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腎不全におけるオピオイドの使用 (Part 1)

NSAIDsは血管収縮をきたしますので腎機能障害のある患者での使用は腎機能の悪化を招くことは知られていますが、オピオイドなら比較的安全に使用できると思っている人は結構多いように感じます。各オピオイドの薬物動態を知り腎不全で使用する際の注意点をいくつか上げてみます。
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Morphine
Morphineは肝臓で代謝され多くは腎臓から排泄されますので腎不全では代謝産物の蓄積が問題になることがあります。中でも活性代謝産物(鎮痛作用を有する)のmorphine-6-glucronide(M6G)は代謝産物中10%程度と少ないものの、腎不全での使用は呼吸抑制作用や中枢神経作用を増強する可能性(脳血管関門(BBB)を通過する)があるため、投与量の調整が必要になります。MorphineやM6Gはタンパク結合率が低く、比較的親水性であるため透析でよく除去されます。しかしM6GがBBBを通過し脊髄液に移行した場合は除去が遅延します。

Hydromorphoneやhydrocodone
HydrocodoneはCYP2D6という肝酵素によりhydromorphoneへ代謝されます。Hydrocodone自体オピオイド受容体に作用し鎮痛作用を持ちますが、鎮痛力が何十倍も強いhydromorphone(morphineの8倍)に比べると小さいので、CYP2D6がもともと少ない人は鎮痛作用が減弱します。Hydromorphoneは肝臓で代謝され、代謝産物は腎臓から排泄されます。代謝産物のひとつhydromorphone-3-glucronide(H3G)は鎮痛作用は有さないものの、幻覚、興奮など神経刺激症状を持つとされます。腎不全ではhydromorphoneや代謝物の血中濃度は上昇することが知られていますので、投与量を少なくするとともに投与間隔を広げる必要があります。Hydromorphoneは名前のとおり親水性で、分子量も小さくvolume of distribution (Vd)も小さいので透析で容易に除去されます。

Oxycodone
経口投与での生体利用効率が高く、morphineの2倍程度の鎮痛力を有することからoxycodoneは米国では頻繁に使用される薬です。実に世界の80%のoxycodoneはアメリカで消費されているそうです。この薬はstreet drugとしても使用され、結構な高値で売れるのでこれを目当てで来るdrug seekerも多くいます。Hydrocodone同様CYP2D6による代謝を受けるので、この酵素が不十分な人では鎮痛作用は減弱する可能性があります。代謝産物は沢山ありここでは書きませんが、多くは肝臓で代謝され腎臓より排泄されるので、腎不全での使用は代謝物の蓄積を引き起こし、鎮痛作用の増強や遷延他、副作用の増強が予想されます。OxycodoneはVdが大きいのですがタンパク結合率が50%程度で親水性のため、理論上透析では除去されますが透析に関するデータはなく、一般的に透析患者での使用は推奨されていません。

次回はcodeine, fentanyl, meperidine, methadoneについて書きます。

T.S
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