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悩ましい透析患者でのMRSA血流感染症 Part 2 ( 耐性)

S. aureus (今回はMRSAに絞ります) が血培から検出された場合、もちろん抗菌薬治療が必要でvancomycinのトラフを15-20 mg/Lに保ちながら上述の期間治療します。当院では幸い薬剤部が入院中のトラフと投与量をモニターしながら、退院までに適切な量、投与間隔を教えてくれるのでそれに従っています。ただ、退院後にトラフがずれる例も多く、長期投与では、home infusion companyと連絡を取りながら微調整が必要な場合もあります。最近問題になってきているのはMRSAの中でもvancomycin のMICが高い株が増えてきていることです。
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CLSI (Clinical and Laboratory Standards Institute: 微生物の抗菌薬への感受性、耐性を分ける”breakpoint”と呼ばれるMIC値の定義、改定などをしている) の基準では、vanomycinのMICが≤2 mcg/mLであれば感受性 (susceptible) と判定されるものの、IDSAではvancomycin のMICが2で臨床的な改善が認められない場合、vancomycin以外の治療薬を考慮した方が良いとしています。これには例として以下のような理由が挙げられています。

1) h-VISA (Heterogeneous Vancomycin Intermediate Staphylococcus aureus) 患者に感染しているMRSAの集団のうち、vancomycinへの感受性が良いものと今ひとつのものが混ざっているためMICが高めに出る。このため、vancomycinを使い続けていると感受性の悪い株を選択していることになる、
2) Vancomycinの臨床的効果を得るためにターゲットとするAUC/MIC≥400はMICが2以上では到達しがたい。
また、hVISA やVISA ではvancomycinが使えない場合の治療の切り札となるdaptomycinへの感受性も悪くなるという報告もあります。いまだにcontroversialな領域ですが、IDSAのMRSAガイドラインに2人のauthorが入っている当施設では、vancomycinのMICが2の場合、原則としてdaptomycinでの治療を行っています。Linezolidもオプション (特に肺炎例では肺サーファクタントで不活化されてしまうdaptomycinは使えないので) ではありますが、殺菌性ではなく静菌性であるのと血小板減少 (ESRDではよりおこりやすい) やperipheral neuropathy, ocular toxicityなどの副作用のため、血流感染でvancomycinが使えない例ではdaptomycinに分があります。Daptomycinの主な副作用としてmyopathyがあり、CPKのモニターが必須です。昨年報告された意外な副作用としてeosinophilic pneumoniaがあり、当院でも最近1例見つかりました。またFDAの承認通りの量を使用すると (ちなみに承認量よりも高容量、10mg/kgを使用すべきという意見もあります)、ESRDの透析患者に対しては6mg/kg 48時間ごとの投与になってしまうので透析日とずれてしまうのもやや使いにくい点です。

というわけで、なかなかすっきりとはいかない透析患者でのMRSA血流感染症について書いてみました。

Wayne State University感染症フェロー
早川佳代子

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