July 8, 2011
悩ましい透析患者でのMRSA血流感染症 Part 1 (ガイドライン、診断、治療)
Detroitにある当院での感染症科のコンサルト中で、最も多いのはなんといってもS. aureus、特にMRSAの血流感染です。Detroitの場合、IVDU (Intravenous Drug Use、ヘロイン) が原因のことも非常に多いのですが、各種ライン (PICC、CV), そしてHD カテーテルによるものも多いです。ここ数年、IDSA (米国感染症学会)からも立て続けにカテーテル関連感染症 (2009)、MRSA感染症の治療(2011) ガイドラインが出されています。
カテーテル関連感染症のガイドラインでは「カテーテル関連」であるための診断基準が詳しく書かれています。抜去したカテーテルのチップ培養の結果、15 colony-forming units以上の菌が見つかり(厳密には5cm以上の長さのカテーテル先端をコロコロと培地の上で転がす) 、更に同じ菌が末梢血血培からも見つかる (但しS. aureusの場合、カテーテルチップ培養陽性のみで末梢血血培陰性でも治療が勧めらています) というのが第1ですが、カテーテルをすぐ抜去できない状況も多く、末梢血よりも、カテーテルから得られた血培が2時間早く陽性になるという基準も可とされています。但し、HDカテ血流感染の場合、外来透析中にleukocytosisや発熱のため、HDカテから血培が取られ、それが陽性になったから (あるいは陽性になる前でも) 病院に送られてくるケースが非常に多く、末梢血培が得られていないことも多く(将来のshunt作成などのため採血困難な例もあり)、この2番目の基準も実際診療上有用とは言い難いです。日常診療では、他部位の感染症が否定的で、カテーテル感染に典型的な菌が陽性、HDカテの刺入部の炎症 (膿、発赤、疼痛など)、HDカテを長く使っている(何カ月以上も前に挿入された) などを手掛かりに診断している場合が多いです。
治療に関しては、同ガイドラインでは
1) カテーテルの抜去 及び
2) 血液培養が陰性化するまでに72時間以上かかっていれば4-6週間の治療を推奨しています。
もしも血培が72時間以内に陰性化し、かつTEE (経食道エコー) が陰性 (vegetationがなくIE: Infective Endocarditisが否定的) であればカテーテル抜去後に3週間の治療も可となっています。但し実際コンサルトを受けた場合、どれほど強くTEEを推奨するのかは悩ましく、1週間近く血培陽性が続いていれば間違いなく必要なものの、それ未満の場合はアテンディングによっても意見が異なります。
ごく最近CID (Clinical Infectious Diseases) に載った論文では、IEを予想するためにnosocomialなS.aureus 菌血症の場合、
1) prolonged bacteremia (>4 days)
2) presence of a permanent intracardiac device
3) hemodialysis dependency
4) spinal infection
5) nonvertebral osteomyelitisのうち、1つ以上を満たすというcriteriaを使ったところnegative predictive valueは99.2-100%であったという結果がでており (positive predictive valueは5.9-12.7%と低かった)、これを1つも満たさない場合、TEEは必要ないのではと結論付けていますが、hemodialysis dependencyは既に基準に入ってしまっているので、透析患者でのTEEの適応を絞り込むのには残念ながら有用ではありません。ただ例えば当院では、先月1カ月だけでもHDカテ由来の菌血症 (MRSAとCandidaが1例ずつ) に合併したIEの症例を経験しており、MRSA菌血症の症例は更に頸髄の硬膜外膿瘍まで合併していました。本当に少しでも疑わしければ (心雑音、塞栓症状、持続菌血症など) IEは常に重要な鑑別疾患です。
次回はMRSAの耐性についてお話します。
Wayne State University 感染症フェロー
早川佳代子
カテーテル関連感染症のガイドラインでは「カテーテル関連」であるための診断基準が詳しく書かれています。抜去したカテーテルのチップ培養の結果、15 colony-forming units以上の菌が見つかり(厳密には5cm以上の長さのカテーテル先端をコロコロと培地の上で転がす) 、更に同じ菌が末梢血血培からも見つかる (但しS. aureusの場合、カテーテルチップ培養陽性のみで末梢血血培陰性でも治療が勧めらています) というのが第1ですが、カテーテルをすぐ抜去できない状況も多く、末梢血よりも、カテーテルから得られた血培が2時間早く陽性になるという基準も可とされています。但し、HDカテ血流感染の場合、外来透析中にleukocytosisや発熱のため、HDカテから血培が取られ、それが陽性になったから (あるいは陽性になる前でも) 病院に送られてくるケースが非常に多く、末梢血培が得られていないことも多く(将来のshunt作成などのため採血困難な例もあり)、この2番目の基準も実際診療上有用とは言い難いです。日常診療では、他部位の感染症が否定的で、カテーテル感染に典型的な菌が陽性、HDカテの刺入部の炎症 (膿、発赤、疼痛など)、HDカテを長く使っている(何カ月以上も前に挿入された) などを手掛かりに診断している場合が多いです。
治療に関しては、同ガイドラインでは
1) カテーテルの抜去 及び
2) 血液培養が陰性化するまでに72時間以上かかっていれば4-6週間の治療を推奨しています。
もしも血培が72時間以内に陰性化し、かつTEE (経食道エコー) が陰性 (vegetationがなくIE: Infective Endocarditisが否定的) であればカテーテル抜去後に3週間の治療も可となっています。但し実際コンサルトを受けた場合、どれほど強くTEEを推奨するのかは悩ましく、1週間近く血培陽性が続いていれば間違いなく必要なものの、それ未満の場合はアテンディングによっても意見が異なります。
ごく最近CID (Clinical Infectious Diseases) に載った論文では、IEを予想するためにnosocomialなS.aureus 菌血症の場合、
1) prolonged bacteremia (>4 days)
2) presence of a permanent intracardiac device
3) hemodialysis dependency
4) spinal infection
5) nonvertebral osteomyelitisのうち、1つ以上を満たすというcriteriaを使ったところnegative predictive valueは99.2-100%であったという結果がでており (positive predictive valueは5.9-12.7%と低かった)、これを1つも満たさない場合、TEEは必要ないのではと結論付けていますが、hemodialysis dependencyは既に基準に入ってしまっているので、透析患者でのTEEの適応を絞り込むのには残念ながら有用ではありません。ただ例えば当院では、先月1カ月だけでもHDカテ由来の菌血症 (MRSAとCandidaが1例ずつ) に合併したIEの症例を経験しており、MRSA菌血症の症例は更に頸髄の硬膜外膿瘍まで合併していました。本当に少しでも疑わしければ (心雑音、塞栓症状、持続菌血症など) IEは常に重要な鑑別疾患です。
次回はMRSAの耐性についてお話します。
Wayne State University 感染症フェロー
早川佳代子