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Angiogenesis: Friend or Foe?

我々の体には大小無数の血管が走っています。その血管新生の調整に深く関わっているVascular endothelial growth factor (VEGF) は多方面で長年注目を集めています。中でも腫瘍領域においては、血管新生を抑制するVEGF阻害薬が、抗腫瘍薬として近年広く普及しつつあります。VEGFに対する抗体Bevacizumabや、VEGFレセプター以降のシグナルを阻害するSunitinibやSorafenibなど、いくつもの抗VEGF薬が市場にでており、我々腎臓に関わる者も、それらの薬の作用、副作用を知っておく必要があると思います (Lancet)。
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副作用:端的に言うと、抗VEGF薬はvascular healthを阻害するために、高血圧をきたします。薬の使用開始直後に血圧がはねあがることも少なくありません (Fig A: CJASN)。また、使用開始数週間後には高度の蛋白尿がでることも珍しくありません。これは糸球体のpodocytesにVEGFが高濃度に発現していることが関係していると思われます (Fig B: Am J Path)。さらに、thrombotic microangiopathyが抗VEGF薬により起こることも知られています (NEJM)。
血圧が高くなるのは、抗VEGF薬が効いている証拠でもあり、事実、血圧上昇が見られたほうが腫瘍治療の予後が良いという報告が散見されます (Ann Oncol)。 最近の臨床試験では、高血圧になるまで薬の量をあげるというプロトコールが存在すると耳にしました。

一方で、VEGFの作用を増したほうが病態の改善につながる例も多数あります。ここでは、腎臓内科医が関わる病態の一つ、preeclampsiaを例にあげます。Preeclampsiaは、血管新生のバランスがpro-angiogenicからanti-angiogenicに傾きすぎるために起こると考えられています。
健全な胎盤発達のためにはVEGFやplacental growth factorなどが必要ですが、pro-angiogenicに傾きすぎないように、胎盤からはVEGFのシグナルを減少させる物質も同時につくられています。このVEGFシグナルを減少させる物質は、一般にsoluble Fms-like tyrosine kinase 1(sFlt1)、もしくはsVEGFR1といわれ、端的に言えば、VEGFのレセプターが細胞膜から分離して浮遊しているようなものです (Fig C: KI, Circulation Research)。sFlt1が血中に大量に浮遊しているとsFlt1と結合するVEGFが増え、結果、細胞膜上に存在している(細胞内にシグナルを伝達することのできる)VEGFレセプターと結合するVEGFが減少することになります。つまり、sFlt1が増えるとVEGFのシグナルが減少します。
sFlt1, VEGF濃度とpreeclampsiaの発症には強い相関関係があります (Fig D: JCI, Fig E:, NEJM)。それゆえ、sFlt1, VEGFなどを測定してpreeclampsiaを早期診断できないかというスタディーも行われています(Am J OBGYN)。Preeclampsiaと他の病態(慢性腎不全、高血圧やてんかんなど)を鑑別するのに、これらの測定はもしかしたら有用なのかもしれません。
最後に治療です。sFlt1に対する抗体をつくりsFlt1を減らせばpreeclampsiaを治療できるのではないか、というのは皆思うところですが、実際に妊婦に対する新薬が認可される可能性は非常に低いです(大昔にOxytocinが認可されたのを最後に、アメリカではその後一つも認可をうけていないと聞きました)。そこで、ハーバードのKarumanchiらのグループは、コレステロール吸着膜を使用してsFlt1を取り除く方法(apheresis)を選択しました。彼らはsFlt1測定が既に認可されているドイツで共同臨床試験をしています。コレステロール吸着は、強くマイナスにチャージしたDextran Sulfate膜を使って、強くプラスにチャージしているApolipoBを吸着するのが原理です (Fig F)。 sFlt1はisoelectric pointが9.5と、生理的pH下にて強くプラスにチャージしている蛋白なので、ApolipoBと同様、Dextran Sulfate膜に吸着されます。つい最近のCirculationに最初の数症例の結果が発表されました (Fig G: Circulation)。

波戸 岳
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