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腎結石update

腎結石は腎臓内科より泌尿器科にお世話になることが多いですが、先日ニューヨーク大学腎臓内科のD. Goldfarb氏がMUSCにいらした際、腎結石についてのとてもよいレクチャーをしてくれました。彼の専門はシスチン結石に関してですが、腎結石全般に関してとてもよいupdateをしてくれましたのでその内容をshareします。

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一般的に、腎結石の約85%はカルシウム結石で残りは尿酸結石と尿路感染に関連したstruvite結石、遺伝性の結石などです。カルシウム結石の80%はシュウ酸カルシウム結石、20%はリン酸カルシウムです。平均気温の上昇、肥満の増加、ERにおける CT scan施行率の増加などからか? アメリカでは腎結石は増加傾向にあります。

急性背部痛の腎結石患者さんが救急外来に来たら、たくさん点滴をして排石を試みたいと思っている人は意外に多いのではないでしょうか? しかし実際、尿管につまった結石は周囲組織の浮腫を誘発するため、NSAIDなどの抗炎症剤を投与し、適度な点滴でみるのが効果的のようです。腎結石の排石率と痛みのコントロールを大量点滴vs少量点滴で治療した結果、効果に差がないことがこの文献により示されています。シンクが詰まったら強制的に流そうとしても流れないのと同じですね。またNSAIDに加えtamsulosinを使用すると排石率が上がったという報告もあります。Tamsulosinは、前立腺肥大に使用されるα拮抗薬ですから、女性の結石患者に使用する際は薬剤師を説得する必要がありますが。。。

腎結石のほとんどはカルシウム結石ですので、食事によりカルシウムを制限すると再発予防は可能でしょうか?腎結石再発の既往がありかつ高カルシウム尿症を呈した患者を集めておこなった唯一のrandomized control trialによると、正常カルシウム/低塩分食vs低カルシウム食で5年間比較した結果、正常カルシウム食群はむしろ結石の再発が低いことが分かっています。その理由は、カルシウムは腸でシュウ酸と結合するため、低カルシウム食は、シュウ酸の吸収をむしろ増加させ、尿細管へシュウ酸の排泄を増加させたためです。また、低塩分も結石の再発防止に役立ったと思われます。理由は尿細管でNaの再吸収が行われる際、Caも同時に再吸収されるからです。

Oxalobacterをご存じでしょうか? Helicobacter pyloriに関する論文は3万もあるのに対して、Oxalobacterに関してはたった100程度しかないそうですが興味深い菌です。このoxalobacterは大腸に生息する嫌気性菌で、シュウ酸を代謝します。もしかしたら昨今の過剰な抗菌薬の投与によりこの菌が減少しその結果、腎結石の増加に関与している可能性もあるのではないかとも言われています。ただシュウ酸の吸収は小腸で行われるので大腸にしか生息しないOxalobacterがカルシウム結石にどの程度関与しているかは今後調べる必要があります。

最後に尿酸結石について。痛風患者さんは尿酸結石をつくりやすい? というのはまったくの誤解で、シュウ酸カルシウム結石が最多です。尿酸結石患者の約60%は糖尿病の既往がありますが、その理由としてインスリン抵抗性による尿細管障害が原因の一つとされます。。
集合間の介在細胞でのアンモニアの排泄能が障害され尿をアルカリ化できないことが主たる原因です。すなわち尿のpHを5.5から6.5に上げるだけで、尿中の尿酸値にかかわらず、尿酸結石の生成を予防できます。尿酸結石には尿のpHが最も大事であることがこのとても素晴らしいreviewのfigure2にすべてが集約されています。治療はcitric acid などの尿アルカリ化です。

腎結石に関して知らないことばかりでしたので大変に勉強になりました。

T.S
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