと腎血流量は上昇しない可能性があります。したがってHRS患者が一般病棟でmidodrineで反応しない場合、ICUへ移しnorepineprineやterlipressinの投与により血圧をさらに上げるか後述するTIPS で交感神経系の亢進を抑制する事が重要になります。

アルブミンの投与はいずれの治療薬との併用でも大事になってきます。肝硬変とSBP(Spontaneous bacterial peritonitis)を伴った患者に抗菌薬(cefotaxime)にアルブミン(初日1.5g/kg/day、以降1g/kg/dayを3日間投与)を投与した場合とそうでない場合をみた結果、腎不全と死亡率(3ヶ月)に有意差があったとしています。またHRSでteripressinにアルブミンを併用した場合としなかった場合も腎機能と死亡率(3ヶ月目)に差がみられたとしています。

ではlarge volume paracentesis (LVP)はどうでしょうか?いくつかのstudyでLVPは腎機能を悪化させるという報告をしていますが、例えばこの報告をよく読むと腎機能の悪化はAKIではなくCKDであることがわかります。最近のstudyでは血行動態のモニタリングのもとLVP+アルブミンにより腹腔内圧を平均で25から9mmHgに下げた場合、腎機能の改善がみられ安全性も確認されています。

TIPSは数々のstudyがHRSへの有効性を示しています。TIPS は経静脈的にカテーテルでアプローチし、肝静脈と門脈に交通をもたせ門脈圧を下げる手技です。これにより消化管出血や腹水を減らす他、HRSでは腎機能の改善や交感神経系の亢進を下げ生命予後の改善につながるとしています。患者の状態をみながらですがTIPSを行える状態であれば行うべきです。

最後に末期肝不全で透析をするか否かについてひとこと。結論から言うとしてもしなくても生命予後に影響はきたしませんので肝移植の可能性がある場合を除き、個人的には透析はオファーしません。このあたりはいろいろな意見があるようですがこれら文献を見てください。

まとめるとHRSは除外診断なので最初はアルブミンなどでvolume expansionを行い腎前性腎不全を否定する必要があります。腎血流を保つのに大事なのは血圧を上げること。また腹腔内圧が高い場合は腹水穿刺をを行うことも考慮し、可能な限りTIPSを行うべきです。ただしHRSに関連した大きな臨床研究がないことから標準治療はいまのところ確立されていません。以上、HRSの病態から治療まで簡単におさらいしました。

T.S
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