「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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腎不全教育目的入院

最近、日本のいろいろな病院の腎臓内科のホームページをみていると、「腎不全教育目的入院」についての記述がよく見られます。食事療法や、腎不全についての一般的な内容を医師や看護師がレクチャーしたりすることを組み合わせて行われていることが多いようです。日本で腎臓内科をしている先生方には、日常かもしれないこの「教育目的入院」ですが、アメリカでの医療を経験した人間からいうと、「とんでもなく特別なこと」です。アメリカでは、保険がカバーする医療を規定しています。保険が入院費をカバーする為には、入院していなくてはいけないと明らかに考えられる医学的理由がなくてはいけません。例えば、持続点滴が必要であるとか、人工呼吸が必要であるとか、24時間連続の心拍監視が必要とかそういったことです。例えば、肺炎で入院しても点滴の抗生剤から内服の抗生剤にきりかえた瞬間、退院しないと入院費の支払いを保険が拒否します。日本のように内服に切り替えて2,3日熱が出ないことを確認したら退院なんて悠長なことはあり得ません。そういう世界ですので、食事療法の体験や、腎不全の教育を行う為の1-2週間の入院なんてありえない話なのです。
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 ところで、私も教育目的入院をやっていて、思うのですが、教育目的入院を行うと、食事療法を体験してもらうとか、スタッフによる指導ができること以外に、患者さんの性格や家庭環境や社会的状態などが非常によくわかり、有用です。外来での数分の会話では、きっちりした性格でしっかり病気や薬のこともわかっていると思っていた患者が全然、薬をきちんと飲めていなかったり、家族の協力が得られず、コンビニ弁当で食いつないでいたりしたことに気づくということもまれではありません。薬を一包化して、コンプライアンスを改善したり、腎臓食の宅配を紹介したりしています。

 アメリカと日本の医療を両方経験すると、こういう「教育目的入院」が認められる日本のシステムというのはとてもすばらしいと思います。日本の腎不全患者や透析患者の死亡率や心血管系イベント率が低いことがDOPPSをはじめとする様々なデータで、注目されていますが、その一因として、教育目的入院に代表される日本の医療の地道な努力と、患者さんの側のコンプライアンスや努力があるような気がします。「教育目的入院」というのは日本でしかできない貴重な医療ですので、いつか、多施設の大規模前向きコホートを作り、「教育目的入院」が腎不全の進行予防にどれだけインパクトがあるかというようなデータを世界に発表したいなと思います。

田川美穂
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