急性腎障害(AKI)によって、透析を必要とする患者さんを受けもつと、必ずと言って問題なるのが退院後どうやって透析を続けるかです。米国の慢性維持透析は、Medicare(基本的に65歳以上を対象とする、連邦の保険)によってカバーされます。ただしAKIによる透析は、入院中にはその費用は支払われるものの、外来の透析クリニックでは対象外です。
ではこういった患者をどうするかというと、AKIの発症からおおよそ、6-8週間経っても回復の見込みのないAKIはESRDの診断をして、慢性維持透析患者として登録するわけですが、問題は、まだ早期(AKI発症4週未満)でもESRDの診断をつけたりと、法的に取り上げると問題となるケースも多々あるわけです。
またESRDの診断をつけるまでの間、ずっと入院というわけにもいけません。
私のいる大学病院ではどうしているかというと
1)病院がお金を払って、近くの透析クリニックに透析を依頼するか、
2)近隣の患者さんには、病院内の透析室に通ってもらい透析をしています。
ただ、2)は外来扱いとなるので、病院は一銭も還付されないどころか、病院の人件費や施設費を考慮すると、1)のほうが安くなるため、現在はほぼ1)をしています。
ちなみにUSRDSのデータから引用したグラフをみてもわかるように、米国における、新規血液透析患者の1年死亡率は25%と高く、透析開始から最初の3ヶ月にその多くが集中することから、Medicareは新規血液透析を開始する患者(65歳未満)には、3ヶ月経過しないと、Medicareを付与しないのです!(言い換えると3ヶ月生き延びたら適応する)。
ちなみに腹膜透析を開始した場合は、day1からMedicareが適応されます。
オバマ大統領は2015年6月にTPP(環太平洋パートナーシップ)の協定にサインをしましたが、驚くことにこの中に、「AKIによる外来透析」に対してsocial security actの一部修正を組み込んでいます(P.58 SEC 808)。なぜTPPに組み込まれたかは詳細はわかりません。この修正案によると、2017年の1月1日から、AKI患者が透析を要する場合、外来で施行可能になる上、Medicareからその費用が支払われます。その還付金額や方法など詳細は未定であるものの、腎臓内科医や患者にとっては嬉しい内容です。
問題は、AKIによるHDにはESRD によるプロトコールは適応にならない(EPOやビタミンDやドライウェイトなどの設定)上に、そういった患者には、蓄尿や毎週最低は一回の血液検査をするなど、より多くのタスクとチェック項目が必要になり、ただですら忙しい腎臓内科医にとって多くの負担がのしかかることは確かです。医師なのか、ナースプラクティショナーなのかなど、誰が見るか?またどのようなプロトコールを元に、AKI患者をフォローしていくかなど解決していかなければならない問題はありますが、これはとても大きな一歩だと思います。
TS
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