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HCV Cyclosporine

サンフランシスコのカリフォルニアパシフィックメディカルセンターで消化器内視鏡フェローをしている橋本裕輔と申します。現在1日10件ぐらいの治療内視鏡を中心とした研修をしています。仕事は週4日内視鏡を中心としていて遅ければ9時まで働いています。週1回リサーチのための時間が設けられており、充実した時間を過ごしております。
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今回は、私の経験から先生方が精通しているサイクロスポリンについて話をしたいと思います。実はサイクロスポリンは新たなHCV(肝炎ウイルス)治療薬となる可能性があります。HCV治療はインターフェロンとリバビリンと思われるかもしれません。また、なぜ免疫抑制剤を使用するのかという素直な疑問がわいてきます。私が勤めていた昭和大学の分院で劇症肝炎を扱っていました。劇症肝炎というと米国では通常移植の適応であり、他に手だてがないというのが現状です。しかし日本ではそういう訳にはいきません。同院では20年前から免疫応答が異常に爆発している劇症肝炎の患者さんにステロイドパルスや血漿交換などの治療を行っておりました。もちろんそれに加え、B型肝炎であれば抗ウイルス薬(現在はエンテカビル)、C型肝炎であれば(インターフェロン)というのが常でありました。さらに免疫を抑え、肝炎を鎮めるのに使われたのがサイクロスポリンでした。

HCV劇症肝炎患者の治療に伴う血中HCV濃度を検索したところ、明らかにサイクロスポリンを投与した症例の方が血中濃度が優位に低く、サイクロスポリンA (CsA)がHCVの増殖抑制をしていることがわかりました。さらにその後の研究によって、サイクロスポリンA(CsA)は宿主である我々のタンパク誘導を抑制することで複製を制御することがわかりました (CyPカルシニュリン(CN)/NF-AT経路P―蛋白質A)。サイクロフィリンBがHCVの複製を行っているある蛋白の活性化に必要であることが分かり、CsAは環状ペプチドでサイクロフィリンの結合部位を有していることも分かりました。つまり宿主でのHCV―RNA複製機能を抑えるのです。ただし、これだけでは複製機能を抑えるのみであり、ウイルス排除を期待できません。そのため同時にインターフェロンを投与することが必要でした。

私はこの治療を10例ほど経験しました。サイクロスポリンは血中濃度が条件によって左右されやすく、副作用も強いため血中濃度モニタリングが常に必要で、臨床的に困難でありましたが、通常の治療で失敗したジェノタイプ1の患者さんで持続的にウイルス排除できた方がいらっしゃいました。現在、副作用の少ないサイクロフィリン結合に焦点をおいた薬品がヨーロッパで臨床治験中と聞いております。欧米では抗ウイルス薬が第3,4世代と進んでいるため(非常に有効と聞いています)、将来実際に日本やアメリカの臨床の場にでてくるかどうかは現時点ではわかりません。今回は、サイクロスポリンの異なった作用について書かせていただきました。

橋本裕輔
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