そのほかにもタイトな血糖コントロール、ステロイド、バソプレッシンなど、敗血症に対する治療は、どれも近年のトライアルではいまひとつの結果です。ある治療薬が市場にでて、ネガティブなスタディーに至る理由はいくつもあげられるかと思いますが、そもそも動物実験の段階で十分に検証されていないことが往々にあります。さらに根底の問題は、動物モデルがヒトでの病態を正確に反映していないことが多々あることがあげられます。

敗血症に限らず、腎臓領域でも同じような問題がみられます。虚血性急性腎不全モデルとしてよく使われる腎血管のクランプ(虚血再還流障害)も、ヒトでは腹部大動脈瘤の手術などの例外を除き、現実を反映しません。なので、例えばヒトでのショック、多臓器不全の病態をより反映するように、大動脈レベルで操作して、腹腔臓器全体への血流を減らすなどの工夫もみられますが、これがヒトでの現実(糖尿病、動脈硬化を患った高齢者の腎臓)を反映するかと問われれば厳しいところです。
慢性腎不全モデルは5/6腎摘などがよく用いられますが、Operator dependentな要素がさらに増えます。少しでも再現性を増すように、最近では工夫の一つとして、一方の腎に障害を引き起こした後、しばらく経ってから健側の腎臓を摘出するなどという手法があるようです。これは、一側腎障害と両側腎障害では腎臓に起こる変化が違うことを利用しています。一側腎障害(=対側腎は正常)の方が、対側腎が正常でないとき(=両側腎障害もしくは腎臓が一つしかない場合)と比べて優位に繊維化、慢性化をきたすことが知られています。一見すると矛盾するようですが、イメージとしては、正常な腎臓が対側に存在していると、障害を受けた側の腎臓は怠けてそのまま慢性的障害が進行するのに対し、正常な腎臓が存在していない場合は、障害を受けた腎臓は慢性的変化を遅らせようとがんばろうとしているようなものです(本当の理由は不明です)。
波戸 岳