「日米腎臓内科ネット」活動ブログ

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高血流透析は血圧を下げる?という迷信

こちらに来て驚いたことはいくつかありますが、その一つは血液透析の血流速度です。アメリカの透析施設では体の大きさにかかわらず透析血流は平均400ml/min前後です。(血流:透析液=1:2が多い、血流400ml/min なら透析液800ml/min)日本でこの血流を取っている施設は数少ないと思います。血流200ml/min、透析液500ml/minでも通常体格の人はKT/V(透析量)1.3程度取れるし、高い血流は血圧の低下を招き、心臓に負担がかかるから良くないと思っている人が多いと思います。私も何の根拠もなくそう思っていましたが、DOPPS Studyでも高血流透析は1年死亡率の低下につながることが示唆されています。また、血流200ml/minと400ml/minで血圧の影響を比較したstudyでは、高血流の患者さんたちは血圧を逆に上昇させたそうです。調べた限り高血流が血圧の低下に至ることを証明した文献はありません。

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血圧を下げる要素は
1)除水
2)体外循環量(回路の長さと透析膜の面積)
3)透析液量
の3つだと思います。

なぜ日本では低血流が主流なのでしょう?もしかしたら、除水を静脈圧により調整していた初期の頃の透析方法が影響しているのかもしれません。つまり、除水速度は血圧の低下に関係しますので、血圧が低下すると、その頃は血流を下げることにより除水速度を調整していたため「血圧が下がると→血流を下げる=高血流は血圧低下を招く」という公式が出来上がっているのかもしれません。血流を200ml/minから400ml/minに上げるとureaクリアランスは透析膜の面積や、透析血流により違ってきますが、30%程度増加します。ただし、血流を500ml/min以上にしてもクリアランスはあまりあがりません。また血流を400ml/minにした場合、透析効率を存分に上げるためには透析液量を上げる必要がありますし、透析膜面積も大きくする必要があります。

しかし日本はアメリカに比較し透析導入後の死亡率は格段に良いです。ただし米国は一般的に心疾患の死亡率は日本と比較にならないほど高く、かつ日本と違って透析患者さんのAVシャント普及率ははるかに低いわけですから、感染症による死亡率も高いことは考慮しなければなりません。また、透析時間はアメリカのほうが短いです。血流を多くとり、短時間で透析効率を上げようという狙いもないとはいえませんが、崩壊しつつある米国の医療制度のなかではこれが精一杯なのは事実です。また患者のコンプライアンスの悪さは比較になりません。(1時間で切り上げて帰る患者さんなんて日本でいますか?)

DOPPSやフランスのTassinで行われた長時間透析(8時間)による死亡率の低下や入院率の低下を示した結果からもわかるように、透析量を上げる最も大事な要素は「透析時間と透析頻度」であることは忘れてはなりません。Single pool Kt/V=1.3で週3回透析を行ってもGFR=13ml/min前後にしか相当しませんので、結局は透析導入時の腎機能を維持した形になっているわけです。しかし透析時間と透析頻度を上げることによりGFRはさらに高くまで上げることができます(GFR 50ml/min程度)。ただ実際すべての透析患者さんへの長時間透析適用は難しいです。

日本は、欧米に比べ平均透析時間は長く、死亡率も低いわけですが単純に、血流速度を上げることにより、さらなる透析量の増加を期待できるのなら、これは十分に考慮するべきことの一つだと思います。

T.S
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