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Membrane transport

腎臓内科を選択した理由として、込み入った腎臓生理が好きだから、という先生方は少なくないと思います。実際歴史的にみても、腎臓生理に関わってきた先人達が、魚を中心に多くのチャンネルやトランスポーターの働きを解明してきました。
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Aquaporin channelなどいわゆるチャンネルは、細胞膜内外での選択的な物質のやり取りが、濃度勾配とelectrochemical potentialに従って行われます。チャンネルが開いているか閉まっているかの確率により、物質のやり取りの程度が大きく左右されます。一方、 Na+-Glucose transporterなどいわゆるトランスポーターは、ある選択的な物質がトランスポーターのconformational changesを引き起こし、その物質(とそれにカップリングした物質)の膜内外での移動が起こります。これにも濃度勾配が必要で、そもそものdriving forceは Na+- K+-ATPase (pump)であることは言うまでもありません。ちなみに、チャンネルの性質を持ち合わせるトランスポーターなども指摘されており、チャンネルとトランスポーターの違いは微妙です。また、例えば、Urea transporterは実際はチャンネルですが、誰もUrea channelとは言いません。昨年のASNで、Urea transporterの蛋白構造を解析したグループのlast authorが、トランスポーターで今まで通ってきたから今もトランスポーターと呼び続けている、と話していました。

それにしてもチャンネル/トランスポーターの物質の選択能力の高さとスピードは驚異的です。例えば、potassium channelは最初バクテリアで解明されましたが、そのチャンネルは一秒間に10の8乗 ものpotassium ionsを通すようです。このチャンネルの中心部分は非常に狭いので、potassium ionが一回につきようやく一個通る隙間しかありません。稀にはNa+の通過も起こるようですがK+と比較すると10の4乗回に一回かそれ以下の頻度でしか起こらないようです。Na+のサイズは半径0.95 AでK+のサイズ(1.33 A)より小さいのになぜ Na+がはじかれてK+が通れるのでしょうか?

前述のように、チャンネルのコアとなる部分は非常に狭いので、K+のまわりの水分子はK+と一緒に通ることができず、はじかれなければいけません。その脱水の過程でエネルギーが必要になりますが、Potassium channelは(水の酸素分子のかわりに)Carbonyl groupの酸素分子をその狭い隙間に完璧な間隔をとって配置することによって、脱水のエネルギーを代償しています。一方、Na+はサイズが小さすぎでCarbonyl groupとの絶妙な距離を保つことができません。結果、脱水が起こらずNa+と水分子はくっついたままになるため、サイズオーバーで通ることができません。イメージとしては、煙突の中を両手両足を側壁に押し付けて這い登っていく感じでしょうか。手足が短すぎても長すぎてもうまくいきません。ジャストフィットなサイズが必要です。最近はYoutubeによくこの手の映像が載っていて我々の理解を促進してくれます。

波戸 岳
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