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不法移民の透析

こんな記事がありました。
アメリカには不法移民が1100万人以上いるとされ、そのうちESRD患者は6000人ほどいるようです。不法移民は医療を受ける際は何でも引き受けるcounty hospitalなどのERに行くことになります。ERは原則、不法だろうがなんだろうが、sick patientは見なければならない法律になっています。ですが通常こういった人たちは、週3日透析をルーチンで受けられるとは限らず医学的には必要と分かっていても採血をしてKが高かったり、胸痛、呼吸困難など絶対適応がない限り透析させてもらえません。
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アメリカの透析費用は一人あたり約72000ドル/年で、通常はmedicareとよばれる国の保険でまかなわれていますが、不法移民は当然この保険の適応外になりますから自費(無理)かだれか(国民の税金)が払うことになります。コストはこれだけにとどまりません。ERで透析を受けますから上記に加えERでの人件費、X線、検査など毎回の受診費用を考えると莫大なものです。多くはアメリカに職を求めてきた若い人たちや自国では透析治療という選択肢のないといった人たちが大半です。

NYブルックリンにあるKings County Hospitalの外来透析患者の7割は不法移民だそうです。ここのフェローに以前聞いたびっくりした話です。フェローになって初めて見た透析患者は、60歳カリブの女性でJFK空港から直接救急車で来院、主訴:fatigue.採血するとBUN 450 Cr 75 HCO3<5 だったそうです! (ものすごいuremic breathがしたとか)
事情を聞くと、自国では透析を受けられないからアメリカに住む息子が母を呼び寄せたそうです。こういった患者はtunneled catheterを挿入され、透析を受けますが、シャントを作ってもらえることはありません。外科医は不法移民の手術をしてもまったく収入にならないからです。腹膜透析はERを受診しなくても家でできる分コスト削減になるはずですが、同様の理由から腹膜カテーテルを挿入したがる外科医がいません。

私のいるチャールストンの病院はcounty hospitalではないのでこういった人たちはあまり見かけません。先日いた同様の患者さんは、カテーテルを入れ数回透析後、自国(ブラジル)に帰っていただきました。ただ多くは貧困国から来ているため、慢性疾患で専門治療(透析や化学療法など) が必要な患者さんは強制退去ができないのが現実のようです。。この国は移民を受け入れ大きくなった国の一つでそれが強みなわけですがその半面、不法移民問題は医療のみならず大きな悩みの種です。

ちなみにERでの透析は不法移民に限らず、コンプライアンスの悪い透析患者さんではよくあることです。朝起きたら透析クリニックに行く気がしなかったから透析を飛ばし、数日後、ERにきて透析をする。ひどい場合、自分の好きな時に透析をしてもらうためにERばかりに来る患者もいます。アメリカで働くと日本では考えもしなかったいろいろな患者さんを見ます。
日本でこういった事情はまれでしょうが、仮にどこか貧困国からの不法移民が
このような状況になったら、どういったことになるのでしょうか?

T.S
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